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もしも願いが叶うなら〜No pain, no life〜  作者: 月影弧夜見
第9章:カーネイジ・クライシス・クラッシャー(CCC)
55/88

爆裂/贖罪/渇望

********




 ……センに、どんな事情があるかは知らないが。

 パーティを離れようと思います、って言ったからには、まあそのうち帰ってくるだろうな。

 理由もなしにパーティを離れるわけもないしな。



 ……帰ってこなかったらマズいのだが。


◆◆◆◆◆◆◆◆


 ……センが王都を出ていった昨日より1日。

 俺は、というか俺たち人界軍は、カーネイジ襲来に向けた準備を進めていた。




 魔術の練習に励む者、




『……どうした、そんなものか、王直属の騎士というものは! そんな腕ではアレンには一生勝てんぞ!!』


『まだまだ、こんなんじゃ……人斬りの兄に負けるようじゃ……騎士としては失格よ……!』


 剣術の練習に励む者。








 その最中、()はというと……





 ある丘にて。

 修行に励む兵士たちを眺め、爽やかなそよ風に吹かれながら、俺たちは座り込んでいた。


「マスター、修行プロトコルを組ませていただきました、マスターがよろしければ、今すぐにでもこの私が修行を……」


「…………いや、修行は、いいんだ。というか、修行で俺が強くなると思ったその理由を聞かせてほしいところだ(そもそもプロトコルって何?)」


「こんな時に……何もしなくて、大丈夫……なのですか?」


 何もしなくて大丈夫か、ねえ……

 人の体は、そう簡単に成長するものでもないし、ずっと使い続けてればいいってもんでもないんだ。



「……俺は、ここ最近身体を使いすぎた。2年ぶりにサナと再会して、黒騎士っていう魔王軍の幹部も倒して、……んで、お前のマスター、リーとも戦って。



 そんな連戦続きだったもんだから、ここ数日だけは休めておきたいな、って」


「…………マスター、顔色が優れない様子で」


 俺の顔色が優れない?

