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もしも願いが叶うなら〜No pain, no life〜  作者: 月影弧夜見
第8章:アーティフィシャル・マインド
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『鍵』/大戦の結末

「……だからつまり、この下にいる、ある機械を動かすために力を貸してほしいんだ」


 一通りの事情を説明した後、とりあえず反応を伺う。




「……まあ、仕方ないわね、私は手伝うわ」


「僕も!……何かできるかは……分からないけど…」

「くだらん、俺は手伝わんぞ、この場に残る」


 兄さんはなぜか乗り気じゃないらしい。

 ……と、いう訳で、俺とセンとサナでその「思い当たる節」について赴く事にした。


 というか、サナが手伝ってくれるなんてな。こういうの嫌がりそう……というか、2年前に嫌がった経験があるのだが。




「……ところで兄さん、その……コックには、あまり反応しないようだが」


「———ソイツはヤバいぞアレン。流石にそんな罠に引っかかるほど、俺は落ちぶれてはいない」


 あれ? 兄さんの反応がどこか悪いが……罠?


「それはつまり私のことを地雷だとおっしゃりたいのですか?!」


「ヒト以外と馴れ合う気はない。そんな()()()に興味など微塵も湧かん。


 サナは貴様が()()()のだろう? ならば、俺は新たな妻を探すまでよ」


「紛い、物……」




 ———いやいや待て待て。なんか今の発言、色々とまずい気がするのですが。

 具体的に言うと俺がサナを食べる……だなんて一言も———、


「いや……でも、私は……」


 なんか本人(サナ)はまんざらでもなさそうな顔してるんですけどぉ?!?!


「……で、で! その心当たりある節なんだがさ……俺たちがこの前ぶっ壊したヤツの事なんだよ」


「あ、あああ〜あ!!……なるほど、あのビームぶっ放すロボットね!」


 そう、サナの言う通り、俺たちの負債の原因にもなった、あのビームを吐き散らかすロボット。



「ビームぶっ放すロボットと言いますと……ラージェスト、ですか?」


 コックはまるで知っているかのように質問する。


「……名前は知らないけどな。とにかく行くからコック、心読んでもいいから頼んだ」


「承知いたしました、それっと」


 先程まで接地していた地面が浮かびだし、やや斜めになっていた面は地面と平行になるように座標が固定される。


「ななななななんですかコレ?! 地面が動いて……?!」



 驚愕し言葉がおぼつかなくなるセン。……が、そんなセンに対しても、魔術に博識なサナは冷静に返す。


「セン君、さっき白が言ってたでしょ、浮いた地面に乗って来たって。案外浮遊法って、魔術世界じゃ珍しくもないのよ。


 ……まあここまで規模がデカければ、扱える魔術師も本当に限られて来るけど。


 しかし……へぇ…………機巧天使、ねぇ……聞いたことないわ」





 そのまま地面はゆっくりと西へ移動し始める。


 動き始めた直下の光景、海の広がる風景を眺めながら、コックにある質問をする。

 ……というよりも、ずっと気になっていた事だが。



「……なあコック、そろそろ教えてくれ、俺の中に何があるってんだ?」





「何がある……って、ですから『鍵』があるのです、貴方には。


 大戦時、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()への道を開くための『鍵』でございます」



「は……?」


 大戦……? 終末戦争……? それと俺に何の関わりが……?




「……それに、あなたの魂には2つ目の魂が混在している。『アダム・セイバー』、その魂が」



「はい??」


 ……謎が1つ解ける度に、また新たな謎が出てくる、とはこの事か。


「誰だよ、そのアダム・セイバーって。俺と同じ……セイバー?」



「さあ? そのアダム・セイバーに関しては何も存じ上げません。何せあなたの魂に混在していた者の、概念登録されていた名称を申し上げたまでですので」


「……コックは何も知らない……か。ありがとう、もういいよ」

「……はい、ところで、目標地点への座標転移、を実施されますか?」



 座標……転移? 転移ってその、移動する……みたいなそう言う意味だと思うが……既に移動してるだろ?



