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もしも願いが叶うなら〜No pain, no life〜  作者: 月影弧夜見
第8章:アーティフィシャル・マインド
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最後の約束

 薄れゆく視界の中に最後まで残ったのは、目を輝かせながらその様子を観察するコックの姿。

 ……だが、記憶はここで終わっていた。



 



 ここに至った、経緯はと言うと———。


********


 ……ああ、終わった。

 いいや、これも運命なのだろうか。

 多くの人々の命を奪い、多くの人々の夢を壊してきた「人斬り」の最期が、こんなにも呆気なく、ひっそりとしたものだなんて。



 やり残した事は……かなりある。


 サナは……まあ大丈夫だろうが、センは……アイツは1人にしとくと何するか分からない。ほっといたら1人で死ににいくかもだし……


 兄さんとは……決着がまだついてなかった……よな。きっとあっちにとっても心残りだろうな。


 ……それに、コックは……


「……へっ、契約した途端に死ぬマスターなんて、マスター失格だな……?」








 ……え?

 なぜ、俺は喋れる?

 なぜ、風穴が、俺の胸にぽっかりと空いていたはずの、風穴が閉まっている?

 …………どうして、俺は死んでいない?



 ……いや、違うよな。


「そっか、死んだらこんな感じになる……のか。天国も地獄も、所詮は嘘っぱちだったって訳か」


 全てが灰色に染まり、完全に静止しきった世界に、俺は立っていた。



 ……そして。



「身体が……動く。……だけど、俺はどうすれば……」


 とりあえず、斬ってみる……か。





 リーの機体を両断した瞬間、視界に色が戻り、全ての生命体が動きだす。





 そうして、今に至る。






「残念ながら———お前の負けだ」


 一瞬にしてリーの目前から姿を消し、その機体を既に両断していた俺自身と、

 完全に気絶したイデア、それを横目に主の神技(ジル)の覚醒を祝うコック。



 ……だが、しかし。

 この行動は。


 今の俺の行動の軌跡、すなわち「覚醒」した俺の神技(ジル)を説明できる者は、俺含め誰1人としておらず。


「———そう、か……まだチャンスがあるというのなら……っ!」


 されどそのジルは、その場に「勝利」という結果のみを残し、刻み付けていた———!








「もらったあああああっ!」



 ()は戻ってきた。そう、あの死の淵から戻って来れたんだ。

 


 両断したリーの機体の中心部に手を差し込み、中から2つに割れた球体を取り出す。



「コック! こいつがお前の奪われた記憶じゃないのか?!」


 ……そう、あの時、リーはコックの記憶を消すのではなく奪ったのではないか、と仮説を立てたわけだ。


 なぜならヤツは確かに『吸収』と口にした!


 検討違いだったのなら……それは仕方ない、が、そこに可能性があるというのなら、そこに賭けてみるが……吉だ!





『7る  、 ほド……私の記憶カラ再現しようとシマシタ。ですね。


 理解されました……私の記憶はコックピットが使わレた……ですね、、  詩かし無知は幸せ知らぬは花……知らない事がいい事も……あるマス』




「……最後に1つ質問だ。お前は……リーか?」


『受理されますた……私をリーであり、リーでをありません……


 複合体として再現されようとされました……私の中で……[[アム]]と[[リー]]の複合体としつつ……ですか。




 あなたたちならば……全てを。この世界を変えられるかもしれぬ。[[アム]]の支配の先には———』



 両断された機体は、その後2度と動くことはなかった。



 場には沈黙が流れる。


 あまりにも呆気なく終わったのと。

 あまりにも、ヤツの発言が不可解だったせいで。



 ———だが、これでようやく、チャンスができた。


 俺が死んだら———お前の顔はまた()()()()()()だろうから———。





 ……それでも、やはり最初にやるべき事は。



「コック。記憶をどうやって取り戻すか……なんて、正直俺には分かんないけど、できる限りの事はしたつもりだ。



 ほらっ、ソレが多分ヤツの……リーの記憶だろうから、多分そこから……」


「…………残って、ません」




 即答、か。


 ……あ〜あ。



「……やっぱ、そうだったか。何事もそう上手くはいかないもん……だな」


「そうですね、やっぱり、そんなもの、なんでしょうか……!」




 ……ああ。

 また、守れなかったよ、その笑顔は。

 約束、したはずなのに。


 …………泣かないでくれよ、頼むから。


 お前は、()()()のお前は、そん

なヤツじゃなかったはずだろう?

