最適解
「……あっ、イデアさん、こんにちは……それと……はじめまして」
「パーティメンバーだろ、今更そんな挨拶堅苦しい」
「……そ、そうですよね、よろしくです、イデアさん」
「…………ああ、よろしくだ」
まあイデアさんも、何もないのに僕に話しかけた訳ではなく。
「……ソレで、あの話は本当だと思うか、お前は?」
「聞いてたんですか?!」
「本当だと思うか、と聞いているだけだ。
どうだ?」
「…………信じるしか……ないと、思います。……少なくとも、今は」
「……そうか。
……魔王軍が宣戦布告し、まるで終末戦争のような、全世界を巻き込んだ戦争が始まる。……お前は、どうする?
自分の強さに自信がないんだろ、だったらお前はどうするのかって聞いているんだ、戦場では1人の強大な敵に立ち向かうんじゃない。
———戦場では、アレンも俺も、等しくただの兵隊だ。だからこそ、今までサポートしかしてこなかったお前に何ができるのか、とそう思っただけだ」
「…………それでも、やっぱりどうしても、立ち向かうしかありませんよね」
「自分が弱いと……知っているのにか?」
「そうだろうと、僕には立ち向かう、以外の道が思いつきません」
「そうか……ならば、俺と貴様で違うのは、『気の持ちよう』、そして『力』だろうな。
後者に関してはどうしようもない問題かもしれない。しかし、『気の持ちよう』ならば話は別だ。
お前は、戦う時に何をイメージし、何を思う?」
「……どうすれば死なないか、どうすれば効率よくサポートできるか……」
「ならばダメだ」
「……え」
「お前に足りないのは、自分のイメージだ」
「イメージ?」
そう、イメージ。
「……だったらお前は、戦う前にまず負ける姿を想像して戦うというのか?」
「……普段は」
「ならばその思考はすぐに捨てろ。考えるのは、勝って、勝って、勝ち誇った顔で戦場に立つ自分の姿だ。
負ける姿など、惨めに殺される姿など、想像する意味はない」
勝った……姿を……?
この僕が……?
「そもそも、魔術はイメージだ。俺の扱う『幻想模倣魔術』も、イメージが全てで成り立っている。
……だからこそ、俺の勝つ為のモノ、と言えばイメージしか浮かばんのだ」
「あまりも強大すぎて戦慄してしまうような敵を前に、勝つ姿を想像しろ……って……?」
「……くだらない。自分が弱いなどと言う固定観念はすぐに捨て去れ。
———そして想像しろ、勝者の自分を。綿密に、徹底的に。そして勝った姿から、今の自分の最適解を導き出せ。
……それが、俺からのアドバイスだ。勘違いするなよ、お前の事を気遣った訳じゃない、パーティメンバーがこんな体たらくでは締まりがないからな」
「……あ、ありがとう、ございます……」
そう言うとイデアさんは、まるで最初から興味などなかったかのようにスタスタと行ってしまった。
何だったんだろう。急に。
イデアさんって、こんな世話焼きな人じゃなかったのに。今までツンツンしてたから唐突にツンデレみたいになってしまったけれども。
……それでも、そのアドバイスはとても的確だった。
敗北、敗北、どこまで行っても敗北続き。
『努力すりゃ報われる』そう言う人もいるけれど。
それでも僕はどうやったって報われなくって。
……でも、イデアさんは、僕の弱さについては触れなかった。
多分その事についてはあの人も分かってて、なおかつ触れなかったんだと思う。それでも、あの人は、僕の直すべき点を述べてくれたんだ。
…………今の自分の……最適解……
「セン。……ヤツはおそらく……アレンをも越える逸材だろうに。惜しいヤツだよ、ホントに」
———一方。イデアは1人、誰にも聞かれないように呟いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
『この概念武装は『逆転』の概念が付与されておるのじゃ。……まあ使う機会のないオンボロ品だしな』
数年前、じいちゃんが言ってたな。
『逆転』の概念武装。性質、概念———使用者の思うように、着弾点の何かを逆転させる最終兵器。
僕の家に伝わる2大概念武装の1つ、展開長身逆転概念弾装填可能式狙撃銃『アンチバレル』。
……いつ聞いても長すぎんだろとかいう名前だけども。
銃って、そもそもなんだって話だけども。
紅黒き銃身、その砲身に刻まれた、水色の線。
僕の身体よりも数倍デカい銃身に、いつ使うかも見極められないその代物だが、ようやく使える時が来たのか……?
……それと、もう一つ。
2大……なら、もう一つもあるんだ。
それは遥か昔、神域に達した魔術師がその概念を付与してみせた、概念防護『アルビオン・プロテクトアーマー』。
2大概念武装、そのもう片割れ。
……昔々、本当に気の遠くなるような昔、『アベル・セイバー』なる魔術師が、こことは違う、遥か遠くの次元から———、
———この世界とは、平行にある世界より持ち出した、ある『伝説』を概念として刻んだ鎧。
どちらも僕には扱えないような代物であるが。
あの白さんならば扱いきれるかもしれない、と。
本当ならば、2人の力を1つにできる『融合』の概念装置、『フュージョンコイル』を使うのもいい……のだが、それは今どこにあるのかは全くもって分からない……から。
◇◆◇◆◇◆◇◆
今、僕が出せる最適解。
それは、大戦が、世界を巻き込んだ最悪の戦争が始まる前に、この2つの概念武装を白さんたちに届ける事。
……何の役に立つかは分からないけど、それでも戦場にいて、足手まといになるくらいなら。
……その為には、またあの村に帰らなきゃならない。
それでも。
「白さん」
「……どうした、セン?」
「ちょっと、パーティを離れようと思います。少し、やらなきゃいけない事ができて……」
「……そうか、何がなんだか分からないが、俺たちと一緒にいなくても———」
大丈夫なのかと、そう聞きたいんですね。
大丈夫です。僕は僕なりに、考えて動きますから。
「……はい、大丈夫です。それじゃ、行ってきます」




