襲来
「お前……あの時の……」
「………………そう。一度は貴様と、殺しあったことのある女。名はレイ。レイ・ゲッタルグルト。
……人界軍近衛騎士大隊、近衛騎士団長を務めている。こうして、名乗るのは初めてであったな」
殺しあったことのある、か。
「……2年ぶりだ、その再会を祝いたいところだが……今は王への謁見中だ、その刀を下げてくれ。
王の騎士として、私情を持ち込むのは違うだろう?」
あの女は……いやレイは、その言葉を聞いた瞬間刀を下げ、膝下にて跪く。
「無礼をお詫びする、勇者よ」
……なるほど、人界王にもそんなことが言えたのか。
あのようなことをしておいて。
……まあ、冤罪ではないのだが。
「人王陛下よ。用件は……」
「ああ、既に報酬は用意しておる。……先日の未確認鋼鉄物体の依頼での弁償から差し引いた額となるがな。
それでは、パーティ名ワンダー・ショウタイムよ、貴様らの功績を讃え、ここに報酬金を贈呈する!」
「やっぱ恥ずかし~っ! パーティ名言われるの恥ずかし~っ!」
小声で叫ぶと後ろから、
「ほら白、行くのよ! 貴方が! 報酬貰いに、前まで!」
……と、必死そうに叫ぶこのパーティ名の名付け人が1人。
前に踏み出し、報酬を受け取ろうと手を伸ばす。
……すると。
「何だ?!」
上部左右に配置されているステンドグラス24枚が一瞬にして砕けちる。
「護衛はどうした、見張りはどうなった?!」
中に入ってきたのは24人の汚い服を纏った山賊。
……して、真後ろの門から堂々と侵入したのは。
「人界王……そのカネ、俺たちに寄越せ」
赤髪にして、額に生えたその2本の角が特徴の謎の男だった。
人界王に対して高圧的な態度で接したその男。……まさか、人界軍を敵に回して、勝てると思ってるのか?
「……な、いいだろ? お前ら下等生物には勿体無いじゃねェか、その金よ」
「……マスター、マイマスター、逃走の準備を」
……はい?
コック?
「おい、なんで逃げなきゃ……」
「マスターではあの魔族には勝てません」
「悔しいけど、私も同意見。ヤツが何者か知っていれば、ここは大人しく要求を呑んだ方がいい」
「コックにサナまで……何でお前らそこまで弱気に……」
……と、前方に目をやると、単身でその男に突撃していく兄さんの姿が。
「……なんだァ? この俺とやろうってのかァ?」
「当たり前だ、下等生物などと侮辱され、黙り込むヤツなどいる訳がないだろうっ!」
「この俺に、勝てると思ったか? 『剛鉄襲来』ッ!」
男は右腕を掲げた瞬間、その手にさまざまな鉄製の武器、及び防具が集まり、その手の前にてひしゃげる。
「……白、刀をしっかり持って! 奪われるわよ!」
いち早く声を上げたのはサナ。
……だが一番まずかったのは、サナでもセンでも、ましてや俺でもなく。
「身体……が……引き寄せられ……る?! まさかコレは……神技?!」
身体そのものがおそらく金属でできているからか、コックは唖然とした表情で、引き寄せられる自身の身体に必死に抵抗していた。
「兄さん、危ない! 刀が奪われ———!!」
「もちろん———、把握済みだ!」
「ここまでは……分かるかな?」
兄さんの頭上より、先程男の手に集められた金属武器の塊が振り下ろされる。
「兄さんマズイっ!」
「王よ、我が王よ、どうか出撃許可をいただきたい」
「……構わん、存分に暴れてこい」
「仰せのままに、マイロード」
1秒後。
閃光が赤のカーペットを駆ける。
「フリーズ」
あの女……レイだ。
レイはその刀を金属の塊に突き刺し、その金属塊を内部より凍結させる。
「腕が……動か、ねェ……!」
「あの時の借り、100倍にして返すっ!」
「兄さん! とりあえずここはアイツに任せて、俺たちは逃げ……」
「……チッ……カンに障るぜ……この俺様が退くことになるとは……!」
……すると、王に跪いていたもう1人の女騎士が声を上げる。