 ———ああ、ふと何を考えていたんだろうか、俺は。


「………………ん、あ、ああ、すまん、考え事をしてたんだ」


「それは一体……どのような?」

「長くなるぞ」

「構いません」




「………俺は、また人との対決、命の奪い合いを目前にして、日和っちまってるんだ。


 ……また、また人を斬るのかと、それがどうしても、たまらなく怖くって」



 新・二千兵戦争の時だってそうだ。俺が、もはや俺でなくなった時がある。

 その時みたいに、見境なく殺しまくる機械になるのは、それだけは———。


「また、人を斬る……また……もしや、人を斬られた経験がおありで?」


「そんなに直球で聞くか……



 まあ、ある。何人も、何千人も」


「………………マスターがそんな方、だったなんて、意外でしたね……しかし、一体何の為に……」






「快楽だ」


 即答に一瞬、沈黙が流れる。


 ……まあ、そりゃあ見えないだろうな、こんな俺が、人を楽しみながら斬っていた、だなんて。


「……マスター、嘘をおっしゃられましても……」


「嘘じゃ……ないって、知ってるだろ、半分くらい」


 そう、おそらくコックは、またもや俺の心を読んだのだろう。


 ———最初から読んでいれば済む話だったのに。



 快楽、もあった。でも、それ以上に俺は……


「強制されていた、自分の中の、もう1人の自分に」


「でも、それは仕方ないことなのでは……」


「それでも、快楽の為に人を斬ったことは事実だし、俺はそんな理由で、自分の罪からは逃げられない。


 ……いや、逃げちゃダメなんだ、多分」




「変わろうと、したんですよね、その発言からして。


 贖罪を、それを為す意思があったと、私は思いますが」


「意思はあった。変わろうともした。でもダメだった。2年前、サナにも背中を押され、ようやく俺は贖罪に向けて歩き出した。


 ……はずだったけど、やっぱりまた、斬っちまった。快楽に任せて」




「……だからこそ、願っていたのですね」

「そうだな、…………お前、また心読んだろ」


「ふふっ、とりあえず言ってみてください」






「……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。師匠の掲げてた、くだらない理想論だ」



「くだらない………そうかも、しれません、ね……」


********



 コックは今まで幾度となく見てきたのだ。

『たった1つの願いを叶える』為に世界が殺し合った大戦を。


 大戦が終結してなお、自らの目的の為に殺し合いを続ける東側の大陸を。


 だからこそ、コック自身にも、白自身にも、そんなものは無理だと、そう分かっていた。それでも。




「……でも、いつかは来るはずだ。俺が、この刀を振らなくてもよくなる世界が」


「ならば、その時まで。私はあなたに、マスターに……」


「…………ああ、頼む」





 そう、マスターは、迷っているのだと。

 ……人を、殺すことに。

 この、マスターらにとって史上最悪であろう戦いを前にして。




********




「な~にしてるのっ」


 黙り込んだ場の中に1つ、水を差す女が。


「……サナ、か。………いや、ただちょっと……話とか考え事とかしてただけだよ」


「そう? 話、話ねえ……」


 ……なんだ、この雰囲気?



「マスター、私は退いた方がよろしいのでは……」


「いや、いいよ。もうちょっと陽に当たってったらどうだ?」


 急にどうした、とサナに言おうとした時、そのサナがコックの前に出張ってきた。

 ……本当にどうした?





「(誰にも聞かれないほどの小声で)普通は退かせるところでしょ?!」


「ですが、マスター……雰囲きいっ?!」

「(小声で)コック、気遣いはありがたいけど、それ以上は言わせないわよ……」




「…………なあ、何、やってんだ……?」


 コックの首を絞めるサナに恐る恐る質問する。



「あ、いや白、なんでもないのよ……?」

「マスター、やはり退きますね……」

「ちょ待てよコック、なに……」


 ……既に呼び止めようとしたコックは飛び立っており。



 場に残されたのは、俺とサナ。

 2年ぶりに再会したコンビのみであった。




「……んで、何のようだ。わざわざコックを帰らせておいて」


「なるほど、私がコックを帰らせたことになってるのね」


 ……間違ってないだろ。



「少し……ね。2人の時間が欲しかった……ただ、それだけよ」


「一緒に空でも見上げようってか」


「まあ、そうよね。……綺麗じゃない。雲1つない、晴天ってのは」


「…………白は、嫌いなのか」

「っっ……ん?!」




「何……なに……なんなの……?!


 今の、今の発言何……? プロポーズかなんかなの?! さっきまで、あんなに何も無さげな感じだったのに?!」



「…………俺は、雲が好きだ。暗雲は嫌いだが、晴天の中に紛れる、純粋な白だけじゃなく影の入った雲が、そんな不完全の白が、好きなんだ」



 白って、色の方の白か、とサナも気付いたらしい。



「…………それは、どうして……?」


「自分の姿と重ねたから……だな。どうしても、完全に白に染まりきれない自分を見て…………


 そして、雲を見てなんかその……自分を客観視できたというか、そんな不完全なモノでも、存在していいんだ、って、勇気を貰えた」



「不思議ね。そう言った弱い自分を表すモノは、大抵の人は嫌いになる……ことが多いのに」


「……白、ってさ、見てると清々しい気持ちになるんだよな。何にも染まりきってなくて、まるで赤ちゃんみたいで、純真でさ。


 だから嫌いじゃない……のかもな。感覚だから、こんなちゃんとした理由かどうかなんて、自分にすら分からないが」









 話が途切れ、しばしの沈黙。

 このままある程度空を見上げて、そのまま王都に帰るか、と思ったその時に。


「雲……作ってあげよっか」


 無意識に、俺が空に伸ばした手を見上げたサナが口にした一言。


「お得意の……爆裂魔法でか?」


「だって、なんか欲しそうだったじゃない。今の白は……なんていうか……渇望……って言葉が似合うって言うか……」


「…………渇望、か……」



 俺の、願い……か。


 文字通り喉から手が出るほど欲しくなるモノ……?

 そんなモノ、今の俺にはあるのか……






 ———一瞬だが。



 手を、伸ばした?



 この俺が?

 一瞬、見えたような気がした———夜の月に……?


