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もしも願いが叶うなら〜No pain, no life〜  作者: 月影弧夜見
第9章:カーネイジ・クライシス・クラッシャー(CCC)
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惨めな葛藤

◆◇◆◇◆◇◆◇



「伝令、伝令ーーーっ! 至急、都民は各自シェルターへと避難するように!!」


 賑やかだった街に響いたのは、緊急用の放送回線。

 それは、センが王都を出て行って4日後の出来事だった。


「白、戦闘準備はできてる? いよいよボスのお出ましよ!」


「……もちろんだ、王がどこにいるかは分からないけど、とりあえず守り通せばいいんだろ、この国を」




 それは、過去の出来事とは真逆の展開だった。

 1度は国を壊滅させかけた俺が。

 1度この国に攻め入り、王にその刃を向けたこの俺が。



 …………あろう事か、この国を守ることになるとは思いもしなかった。




 城壁の上へと登り込む。

 見えたのは、それこそ「あの時」、二千人もの兵が攻めてきた時と全く同じ状況が広がっていた。

 ……いいや。全く同じではない。




 今は、頼れる仲間がいる。

 協力できる、パーティがいる。

 最高峰の魔法使いが。

 俺を凌ぐ剣士が。

 忠義を尽くす天使が。


 ……そして、冗談抜きに殺し合った女が。

 万全ならば、全員で黒騎士とも渡り合える魔導大隊が。




 ……だからこそ、やるしかない。

 ここで、殺し合いが起きる。

 それこそ、全てを巻き込んだ戦争が。





「……メタル・クライシスッ!」


 空気を裂くような叫び声が、王都一体に響き渡る。


「……神力式遮断結界、展開。マスター、この規模なら5時間は展開できるかと」


「ありがとうコック、とりあえず待機……でいいかな、下手に魔力とかを使うと困るからな……」






「……アレン、今すぐコックに『天撃』の使用を命令しろ」


 ……何だと?




 発言をしたのは———イデアだった。

 天撃———要するに焼き払え、と。


「……殺すのか、殺すつもりなのか、まだ何もしていな……」


 ———何を言っている?


「ああ、殺す。やられてからやるつもりか? そんな悠長なことが言ってられるのか?」


「私も同感。そもそも、今更貴方がそんな事を言える立場なのか、人斬り?」


 その会話に、レイも割って入る。

 ……そうだ、その通りだ。今まで何の罪もない人を斬り伏せてきた、それでも……


 それでも、何なんだ?



「くだらん慈悲は捨てろ。なぜ今になって躊躇う。あれだけ、あれだけ私の家族も何もかも斬り殺してみせた貴方が!」


「…………じゃあ殺すのか不意打ちで! 一瞬で! 罪もな…………あ」


「罪? 罪ならばあるはず、今までアイツらが何度王都から奪ってきたと思ってるの?! 


 アイツらは、私が従えてたただの兵じゃない、明確な悪人、明確な罪人!


