ザ・オールマイティ/原初の祖
◆◇◆◇◆◇◆◇
ヘンに、落ち着いた気分だ。
さっきまで、あんなに怒り狂っていた、というのに。
「気に入ってくれたかい? 全知全能は」
そんな全ての時が静止した世界で動けるのは。
やはりというか、俺のみだった。
つまり、コイツは……
「お前は……俺か」
「キミであってキミではない。僕の名前はアダム・セイバー、人類の祖であり、始まりの一であり、キミの祖先さ」
「俺の中にいた、俺ではない俺———それはお前だったのか、アダムとやら……!」
新・二千兵戦争。その最中に発生した、俺が俺自身じゃなくなる、あの衝動。
コックが言及した、俺の中にいる俺ではないナニか。『アダム・セイバー』と名が付けられた、勝手に俺の中に住み着く誰か。
そう、その全てが、コイツだった。
「じゃあなんだ、お前か……俺の衝動を抑えきれなくしていた、もう一人の俺ってのは……!」
と、少年は顔をしかめる。
「合ってるけど……違うね、衝動は僕の中にもある。僕の、史上初の人間としての欠陥としてね」
「だったらなぜ、それを抑えなかった」
「キミと同じ理由さ。抑えられなかった。
だからこうしてキミの身体、キミの魂に『ジ・オールマイティ』を介して、転生しているんだよ。
……僕はヒトであって———厳密にはヒトじゃない、赤き土より生まれた、神に近いヒトだからね、こういうことだってできるのさ」
———だから、なんなんだよ。
「……俺の、邪魔をするつもりか?」
「そんなことはないけど……まあ、引き留めて悪かったね。
ところで———どうする? 使うのかい、ザ・オールマイティは。
時を———魔力・神力の流れを完全に停止させる神魔力領域、ザ・オールマイティ・シャットダウン・オブ・ワールド。
それが僕の———キミの力だ。
ただ、使うのなら……もちろん、僕自身の人格は、ある程度露呈することになる。
そうなった場合キミは、またいつ暴走するか分からないよ?」
『コロセ』『ムサボリツクセ』
俺の頭を犯す衝動。人の肉への果てなき渇望。
人を斬ることに、食べることに、殺すことに快感を感じる、あの異常な頭。ソレに、またなってしまうかも、と。
「…………それでも、俺は……
サナを———仲間を傷付けた、アイツが許せねえ……っ!」
完全に静止し、重力の影響も何も受け付けなくなった身体を揺り起こす。
既に落下態勢、迫り来るは死の針38本。
だが、その全てが止まっているのなら。
動かそうと力を入れ奮発した瞬間、「白の世界」より意識が戻る。
それと同時に、「アダム」と話すことで落ち着いていた心境も揺らぎ始め、昂り始める。
……そりゃあ、そうだろう。
愛する人を目の前で殺されて、怒らない者などいないのだから。
だから、お前は許さない。
◆◇◆◇◆◇◆◇
5秒経過。
全てに色が戻り、全てが動き出す。その中で、
「……なぜキサマ……瞬間移動でもしたのか……?」
たった俺だけの動きが吹き飛んでいた。
「逃がすかぁぁぁぁあっ!」
『メタル・クライシス』によって再度形成されたクラッシャーのその鋼の肉体を、斜めに両断する。
中のコード……らしきものがパチリと音を立て発光する。
「この……虫ケラが……ああっ!!」
「絶対に、許さないっ!」
逃げようと後退するクラッシャーの身体を、これでもかとまでに何度も何度も切断する。
……しかし。
「無駄なんだ、貴様の攻撃は! 地を這い、ゴミ虫のように無様に散るといい!!」
またもや飛んでくるは無数の鉄の針。
「もうそれは……見飽きたんだよっ!」
それら全てを跳び上がり回避した後、超スピードで落下する。
俺の身体がぶっ壊れてでも、ここで終わらせるしかないんだよっ!
「背水の陣、全力解放!!」
視界は白に染まる。
身体は蒼銀の魔力を身に纏い、より鮮明に光り輝く。
感覚を研ぎ澄まし、興奮する肉体を抑えつけ———、
……だめだ、やっぱり……!
「極ノ項!!」
「さっきからうるさいヤツめ! 気でも狂って叫びたくなったか!」
やはり、意識を研ぎ澄ましちゃダメだ。
この、この今の、煮えたぎった感情を武器にして戦う……!
それが俺の……最適解!
「もらったああああああっ!!!!」
音速の落下。しかし。
「…………俺の勝ち、だな!」
すんでのところで回避され、ヤツは既に構えに入っている……
ならば。
「ふっ!」
「な……何ぃっ?!」
既に振り下ろされたその刀を、0秒で上まで持ち上げ切り上げる……!
本来来るはずのない剣筋。
だがしかし、その「来るはずのない」という意表、虚を突いた打突……!
「き……ふざけやがって……!」
擦れる断面。
舞い散る鉄塵。
それは、刀が確実に命中していたことを示す。
「メタル・クライシス……!」
瞬間、倒壊した住宅より、鉄の瓦礫が全方位より襲いかかる。
「ザ・オールマイティッ!!」
一瞬、一瞬だけでも時を止め、僅かにでも有利に動ける時間を作り出す……!
そうだ、そのはずだ。この力は、アダムって誰かさんが俺にくれた切り札!
例えアレが俺の衝動で、俺の罪の象徴だとしても……ならば俺はソレと向き合ってみせる!
「ふぐっ…………」
脳内にモザイクがかかる。俺の、俺のみの意識を塗り替えんと、何かが語りかけてくる。
『コロ———』
「うるっ…………せえ!
テメェなんざ……そんな衝動になんざ……負けねぇよぉぉぉぉっ!!!!」
瓦礫を切り分け、全てが、時が止まった世界にて、すぐにヤツを斬り伏せんと跳び上がる。
……が、瞬間。
「……なんだと……どうしてそこにいる……!」
神力領域が解ける……反撃の機は相手にある……!
「ゴミ虫風情にぃ、この俺がぁっ!」
いつの間にやら、クラッシャーはその右腕に纏った鉄塊を俺目がけ薙ぎ払う。
こちらもそう易々と、薙ぎ払われるわけにはいかないが……!
「……っ……ああっ!!」
『メタル・クライシス』の影響だろうか、謎の方向より謎の力が加わり、刀が弾け飛ぶ。
「肉弾戦か……上等……!」
「諦めない?!……くだらんぅっ!!」
左腕に力を込め、食らわせるは全身全霊の拳。
骨が砕ける激痛。だが、まだ動くと言うのなら気にしない!
「ふ……クソ……カスの分際で……下等生物の分際でええっ!!」
その苦痛に歪んだ顔はすぐさま戻り、鉄の巨腕が振り下ろされる。
避けられはしない。
ここまで近距離であれば、激突は必須……
ならば……力爆!
「背水の陣、力爆!!」
今まさに殴りかからんと、後ろに引いた右腕が魔力により肥大化する。
「メタル・クライシスの真価がぁっ……っ?!」
その拳がぶつかり合った結果、起きたのは完璧なる拮抗状態。
互いに互いが拳のみに集中し、他の小細工に手を回している余裕はないこの状況において、この拳の力のみが、戦況を左右する決め手となる……!
「ず……あ……ああああっ!!」
そして、押し切った。
流れるようにして、拳はヤツの顔面を直撃。
すぐさまクラッシャーは、転がるようにして吹き飛ばされていった。
「……は、……あっ……」
「最後の、最後の言葉は、言い残すことでもあるか、クラッシャー!」