 ……そんなただの幻覚に、俺は手を伸ばした……ってか。


 何の為に?

 何を求めて?


「……どう……? 白、毎日は……楽しい?」

「楽しいかって?……まあ、楽しい……かな。未だに血に塗れてるけど」





「…………贖罪。……貴方は、できてると思う……?」


「分かんない。……まだ、俺は幸せじゃないのかな……分からないって事は」


「そう。……そっか。幸せに……まだできてないのね……」


「ん、ああ、幸せなのは幸せなんだろうな、……でも、やっぱり疑問に感じてきた。こんなのが贖罪だと、()()()()()()に」


「いつかはそうなるとも思ってた……けど」


「…………俺や、お前にとっての贖罪ってのは……こういう事なんだろうけど、……やっぱりどうしても、他人にとってはそんなモノは贖罪とは言えなくて……


 二千兵戦争———レイだって、そうだっただろ。


 ならば俺は……今死ぬべきなのかと何度も何度も考えて……んで、結局……ここまで来ちまった」



「いつかは結論を出して、決着を付けるべき……よね。


 人生の命題。そう言っても差し支えのない十字架……だもの。私には、とてもそんなの……背負えない」




「……なあ、魔王を倒したとしたら、……その後俺はどうすればいいんだろうか。


 そうなると、『救世主(セイバー)』として生きてきた自分すらもいなくなって、本当に自分がなくなって……しまいそうでさ」



「いいじゃない、何者でなくたって、幸せなら、それで———。


 ……それに、今の貴方には……白って名前が、あるじゃない。……誰に誇って胸を張る救世主なんかじゃなくっても、貴方は貴方って言う人間として、生きていけばいいのよ。




 ……ああもう、やめよやめ! 嫌よこんな話、なんか別の話題ない訳?! 今までこんな暗い話題に流され続けた自分が馬鹿みたいだわ!」


「…………すまん、……別の、話題……か。


 だったらさ……魔法、とか、使ってみたいかな……って」


「雲が作れるような?」


「じゃあ、それで。あれから2年も経ってるんだ、教え方も上手くなってる……はずだろ?」






「……スプロージョン!」


 宙を裂く爆裂。人類最強の攻撃手段、爆裂魔法。そんなものを無駄撃ちしちまった。


 あまりの風速と衝撃。木も反り返るほどの。


「やっぱすげえな……そっか、俺の使いたかった魔法って、こんなのだったなぁ……」




********





 ……ああ、それか。

『渇望』それが似合う顔に、もう一度()は成り果てる。


 憧れ、だったのかな、白にとって。

 そんなモノ、もう白にはないのかと、そう思い込んでいた。……でも、あったんだ。まだそんな、少年らしい……感情が。




「……ねえ待って、よく考えたらさ……いつ攻めて来るか分からない今、撃つのヤバくない?」


 この事実に関して、撃った後に気付いた私も……まあ、相当なアホよね。


「……馬鹿野郎、バカヤロウッ!!!!」


 ……と、あっけない理由で魔法習得は終わってしまいましたとさ。



「まあいいじゃない。全てが終わったら……また教えてあげるから」


「全てが終わったらもうそんなモノ、使う機会もなくなるだろ」


「……確かに……そうね! ふふっ、私ったら何言ってんだか!」

 

「…………そんなモノ、使う機会のない世界、か……」






「それは、おそらく()()の———宗呪羅の言っていた世界、なんだろうか。


 もう誰も苦しむことのない、みんなが楽しく生きられる世界。……全てが終わったら、そうなってくれるといいんだけどな……




 ———師匠、俺は……」





「……さ、帰りましょ、こうしてる間にでも来たらヤバいわよ」

「ん、あ、ああ、そう、だな……」


 しばしの休息。

 決意は……まだ固まっちゃ……いないかもしれない、けど。








 結局、2人の時間も、意味はなかった。

 私には、私には、何かよからぬ直感がしてならない。


 このまま、放っておくと、白の姿がもっと遠く———、


 どこまで行っても追いつけない地平線の彼方、その暗黒に消えてしまいそうな、そんな不安が付き纏っていて。


 当たらないと、いいけどなあ……。

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