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もしも願いが叶うなら〜No pain, no life〜  作者: 月影弧夜見
第8章:アーティフィシャル・マインド
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マイ・マスター

 ……言ったはずだ。言ってやったはずだ、悲しそうな顔をやめてくれ、と。


 ———もう、見たくなかったはずだ。

 目の前で、大切な人に死なれるのは……!!


 俺が———俺が信じる剣は、俺が重んじる『雪斬流』は———人を護る剣だろうっ!




 ……そうだよな、何やってんだ、俺は。今は塞ぎ込むより、よっぽどやるべき事が、あるだろうっ!


「センっ、1回離れろっ! そいつは俺がやるっ!」



「……待って白さん、後ろからも……!」

「そいつは……私……がっ……食い止める!」


 背後より迫るは、黄色に染まった触手。リーの機体より染み出したソレは、今なお広がり続け、無数の触手として形を成していた……!




 肝心の機体は、まるで操り人形かのように、手足をツタで縛られ宙に浮いており、それでもなお、その顔面はこちらを凝視している。



『ヒェ  、ヘハ  ヘ 、。ヘ  ヘヘ ハ』



 あまりにも不気味な形容しがたい、生物とは思えない奇妙な笑い声。

 不自然にとられた合間が余計にその不気味さに拍車をかける。


『さ、あ! 戦争の、大戦の、[[[[終末戦争]]]]、、、  の。、! 開始で   す!!』




「あいつ……雰囲気が……変わった?」


 先程までの威厳のある物言いは何処かへと消え去り、残されたのは狂気だけであった。


 分からない、分からない。人外未知の言語なのか、とも言わんばかりの異質さ———!



『ソウ でス白、、  。様!! 私、私私私私。この身体……に、な  、じみマスター!』





「ダメだサナ、もうアイツと対話を試みちゃいけない」


「そのようね……身体が馴染んだ……とはいえ、知性と威厳溢れる元魔王軍幹部が聞いて呆れるわ!」



『おやおやおやおやおやおやおやおや???? 今、今私をバカにしたコケにしました! ですね?』



 支離滅裂もいいところだ、何が起きたかは知らんが、どうやら本当に狂っちまったらしい……!


「……とりあえず、俺はコックを奪還するが……2人とも、それでいいか?」



「ええ、やってやるわよ!」

「僕も……頑張ります……! できる範囲で……!」



「それじゃあ2人は左右に分散して、ヤツの触手のおとりになってくれないか?」


「物言いだけだと私たちが一番危険そうだけど、本当に危険なのは……正面きってコックを奪取する白だって分かってる?」




 そんなこと、分かってるさ。……コイツと戦い始めた時からな……!

 それでも、救ってみせたいって思っただろ、俺……!




「もちろん、だからこそ、俺がやらなきゃいけない……!」


「グレイシアフリーズクリスタルっ!」


 サナが杖を掲げそう叫んだ瞬間、リーの体液で満たされそうになっていた地面は、一面透明な氷で覆われる。




『そ、、、れはっ、はっ!! 私を殺した……! [バカにしたコケにしました]技    で、すすね?!?!?! この[NEW]な!  な、身体に! そんなモの効くと思イマスカ? 答えは[NO]! [NO MORE映画泥棒]!!!!』



 ———映画って何だ?





「センっ! パスよ!」


 サナから、雑にセンの方に放り投げられる魔法使い用の杖。

 ……だが。


「ありがとうございますっ!」


 その効果は絶大であり、センの扱うただの爆発魔術(クラッシュ)でも数段上の魔術に引き上がる……!




 2人が両端からじわじわとリーに詰め寄る中、リーの視線を掻い潜り懐へと移動する。


 案外、詰め寄るのは簡単であり、何の困難もなくコックを抱き抱える事ができた。

 ……リーの体液のせいで、かなりヌメヌメしているが。


「サナさんっ、白さんが!」

「ええ、分かってる!」



『モチノロン! 私モ分か  、っておりマスター!.,』





 氷の上を滑り、リーから距離をとり、コックを揺り起こす。


「コック、起きろコック!」

「……私……は……」






 機巧天使は、その光り輝く瞳を開く。

 後ろの方では、未だにセンとサナが戦っている。……手短に済ませなきゃいけないじゃねえか、アレじゃあ……!


『マスター認証……創造主:ジェネラル・グレイフォーバス……眼前のオブジェクト……登録概念照合……アレン・セイバーと断定…………なぜ? なぜ私はこの人間を知って……』



『さ、、、あ!! さあ、、、、! コックピット、よ!!