「……何だ、それ?」


「簡単に言えば、一瞬にして目標地点へワープできる……ってヤ———」

「今すぐ使ってくれ。つかなぜ今の今まで使わなかった」


 今までのあの時間、全部無駄話だったのか———!!


「いえ? あの村から大穴へ移動する際に一度使いましたよ?」

「……はい?」


 ……え?




 あの時に一度使っていた……?

 ワープした時の……カッコいい光みたいなのはなかったけれども??





「……えっと、一度周囲を霧で覆い、中にいる生命体と外側の座標認識を鈍らせ不確定要素へと改竄した後、そのまま私の既知地点、既知座標へと霧で覆ったものごと転移する……という魔法でございます」



「なるほど、つまりあの時の霧はその魔法の霧だった、と。なるほど分からん」


「私も分からないわ。今の説明聞いてなお全くもって分からなかった」


 ……待てよサナ、お前がその術式を分からないなら、一体人類の誰にそんな超高度魔法を使えるってんだ……?


「それでは転移いたしますので、下を見ないようにお願いいたします」






 僅か2秒後。


「はい、終わりまし———」

「早いな、早すぎるぞ! つか既知座標への転移……だから何でここに来れるんだよ! お前まだここに来たことな———」


「いや~、だから心の中を……」


「やめろつっただろソレ!!」


「さっき『心読んでもいいから』と言われたじゃないですか!!」


 それもそうだ、と、目を細め黙り込みながら、見下げた地上には黒焦げたクレーターが。



 その中心部には、バラバラになった鉄クズまで落ちていた。


 黒く変色し、機体はひしゃげ、ビームを撃ち出していた球体は内部からドロドロに溶け出していた。


「機体分析……複数箇所より『汎用兵器ラージェスト』と断定。……つまり……アレンさんが言ってた思い当たりとは…コレの事でございますか?」



「そうだが……何か問題があるのか? 機体修復の手がかりになれば……って思ったんだが」


「……そもそも、ラージェストって何か分かります?」


 コックの問いに、首を傾げながら答える。


「さあ? 俺には全くもって分からん」


 


「……汎用兵器ラージェストは、大穴にいたあの機体……マイ、マスターが製造され量産され、大戦時にて我が機甲帝国(エクスマキナ)軍が歩兵として使用していた機体でございます。


 中には人が1人入り込めるスペースもあり、しようと思えば操縦も可能でした」



「……すごいな、コック。お前何でも知ってるんだな」


 コックは軽く微笑み、告げた。


「……そうですか、褒められたのは……初めてです。しかし……マイマスターは、この部品だけではどうにも……できません。


 せめてこの機体がまだ無傷であり、中のコントローラーが生命維持状態で生きていて、なおかつ魂をラージェストに同期させておれば……まだ可能性はありましたが……」



 何言ってるか分かんないけど、でも……こう言う反応してるってことは、つまり……


「……なるほど、ダメだったか……他に道は……」


「ありませんね」


「……サナもセンも、案はないよな」


「ないわよ」

「こんな僕になんて何も……」


 そもそもこんな機械に全くもって通じていない俺たちに何かを解決させることなんて無理に決まってる……よな。





「……なあ……結局コックさ、俺たちにどうしてほしいんだ?」


「へ? どうしてって……」


「もう俺たちには何もできない。心当たりもないし、アレを直す術もない。……よく考えれば俺が付き合う義理もないし、残念だけどここでお別……」


 邪魔な……兄さんをあの場所(大穴の島)に置き去りにし、別れ話を持ち出そうとした瞬間であった。






「……で……でも……それでは……私の…マスター……が……!」


 顔を赤らめ、涙……と思しき液体を滴らせている、コックがいた。




「おいおいどうした?!……って何でお前みたいなバケモンが泣き出すんだよ……!」



「……もう少し、付き合ってあげたら、白?」

「この人……?……がどんな人かは分からないけど、流石に……かわいそうなんじゃ……?」






 ……やめてくれ。

 他ならぬお前が、その悲しそうな顔をするのをやめてくれ。


 ……お前にその顔をされると、こちらが……腹が立つ……!

