Side-イデア:カラクリ
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時は少し遡り、イデアの視点へ。
「…………で、なぜキサマが来た? この俺様を、キサマ如き雑兵で止められるとでも思ったか?」
「でへへへへへ……イデア・セイバー……お前の存在は聞いているぞ!
魔王軍に媚び売って力を手に入れた、卑怯者だとな……でへへへへへ……!!」
「……ふん。キサマは俺のことを全く分かっちゃいない様子だな……
デカいだけの脳なしめ……その無駄にデカい頭で、少しは言葉遣いに気をつけたらどうなんだ?」
対峙。
相対していたのは。
カーネイジ、その幹部的立場に位置する魔族。
「…………全く、下品だが犬の糞みたいな色してやがるぜ、体の色から品がないヤツだ。おまけに服も着てやがらねえ。そんな体格で恥ずかしくないのか?」
……と言う通り、黄土色にして、イボのついたその巨体が特徴的な、ゴブリンの魔族であった。
衣服は着ていない。……羞恥という概念が存在しないのであろうか。
「ふざけるなよ~、たかが人間如きに罵倒されてムカつかないほど、オデは寛大じゃねえぞ、残念だったなあ!」
「……来るか? その巨体だと、両断するのもさぞ簡単だろうな」
瞬間、その足が踏み出される、が。
既にそこに、そのゴブリンの影はなく。
「一瞬で、後悔する間もなく両断して…………っ?!」
「ふっ!」
早かった。
まさか、まさかこの俺では見切れなかった、とでも言うのか、今のコイツの、ただの突進が……!
「の……お……あ……!」
次の瞬間、目の前にゴブリンが出現する。
あまりの激突。
いくらこの俺でも、流石によろけるほどのパワー。
し……しかし、迂闊だった……こんなヤツにこれほどの速さが……?!
「でへへへへへ……お前はオデには勝てねえ……へへ……」
「な、なんだと~っっ!! この俺が、キサマのようなブタに……遅れをとるなど……!」
再度、刀を構える。
見切る、見切れるはずだ、今の俺様になら……!
アレン相手にも優勢だったこの俺だ、負けるはずがないんだ、こんな雑魚に……!
「…………来いよ、貴様如き、次に来た瞬間殺して…………っふ……あああっ!!」
腹に重い一撃。
思わず吐血。
赤い、どこまでも赤黒い血の塊が地面へと吸い込まれる。
「な、なぜだ……! なぜこの俺が……キサマなんぞに……!」
「でへへ、お前、見かけによらず、弱いな……!」
なぜ……?
なぜ見切れない……?
速すぎる、のか?
いやでも、そんなはずはない。
確かに、ヤツの走り出し……そこまでは見える……そこ「まで」は。
問題はその後だ。
まるで、この前のアレンの如く、たったの0秒でその場から消えてなくなった、と言っても差し支えのない動き。
速い……いや、もはやそのような次元じゃない……のか……?
「…………か…………ふっ……うっ!」
追撃。
やはり、やはりヤツは、攻撃の瞬間、たったその瞬間だけ消えている。
だがなぜ?
原理は?
何を用いて?
どのように?
条件は?
そもそもそれはなんだ?
魔術式か?
それとも神技か?
……だめだ、今の俺の実力じゃあ神力探知は不可能、ならば、ならばどう調べる……?
「でへへへへ~、お遊びはここで終わり、次で本当に終わりだ……へへへへ……」
……来る。
踏み出した、走り出した、しかし、ここまでの数撃、ヤツは前からのみしか攻撃していない。
……という事は……賭けだが、前のみの防御に徹してみるか……!
その姿が消えた瞬間。
下に目を向けると、赤い何か、まるで血のように赤い、2つの円状の「何か」が移動していた。
そして。
「……でああっ……へへへへ……」
決まった……?
走り出して、ヤツの姿が消えて1秒後、前に突き出した刀に感触。
瞬間、目の前に現れたゴブリン。
赤い「何か」のあった場所に出現した、ゴブリンの「足」。
そうか。姿が見えなくなる、その意味がようやく掴めてきた。
楽勝じゃないか、こんなカラクリ。見破れば、それはもう「強敵」として意味を成さない。
大体この俺様が馬鹿だった、突然のことに焦り、冷静さを欠いていた。
こんなもの、魔力を探知すれば簡単に防げるじゃないか。
……なぜならば、ヤツは『攻撃する瞬間、透明になっている』だけなのだから。
「……ふん、雑魚め、超能力———神技頼りとは情けないヤツだ」
「オデに勝った気でいるのか……?」
「当たり前だ。次で必ず、キサマを追いつめる」
「でへへ……できると……いいな!」
また、その巨体は消えるも。
やはりどうしても、その血痕、つまるところ俺が地に吐いた血痕は、消せなかったみたい……だな!
「…………ふ……ぅ……」
腹にまともに一発もらう。
……が、目標は達成した。
「あで……これは……血?!」
そう、わざと攻撃を受け、吐血し、その血をヤツに浴びせること。
そうすれば、透明になる小賢しい技も使えまい……!
「追いつめたぞ、誰も次でキサマを倒すなどとは……口にしちゃいないからなあ!!」
姿勢を低くし。
大きく、それでいて無駄のない姿勢で、腰を落としながら地を踏みつける。
いくら透明になろうと、今ならば確実に、完全に姿が視認できる……!
「お遊びは終わりだ……今度はキサマが……終わる番だ……!」
「で…………あ…………!」
やはり、肉というものはこうも斬りやすく、こうも斬っていて気持ちのいい、ものなのか。
「終わりだ、糞ブタ野郎。……キサマ如き、余興にすらなるまいっ!」
声すら上げず、その巨体は両断される。
いくらその厚い肉も、その内に芯として残っている骨さえも———我が偽造神威の前には意味を為さない。
……地面をその汚い血なんぞで汚しやがって、どこまでも邪魔なヤツだ。
さて、これから俺はどこに向かおうか、それを考えた直後———。
『………イデア、少し……レイちゃんの方を手伝ってくれない……かしら』
「…………ああ?!」
唐突に、俺の頭の中に声が響いた———!!!!




