幹部襲来(Ⅳ)
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王城の戦いより2時間。
「……なんだなんだ今度は! 地震……か?!」
王都の宿、その一番大きな部屋を借り、体力の回復を図っていた俺たちを襲ったのは———衝撃。
「地震……一体、何が……それよりも……王は……ユダレイ王は……」
それまではベッドにて眠っていたレイだが、その地震(?)を感知し飛び起きる。
「ああもう、レイちゃんは眠ってて! 安静にしなきゃダメでしょ!……ハムハム……っ」
休息をとりながらも、雑に食糧を頬張る俺たちパーティ。
……それもそのはず、逆にアレだけ何も食べず魔力行使やら身体活動ができたのはかなりすごいことなのだから。
「……なあ、レイ。……いや、そう馴れ馴れしく呼んでいいのかは分からないけど……何でそこまでして、王に執着するんだ? お前は……俺に怨みがあってここまで……」
先に食糧を平らげた俺が質問する。それもそのはず、その事こそ、この俺が今の今まで疑問に思っていたところなのだから。
「そう、確かに……私は……私たちはお前に怨みがあった。だからこその復讐……だからこその戦いだった。……でも」
「俺が……殺したくないって言った……からか?」
「それは……そう。私は、あなたが仮名を付けてまで旅をしている理由に気がついた。
……私の勘違いかもしれないけど、あなたが今、正しいことをしようとしているって事だけは、分かった」
「……だからこその、あの涙か」
「あまり口にしないで。一応今の私は、人界王直属の騎士。そんな事広められるのは不名誉。
……それに、私も変わらない。己が目的の為に、人を殺した」
「……んで結局、何でそうなったんだよ」
「それは私が———」
レイの口より語られたのは、2年前———新・二千兵戦争の際の、人界王との邂逅の記憶だった。
聞いて驚いたが、人界王はあの戦争を収めるために、わざわざ現地まで出向いたという。
……そうして、王は瀕死になったレイを助け出し、即座に近衛騎士に任命した———と。
「……へぇ……アイツが…………なるほどなぁ、あの王にも、いいところだってあったんだな……」
「親父さんの……処刑の件?」
……そういえばそうだった、俺たちは王様に一度処刑されかけたんだった。
「もう根に持ってないさ、それよりも俺は、お前が生きてた事が嬉しかった。……色々と複雑だけど、生きててくれて……ありがとう」
「大量虐殺者が言うセリフか、ソレが」
……本当に申し訳ないと思ってます。
「まあ…………貴様も、そういうヤツだったのだな、と……」
「そう言えば白さん、コックさんが未だに帰ってこないんですけど、本当に大丈夫なんですか?」
なんだかんだあって、結局避難せずに帰ってきたセンが質問する。
「大丈夫だって、アイツはひょっこり帰って来るさ、例えば空を飛んで帰ってきたりs……」
ドンガラガラガラガッシャーン。
再度ここを襲った衝撃が、一つ。……どうやら、この推測は当たっていたっぽい。
「……何、コレ……」
壁が崩れ、すぐそこに墜落した何かを皆が凝視する。……アホかよ。
「……な、言っただろ? すぐに帰ってくるって」
「マスター、こんなところにいらして……!」
一面に広がったクレーターの底から、その顔を出したコックが、1人歓喜に打ち震えるが。
横では、憤慨に打ち震えている魔法使いの姿が。
「……だからって、帰ってくりゃいいってもんじゃないのよーーーーっ!!」
つい先日、と言うより今も資金難に追い詰められているサナの、悲痛な叫びが響き渡った。
……そう、もうこれは弁償ものなのだから。
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んで、コックが帰って……墜落してきて1時間。
「……それで、拉致されたから、壊滅させてきた、だってえ??」
「いえ、マスターの脅威になるかと思い……もしや何か、私が思い至らない点があったのですか?!」
コックが告げたのは、カーネイジの1拠点を完全に壊滅させたこと、そしてクラッシャー本人と引き分けたこと。
……むしろ、コックほどのやつでも引き分けにしかならないほどに強いのか、クラッシャーって。
「……いいや、もういいよ、結局その……クラッシャーってヤツは倒せてないのか?」
「申し訳ございません……私の切り札、『天殺撃』を以てしても、倒せたかは微妙なところで……」
「どーするサナ、これきっと後数日で攻めてくるぞ、カーネイジの拠点って無数にあるんだろ?」
「早急に対策を……立てないとね。数日で攻めてくるにしろ何にしろ、警戒体制にしておく事に越した事はないわ」
「…………そー言えば、何でサナってそんな命令できる立場なんだ? どっちかと言えば処刑の件で国家反逆者な気が……」
ずっと疑問だったが、やたらと知り合いも多くなってるような……そんな気がする……
「前にカーネイジが攻めてきて、王都が壊滅状態までに追い込まれた時。
白が完全に眠ってた時、私は幹部を倒したその腕を見込まれて魔導大隊の指揮官……って事になったわ。臨時だけどね」
「やっぱお前って凄かったんだな」
最近になってよく実感する。
「やっぱじゃなくて、元から凄かったでしょ?!」
「……はいはい、2年前から凄かったよ」
「なんっでそんな薄情なのよ!」
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「……楽しそうだな、白さんたち」
それを横目に見るセンの背後より、忍び寄る魔の手が一つ。
「っ………………!!」
叫び声を上げることすら虚しく、センの心は恐怖に包まれる。
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これは……人?