 お前が……██を█したお前が…!






 ———誰の記憶だ?






「……ああもう、分かった、分かったよ、俺に何ができるか分からないけど、お前の言う通りにするさ! だからその悲しそうな顔をやめてくれ! 


 なんだかその顔見てると無性に……殴りたくなっちまう! ()()だ、約束するさ、もうお前が泣くような真似はしないって!」



「白さん……Sだったんですね……正直言って僕、見損ないました……しかも、そんな簡単に約束を取り付けて……そんなんじゃ信用失いますよ……」


「やめてくれセン! そんな冗談微塵も混ざってないマジトーンでそんな事言わないでくれ!」





********


 ……一方。コックは。

 先程の言葉の意味について考えていた。






『悲しそうな顔をやめてくれ!』


 ……なぜ、アレンはそう言ったのか。

 なぜ、まだそれでも着いていくと決めた……? と。



『悲しそうにしてつけ込む』、などと言う彼女の作戦はうまくいった。だが。

 じゃあ、ならばどうする?



 アレンの言った通り、何も道はない。

 なのになぜ、コックはアレンにつけ込む隙を作らせようと努力したのか?

 ……今のところは、もう何も用は無いはずなのに。


 ()()()()に至っていない『鍵』など、必要などないと言うのに。



 どうして、なぜこの男にそこまでこだわるのか、と。


 なぜ、なぜ、なぜ。

 おそらく永遠に解の出ない問いを、延々と自身に向け続ける。

 ……機巧天使の中で唯一、ヒトの脳を与えられた、その心の奥底にて。



********



「———ッ、アレンさん! 微弱ながら敵意を向けている者がおられます!」

「なんだって?!」


 その言葉を聞いた瞬間、()たち4人は武装する。


 ……そして、林の奥から表れたのは、黒い甲冑を身に纏った騎士の2人組。

 その片方は、手に黄色い液体の入ったカプセルを持っていた。



「……何者だ、お前ら!」



「魔族、ですか……下等ながら、随分とお目にかかる装備をしている様子で……」


 ……待ったコック、今お前『下等』などと口にしなかったか?





 ……と言うより魔族?

 魔王軍戦線から東に遠く離れたこの地にて、魔族が出現する……?


「大丈夫よ白! 私がやるっ!」



 瞬間、辺りは冷気に包まれる。


「があっ?!」

()()()ぁっ!」


 目をやると、黒の騎士2人組は、共に氷の柱に貫かれていた。

 騎士の鎧の隙間より滲み出る血は、氷の柱を伝い滴り落ちてゆく。


「え……お……サナ、お前中々にえげつない……な」



 自分が言えた話じゃないのだが。


「容赦はしない、情けはかけない。放っておいて誰かが傷つくのは嫌だから。……今までだってそうしてきたはず」


「2年前の2つ目の太陽の件を俺は忘れてないがな」


 ……しかし、それもそうだ。強敵との連戦で、すっかりその優秀さを忘れるところだったが、サナは魔術に関しては天賦の才そのもの。


 よく考えれば、並大抵の魔族など100匹いようと蹴散らせるほどサナは強い。完全に、その有能さを忘れていたところだった。




 ……ところで。

「……なあサナ、今あいつ、リーとか言わなかったか?」

「確かに……言ったけど……ハッ!」



「その、リーって人? がどうかしたんですか?」


 知りたげに、ひょこっとセンが顔を出す。






 ……リー、そう、リー。

 俺たちが初めて討伐した、魔王軍幹部。

 エレキポイズン……スライムかなんかって言ってたが……


「……白、もしかしてあのカプセルって……!」


 サナも察した通り、あのカプセルには黄色の液体が。


 ……つまり、おそらく、まだ可能性の段階でしかないのだが……!