 無性に、怒りが込み上げてくる。




「私は……やはり本物の私なんて……いなかった……そんなもの、最初から……!


 もう、私にはないんだ……本物である証拠も、本物である記憶も……本物である、証明すら……できやしなくて……!


 なら、ならば私は、私は一体何……? 一体私は、何なので———」




「……お前は、今のお前が、本物だよ。今のお前を妨げるマスターも、今のお前を消去する存在も、システムも存在しない。


 ……もう、最初から分かってるんだろ……? 今の自分を本物として、生きてゆくしかないって。



 前のお前の分だけ、今のお前が何かに触れ、何かを見る事が……大切なんだ。だから……」




「そうです……よね、やはり、そう生きるしか……ない……私は最初から、分かっていた……」



「……だからこそ、ここでお別れだ。お前は、お前の世界で全てを見てくるといい。俺がお前といる理由なんて、もうないだ———」














「…………一緒にいる理由ならば………あるでしょう……マイ……マスター……!



 ……私は……言いました……後悔させないで、と!


 あなたが前の私とした約束は———()()()()存じません。ですがマスター、あなたは……この約束を無かったことにするつもりですか……!」




「……でも、俺といない方が自由に———」


「許しません、それこそ…………私は、許しません……!


 その、私の初めて交わした、約束を……なかったことにする事だけは……絶対に……!」



 ああ、そうか。

 また、まただよ。また俺は、他人との約束を破ろうとしていた。それも、自分勝手にだ。


 ……やっぱり、どこまでもどうしようもないヤツだったよ。……俺は。


「俺は……俺は、どうやったら、約束を守れると思う……?」


「…………私と、一緒にいてくれるなら、それだけで…………っ!」





 ……一緒にいる。

 今まで結びつけてきたどんな約束にも、その根幹は存在し。


『誰かと共にいたい』という想いが、今までの俺を強くしてきた。



 ……そうか。答えは、そうだったのか。

俺は結局のところ、誰かと一緒にいたいだけで———。




「……なら。だったらいいさ。……後悔は、させないと……思う」


 守れるかどうかすら怪しい、最後の約束を、取り付けた。







********


 最後の最後。


 前の『(コック)』が残した1つの疑問が、ファイルの裏からこぼれ落ちる。


『なぜ、私はあの用のないはずの、アレンという人間に固執したのか』


 でも、今ならば、すこしは分かる気がする。


 ……変えてくれる、と思ったのだ。


 ヒトの心を持ちながら、マスターの命令を聞くことしかできない機巧天使にとって、そのマスターのいない1000年は、実に退屈で、実に虚無に満ちていた。


 だからこそ、そんな現状を、「救世主(セイバー)」なら、大戦を終結させた「誰か(セイバー)」の()()()()()()ならば、何かを変えてくれる、と、そう思ってしまったのだ。




 それに———そうだ。

 あの救世主は……


 (わたし)を愛し。

 (わたくし)を愛し。

 (わたくし)を裏切り。


 ……もう、あの記憶を完全に取り戻すことはないのかもしれない。


 それでも、あの悲哀は、あの涙の跡は、この私のかんざしが示していてくれるから。


 ……だから……今は。

 あの救世主がどうだったとしても、関係ない。




 今の私は、今の私が信じるマイ・マスターを……マイ・ディアーを……信じるのみだ、と。





 元マスター、ジェネラル・グレイフォーバスの亡き娘、セラ・グレイフォーバスのデータが詰まった、その偽物の心にて。





 ———その人工の、精神にて。

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