 現時点統一体当機より伝える。速やかに、眼前の敵を排除せよ。繰り返す、速やかに、眼前の敵を排除せよ。以上…………』



 ———どこまでも気持ち悪いヤツだ。急にコロコロと口調を変えやがって。



『眼前の敵を……排除。……ならば、貴方には死んでもら———』


 コックの左手が、こちらへと差し向けられる。……光を浴びた魔力が溜まり始め、ほんの一瞬死を覚悟した。


 が、コックが何かを撃ち出すより前に、こちらが言ってやった。






「お前の、マスターは!……俺だ!」



 ……と。コックは一瞬戸惑い、発射を躊躇う。


『は———、


 何を……我がマスターは創造主、ジェネラル・グレ———』



「違う、俺が! お前のマスターだ! 俺がお前のマスターになってやる!」


『…………?? 意味が分かりません、速やかに排除の対象と……』


「うるさい、俺がマスターだ、だから俺の意見を聞け!」


『……????』




「発射なんて許さないぞ、俺の話が終わるまで絶対に……!」


 その顔が、困惑の色に満ちていく。いいぞ、その通りだ。

 今のお前は、本当にお前なんかじゃない。それを俺が教えてやるんだ……!




「……お前は、今のままでいいのか? 自分が自分じゃなくなる事に、何の恐れも感じないのか?!」




『何を———言って……』


「お前は、今の自分が———本当の自分だとでも思っているのか!」


『いや……だから、貴方が何をおっしゃっているのかが……』


「何も……覚えていないってのかよ、お前は!

 今まで1000年生きてきた想いは、お前が語ったマスターへの想いは、どこ行ったよ、ああ!」


『マスター……への、想い…………?』


「そうだよ、お前……いっぱい話してくれたよな! 胸を揉みしだくだの、なんかこう……ヤっただの、色々と!」


『そんなもの、私には……ない、はず…………で…………??』


「そしてお前———泣いたんだぞ!

 起きないマスターを想って、お前は泣いてみせた!


 ……そんなお前は、マスターの笑顔を求めていたお前は…………どこに行っちまったんだよ、コックッ!」


『泣いて…………私、が……?


 自分が自分じゃなくなる……推測……現時刻と完成日を照合……誤差、許容範囲外。推測……仮定……



 もし、私の全てがリセットされているとなれば……?』



「もう1度よく、冷静にアイツを見てみろ、アイツは本当に———お前のマスターなのか?」





********




 導き出した仮定。

 ……がしかし、それがもしも合っているとなれば……?

 記憶にある「虚」「無」の記録(ファイル)に、(コック)は手を伸ばす。



「マス……ター」


 そこには、思い出の数々。

 もう既に消え去った、過去の自分。その記憶の断片。

 正確には、その消え去った自分ですら、自分とは証明できはしない。



 ……だけど。そこで見てしまった。あまりにもか細い、記憶の断片———()()()の、最後の姿を。……そして。


「マスター、これは……この記憶は、一体……?」



 マスターが、マスターでなくなる瞬間。

 自分が、自分でなくなる瞬間を。

 ……だからこそ、もう1度冷静に、誰の指示も受けず、状況を鑑みる。



「アレは……マスター……では、ない……?」


 その眼に捉えたマスターであったモノの魂。

 魔気は、酷似こそするものの、マスターのソレとは明らかに違い、



「……ならば……マスターは…………誰……?」


 当然の疑問。自分は一体今まで、誰の命令を聞いていた———?


「マスターは……マスターは、どこ? 私の、マスターは……ど……」








「……だからこそ、俺がここにいるんだろ」




 横から聞こえたその声は、自分こそ主だと傲岸にも主張する。


 記憶の断片で見た、その男をマスターと断定する証拠など1つもない。そもそもこんなやつ、マスターであるわけもない。


 だが。


「俺は……約束したんだ、お前と」


 必死に記憶をかき集める。しかし、そのようなモノは発見できず。

「約束」がどのような内容か、など、そんなものは分かるはずもなく。



 それでも、目の前の男は———私に対し訴え続けた。







********


「お前に、悲しい顔はさせない。なぜかは分からないけど、お前が悲しい顔をすると、こっちが無性に腹が立ってくる」



「だから……だから……?」


「お前のマスターは、もういない。とっくの昔にいなくなった。……だからこそ、俺がお前のマスターになってやる」


「貴方が、私の、マスターに……?」

「そうだ」


「そんな…………こと……」


「…………それ……でも……っ!」




 一瞬コックは、疑問と希望を抱いた目を見開き、()の顔を真正面から見つめた。


 ———そして。





「……じゃ、あ…………



 …………私を、いやらしい目で……これでもかと見つめ続けるのは?」


「俺だ」


 言い切った。言い切っていいのか分からなかったが、この質問に答えるならイエス以外あり得ない。


「嬉々として、私の胸を揉みしだくのは?」


「……俺かも?」


「私に、いやらしい行為を持ちかけるのは?」


「それは俺じゃない」







「………………私の、記憶を、消去、するのは……?」



 それまで、あくまで機械的に、淡々と話していたコックは、突然目に涙を浮かべそう問うた。



 ……だが、答えは1つ。もう決まっているだろう。


「俺は……そんな事、しない。お前の———お前が悲しい顔になるような事は、決して。



 それだけは約束する、だから力を、力を貸してくれ……!」






「………………いい、ましたね」


「ああ———言ったさ。言ってやったよ」



「…………っっ……うぅっ……あぁ……っ!





 ———契約、成立……です……っ。


 後悔させないでくださいね、マイ・マスター……!」

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