人の腕…………なのだろうが、なぜか引きずられる。
魔力反応は……? ここまで邪悪な魔気なのに誰1人気づかない……?
これが……クラッシャー……? でも、アイツならもっと強引にするは……
「喚くな、泣くな、叫ぶな、怯えるな。祈りをもって捧げよ。
……聞こえますか、少年」
耳元で囁かれる、どこまでも虚にして、それでいて包み込むような優しい声。
しかして一瞬にて変わったその口調が、その不気味さを加速させる。
「私の名は……ダークナイト。元魔王軍幹部、その一角です」
ダークナイト……魔王軍の幹部、最後の1人。『撃墜王』とまで称されたその腕は、まさに誰にも負けることはなかった最強……と言っても過言じゃなかったが。
……元? 今コイツは、元って……!
「実は伝えたいことがありまして……
まず、私は死にました」
……はい?
「正確には、死んだことになっています。魔王軍からしては、ですが。殺したのは白、という事になっているでしょう」
「……」
「それがどうした、という顔ですね、本当は1つ、警告をしにきたのです」
「……っ!」
「魔王軍幹部が全て消え去った今、魔王軍はトランスフィールド諸国含め全世界に宣戦布告を行おうとしています」
「?!」
「布石を打っておきたかったのです。
貴方の家にはあると伝え聞いていますよ…………魔王に対抗し得る、3つの概念武装が。
……勝つつもりならば、ソレを使うしかない」
———アレ、か。
アレを使えって、僕に言うつもりなのか。
……つまり、取りに行け、と?
コイツの言葉を信用して……取りに行けと?
「誰が……お前なんかの…………!」
「別に、信用しないのならばそれで良いのですよ。
ただ、まあ———抵抗することすらできず、滅び去りたいと言うのなら……ソレもありでしょうか。
このことは口外しないようにしてください。特に、白さんには絶対に」
「なぜだ、何で言っちゃいけないんだ……!」
「今のヤツでは、魔王になぞ勝てはしません。
ヤツが魔王に打ち勝つためには、確実に———貴方の持っている物が必要なはずでしょうしね。……故に、そのための布石ですよ。
…………では」
「ちょっと、待っ———!」
途端、拘束が解かれ、重苦しかった空気が急に軽くなる。
何が起きたかなんて正直分かったもんじゃないが、それでも明らかに……何か、大きな異変が迫ってきていることは分かっていた。
……まるで、気付かれずに暗黒を伸ばす影のように。
「僕…………は…………」
どうすればいいんだろう。さっきのヤツの言葉を信用すればいいのか。
でも、ヤツは魔王軍幹部筆頭だったはずだ。
そんなヤツの言葉を簡単に信用するわけにも……だからって、もう実際に幹部はヤツしか残っていないわけで、ここで殺しに来たんだったらもう僕は死んでるはずだし……
布石、か……
つまり、白さんに……魔王を倒させたい、と?
何のために? 白さんがやることに、何かの意味があったりするのか?
……分からない、やっぱり何も分からないけど………………どう、すれば……
「何をぐずぐずやっているんだ、セン。そろそろ準備の1つでもしておいたらどうだ?」
考え伏していた自分の意識を呼び戻したのは、あまり面識のなかった白さんの兄、イデアさんだった。