 貴方はそうではないとはいえ、私も今ここで貴方を斬り殺したいくらいだってのに、何なのよ貴方は、くだらない事で躊躇うなんて!」


 レイのその熱弁に、ハッとさせられる。


 ……それは、とてもひどい事だった。

 俺がやった事に比べれば、まだ優しいものだが。


 ……だけど、なぜか、やはりそれは、どこかいけないような事な……気がして。

 本当に、俺の言える事ではないけど、それでもそんな、たった一言で殺す……なんてのは、あまりにも……



「やって」


 ……サナの、声だ。


「早く、やって、言って、白! 罪のない人が、何もない人が死ぬ前に!」


 無情な決断。

 だが、サナの中にあった「夢」が、サナの心を突き動かした。


「…………天撃……使用……許可す……」



 瞬間、城壁が大きく揺らぐ。


「……マスター、天撃使用中断! 魔力障壁を展開中です、指示を!」





「衝撃に備えろっ!」

「城壁の破片が飛んでくるぞ!」

「鉄が……鉄がこっちに……あああああっ!!」






「……何、が、何が起きて、るんだ……一体何が……」


 すぐ横にて、鉄の針に激突し、力無く倒れていく、勇者たちが見えた。




 張り裂けんばかりの心には、その血が、まるでナイフのように見えて———、


「人斬り、人斬りいっ、貴様あっ!」


「ちょっとレイちゃん、落ち着いて! 敵が目の前にいるからっ!」


「落ち着いてって、ふざけるな! 貴様が、貴様がアイツらを殺したんだ! また罪のない人を! 私は、私は貴様を……貴方を信じて……信じた……のに……!」




 ……過失、だった。

 別に、殺したかった訳じゃない。ただ遅すぎて、結果がこうなってしまっただけだ。


 ……それでも、結果的にでも、また殺してしまった。

 また、まただ、またなんだ……!

 結局俺は変わっちゃいなかった、結局殺した、結局殺したんだ、俺は結局……!!




「……白。……責任を、取れとは言わない。これは私が、渋らずに爆裂魔法でも放っていれば済んだ話……だから。


 ……でもね白、もう次はない。もう躊躇う事は、私が許さない……! 絶対に……貴方が次に迷うってなら、私は問答無用で……貴方を殺すわ…………!」


 サナにしては珍しい、突き刺すような、鋭い視線。

 絶対に許さない、という強い怒りを胸な秘めながらも、まるで覚悟を決めた兵士のような、そんな目だった。



「もう絶対に、迷わないで。生きると決めたなら。贖罪を果たすと言うのなら、絶対に、絶対に。


 ……これは約束。私と白の約束。だから絶対に、破らないで。破ったのなら、本当に私は……貴方を、殺す」






 また、また呑まれそうになった。

 眼前、直下には敵。

 無数の敵、敵、敵。

 ここは戦場。殺すか殺されるか、どちらかの世界。


 この世界において弱者、つまるところ非武装兵などはおらず、慈悲など、かける必要はなかった。


 ……しかし、俺はやってしまった。

 前の、アレ。二千兵戦争のせいで。人を殺すこと自体を、躊躇ってしまった。迷ってしまったんだ。

 もう、誰かを、そんな容易に殺すことを躊躇ってたんだ。




 ……でも。


「覚悟は……決まった……? 貴方は、貴方は戦うの?……戦わないというのなら、今すぐにこの場から立ち去って」



 ……でも、グズグズしてるから、人が死んだ。


 俺が、柄にもなく、グズグズしてるせいで。何考えてるんだよ俺、なんなんだよ急に、なんなんだよ。


 何も悪くない人が。罪のない人が。まだ生きれるはずだった人が。


 迷ってた。今まで、迷ってたんだ。

 急にこんなこと言い出して。馬鹿じゃないのか。





 ……でも、ありがとう、サナ。

 お前のその言葉のお陰で、俺はまた…………




「そうか、俺は……勇者だった……」






 なんで、守らなきゃいけない使命を放棄した?




「魔力障壁、突破されました! マスター、攻撃に備えてく———マスター?」


「嘘でしょこんな時に! レイちゃん、鉄の破片がめっちゃ飛んでくる、サポートお願い!」


「言われなくともぉっ!」


 レイはその刀で、1つ1つ、猛スピードで飛行する鉄の塊を斬り捨てる。


 ……だが、やはり1人では限界がある訳で。

「レイちゃん、危ないっ!」


 どうしても捌ききれず。



 ———最中。

 鋼鉄が打ち跳ねる。









「……覚悟、決めたよ。俺は弱かった。……だから戦う。もう2度と、立ち止まりはしない」


 


 もう一度———戦う覚悟を。






「……俺はクラッシャーからやる。手っ取り早く、犠牲が増える前に、この手で殺す……!」


「…………サポートは、できないわよ」


「構わない。もう俺は、弱いままじゃいけないから」











「……行っちゃった、白」


「どこまでも気に入らないヤツよ、ホント……!」


「フフ、でも今はそんな事、言ってる場合じゃない。後にしましょ、そういうのは。



 ……魔導大隊、魔術大投射準備! 前面の敵を、全て焼き払う!」


「…………貴女も、変わった。2年前、人斬りに泣きついてた頃とは、顔つきも何もかもが」


「そりゃあ臨時でも魔導大隊指揮者ですし? 当然……でしょっ!」

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