「裏口から王を逃せ! 魔術師部隊、王を援護せよ! それと王都全体に連絡しろ! 国家非常事態だと!」
「しっしかしライ様、それでは士気が下がるのでは……」
1人の兵士が質問するが、そんな質問をもその覇気の前には掻き消える。
「これは戦争ではない、民間人も巻き込まれる可能性がある! 今すぐ直ちに放送で連絡しろ!」
「……だってさ、俺たちはどうする?」
「そもそも、セン君や白はアイツが誰か分かってる訳?」
「……いや、全く知りませんけど……」
「俺もだ。大体、あんな強そうな奴、俺にとっちゃ心当たりも———あ」
サナは肩の力を抜くようにため息をつき、次の瞬間、敵の正体を言ってみせた。
「アイツは……壊し屋集団カーネイジ、その元締め、クラッシャー。ヤツが前王都を破壊した、張本人……!」
恐ろしい名前が、口にされた。
「……もちろん私だけじゃ勝てなかった。……でも、ここまで来たら、私たち全員でやるしかないわね……あの女にずっと粘ってもらう訳にはいかないし」
「僕は何か……できますかね……?」
「いいえ、セン君はここに残るか、王と一緒に裏門から避難して。とてもじゃないけど、ヤツには敵いっこないし、多分貴方が行っても……」
「足手まとい、ですね。……だったら、お言葉に甘えて……」
「っ……コイツ……強い……っ!」
その頃、レイはクラッシャーと対峙していた。
「その程度か?」
レイがその刀で捌くは、金属の塊を身につけ肥大化した右腕から繰り出される拳。
その姿はかつての、魔族の力に縋り溺れたレイ自身に酷似していた。
「……私が言うのもなんだが———その姿、とても醜いものだな……!」
「下等生物に言われるたァ、この俺も舐められたもんだ!」
次の瞬間、クラッシャーはワザと地面にその拳を叩きつける。
辺りが砂埃で覆われ、視界が遮られる。
「しまっ……があっ?!」
その右腕部は、レイの腰部を直撃する。
「…………ぐ…………っ……!」
そのままレイは頭から地面に倒れ込み、未だ立てない状態にあった。
「終わりだな、何とも芸のない、つまらんヤツだ。あの時の女魔術師の方がよっぽど……っ?!」
「よっぽど、何ですって?」
その時、クラッシャーは自身の肉体が氷で覆われ始めていることに気づく。
「……やっぱりその手は使ってきたか、くだらない、俺の前でメテオでも出してみるかァ?」
「いいえ、貴方に差し出すのは死、という結果のみよ」
氷晶は砕けちる。しかしその眼前には、既に氷の魔女が迫っており。
「エクスプロージョンッ!」
無慈悲にも繰り出された人類最強の攻撃手段によって、その身体は閃光に消えていった。
……と思っていた。
「……レイ! レイちゃん立って!……ヤツはまだ生きてるからぁっ!」
敵に対し爆裂魔法を浴びせたサナは、さりげなくあの女のことをちゃん付けで呼んでいるが、今はそんな事気にしてる場合ではない。
「た……立てない、力が、入らな……」
「っああもう、イデア! コイツ担いで運んでって!」
「隙アリ……だぜッ!」
背後より忍び寄る鋼鉄の影。
「……させるかよっ!」
すかさず俺が前に出る。
肥大化した、クラッシャーのその右腕部を、愛刀『神威』にて斬り落とす。
「ナイスよ白!」
「なんだよ、またガキ………ほお、なるほどなるほどなるほど? まさかまさか、『鍵』のご登場だなんてナァ!」
「……うるせえ、その首ここで置いていけっ!」
すかさず刀をクラッシャーの首に持ってくる。が、その刀はクラッシャーの左手にあった剣によって防がれる。
すぐに後退、距離を取り、次の作戦を考える。
……と。
「……おっと、俺たちのカネはもう既に奪取できたようだなァ、俺もここらでお暇させてもらうぜ」
「待て、逃げるつもりか?!」
「今日は破壊行為が目的じゃねェしな、ただ、次に来た時は、この王都全てを破壊する。俺たちは、壊し屋カーネイジだからなァ!」
「だから待てって言って……」