「コック、地面を浮かせてくれ! 今すぐ、大至急だ!」




「は……はい?! 一体どうなされたので……」


 コックは慌てふためきながらも、魔力を充満させ地面を浮かばせる。





「……サナ、地面が浮かんだら下を焼き払ってくれ。メテオでも何でも構わないっ!」


「奇遇ね、私もそうしようと思っていたわ。……でもメテオは流石に魔力消費が大きすぎるから、エクスプロージョンで消し飛ばす」


 サナの持つ杖が掲げられる。

 直後、魔法陣が構築され、狙いが定められる。


 ……そして。

 地を揺るがす轟音と、木さえ薙ぎ倒す暴風の後に、その場に残ったのは無のみであった。





「して、アレンさん、なぜ急にあのような真似を? それにこれからどこに行かれるのですか?」




「……ヤツの、さっきの魔族が発した言葉が、どうも心残りだったから、全て消し去った。ただそれだけだ、コックは何も気にしなくていい。


 それと、あの大穴、あそこに向かってくれないか?」




「承知いたしました」




 ……ふう、多分これで終わり、不安要素はもう残っていな……いや、最重要目標(コック)が残ってた。






「そう言えばさコック、何でさっき魔族を下等、だなんて呼んだんだ? 俺たち人間に関してはそんな口聞かないってのに」


 ……まあ、人間と魔族、どちらが優れているか、と問われると、まあ自然と魔族の方が優れている訳で。


 普通の()()()人間なら魔王軍幹部になど勝てはしない。しかし、なぜそれならコックは魔族を下等だと断定し、そう呼称したか? それが聞きたかった。





「ああ、魔族は我がマスターと私を()()()()()()()()()()無礼極まりないクズの集まりなので、そう呼称を……」


 ……なるほど、こんな状況を作ったのは魔族だってのか、一体誰だよ、こんな化け物を活動停止に追い込んだヤツは……!


「それに、人類は下等ではございません。何せ()()()()()はアンダードッグ、負け犬と謳われた()()でございますので」


 いや、確かに伝え聞いていた話じゃ終末戦争、その勝者は人間だと聞いていた。


 ……がしかし、それは皆冗談のように扱っており、本当の勝者は魔族だのエルフだの言っていて、正直誰も真に受けていなかったはずだ。


 ……なのに、この化け物は、人類の勝利を、あまつさえ冗談だと笑われた人類の勝利を肯定した……と、そう言うのか……?!




「その話は……本当か」


「ええ、大戦末期、我がマスターが記録しておりました……ああ、それもマスターの死の間際、最期の内部同期。私に大戦の結末を、その身をもって教えてくださいました」


 ……そっか。マスター、あの機体の……事か。

「……なあ、お前のマスターって、どんなヤツだったんだ?」



「私のマスターですか……それは———」






********


 それを遠くから見つめながら。

 何だアイツら、って思っている者が2人。




「……ねえセン君、私と白はパーティ仲間で、ずっと一緒に戦ってきて、そんな私と、あの天使……どっちが白に相応しいと思ってる……?」


「……サナさん、まさかここに来て恋バナ……ですk……」

「いいじゃないのよ! さあどーなの?!」


 小声ながらも、サナは激しい口調でセンに迫る。


「は、はあ……まああのコックって人は白さんをそういう目では見てはいなさそうですし、多分、多分大丈夫だと……思いますよ(めんどくさい……)」


「や……やっぱそうよね!」


「……そもそも、サナさんは普通に見ればかなりの美形……だし(本音)、特に仲が悪そうでもないから、白さんとも大丈夫なんじゃないかな……って思うんですけれど……」


「はあ……ならよかった」






 センはこの時、ようやく理解した。

 年頃の女はとても、それはもうめちゃくちゃに面倒くさい、と。

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