……既に、クラッシャーはその姿を消していた。
「…………チッ、……大丈夫かサナ? ケガは……な———」
「ええ大丈夫よ……って白どうしたの、急にそんな呆然として……」
「コックが……いない」
「……えっ?」
「だから、コックがどこにも……いないんだ、俺は特に指示をしていないし、アイツがどっかに行くわけ……」
「大丈夫よ、ほっといたらすぐに戻ってくるでしょ、アイツ私以上のトンデモ魔法使い(かは分からないけど)なんだから」
「……そういえば……そうだな……よく考えたらまあ、アイツが目覚めたら何するか分かんないもんな、俺も自信持ってアイツが戻ってくるって言えるわ。
———ヤツらの基地を壊滅させた後に、だけど」
微笑を浮かべながら、俺はあることを考えていた。
とある、コックが戻って来ることが前提条件である作戦を。
◇◇◇◇◇◇◇◇
その少しばかり後。どこかの場所、カーネイジ拠点において。
コックは囚われの身となっていた。
……そう、なっていた。
既に、その拠点は壊滅させられており。
「……っふふ、あらあ? 下等生物さん、そんなもの———なんですかあ?」
その影には、ひたすら煽りながらクラッシャーとマトモに張り合う「天使」の姿が。
……既に何人ものカーネイジ兵士を葬っており、さながら「殺戮の天使」と言わざるをえないのだが。
「機巧天使もっ……そんなもんかァ!
1000年前の遺産っ! まさかここで戦えるなんざぁ、思っちゃいなかったぜぇっ!」
……いや、そのクラッシャーが機巧天使相手に張り合えているのが素晴らしい健闘なのだ。
機巧天使。腐っても1000年前の殺戮兵器。
| 多数連結情報共有型個体が例え1機とは言え、その機巧天使がただの魔族にここまで追い詰められることは、本人にとっても得難い経験であった。が為に。
「……久しぶり、久しぶりです! あまりにも! この感覚はぁ!」
身に覚えのない久しい感覚。
『大戦』以来の激しい戦闘に、当の本人は「最終兵器」を繰り出そうとしていた。
「———しかし、このままでは不味い……天殺撃……使うしか……っ!」
「ならば俺も、アレを使おうじゃねえか!」
互いに切り札を切ろうとする。が、コックの方がより早く切らねばならなかった。
なぜならば、クラッシャーに対する彼女の相性は正に最悪であったからだ。
クラッシャー、その神技、それは『金属を操る能力』。
……と言っても鉄分などを操作できる訳ではなく、ある程度大きな塊、剣くらいの鉄の塊でなければ操ることはできない。
……だが、全身の大半を金属の塊として構成されたコック———機巧天使にとっては、その能力ですら最大級の脅威に匹敵する。
「『剛鉄襲来』ッ!」
クラッシャーは左腕を掲げる。
破壊された拠点の残骸と共に、コックの身体が引き寄せられる。
……だが。
「ならば……ここで……っ!」
逆にコックはその神技発動のスキを伺い、クラッシャーに急接近する。
「天殺撃……0距離で……ぇっ!」
コックの狙いは、機巧天使最大にして最強の技、身体中の神力、魔力器官ともにフル稼働させ、そのエネルギーを一気に放出する、『天殺撃』。
シンプルかつ火力重視の切り札。
一度でも使用すれば、標高1000mの山など一瞬にして砕け、溶け散る。
殲滅を目的とした機巧天使、その神の域に達する技を察知したクラッシャーは、血の気が奮い立ち、細胞の奥底より聞こえる警告を無視することはなかった。
「……さすがに……コイツは……!」
クラッシャーは集めた金属を胸の一点に集中させ、その衝撃を極限まで抑える。
……だが、山をも砕く天の一撃は、そんな付け焼き刃の防御兵装では簡単に防げるはずもなく。
互いに吹き飛び、その声すら聞こえなくなるほど遠くへ。
機巧天使の浮遊機能を用いてなお緩和することの叶わないその爆風は、末端とは言えども王都にまで届き、その衝撃はまさに地を揺るがした。




