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対峙

 一方その頃。

 数十秒前の鍛冶屋では。




 鳴り響く爆音。

 センに関しては耳を塞いでいたが、白は未だに集中していた。


 ……それも、白は今、神剣神威そのものと対峙していたからだ。




 白の心の中にて。


********


 一面真っ白な、どこが床だか分からない、感覚がおかしくなりそうな空間の中で。




 神威の、その概念の中枢を成す核、具体的に言えばヘファイストスとオーディンの神核の複合神核……の擬人体と対峙していた。


 ……この神威。概念武装とは言われているものの、組み込まれている概念には様々なものが入っている。


 その中で大部分を占め、かつはっきりと概念が定まっているもの……それが、この神威に取り込まれた、ヘファイストスとオーディンの神核であった。




「……私の名前は分かりますか」


 分かりやすく少女の形で擬人化した神威に、

 はっきり言って。



 興奮していた。




 何を言っているか分からないかもしれない。

 刀に、それも今まで自分が持っていた刀に発情するなんて、よく考えなくともおかしかった。だが、間違いなくこの時の俺は興奮しきっていた。


 いや、少女の形をとってくれたのはいいんだけども。


 ……それでも、その「全裸」の外見はやはり年頃の男の子には天敵だ。


 ……いくら大事な部分に「謎の光」が差し込んでいるとは言えど、な。







********


 その頃。外はというと。


「……援軍か」


 1人村へと赴く黒騎士。その目の前には。



「いたぞーっ! 黒騎士だーーっ!」

「大丈夫だ! みんなでかかれば敵はいない!」


 などと口にする人界軍兵士及び勇者一同が。



 それもそのはず、この時点では白たちがこの村に来てから2日、イデアが黒騎士と戦ってから丸1日経っていたからである。


 魔王軍幹部が出て、なおかつ村が攻め落とされそうならば、やはり援軍も駆けつけるものだろう。


「ストーンロック!」


 何人もの魔術師が岩魔術を使い、黒騎士の動きを完全に封じる。


 岩石の隙間からその眼光を覗かせる黒騎士。……完全にその動きは封じられた。……封じたつもりが。


「無駄だ」


 黒騎士の動きを封じていたはずの岩は、2秒後には砕けており、飛び散った岩の破片が一部の勇者に突き刺さる。



 黒騎士は思い知らせていたのだ。

「格」の違いを。

 無双、蹂躙、大虐殺。



 これから黒騎士に殺されるとも知らず、一目散に黒騎士に向かっていく勇者たち。

 ……それを見る、木の上にて佇む魔法使いが1人。




 バカだなあ、などとため息を吐きながら。

 負けると分かっていても向かっていく勇者たちを軽蔑したように、されど見守るように見つめていた。








********


 ———白の世界にて。

「話を聞いていますか?」


「……あ、ああ、聞いてた……けど。お前の名前は、神威……だろ?」


「そうです……ああいや、正しくは自律型戦闘システム、オーディンですが」


「……何が、いや、何をすれば……いいんだ?」


「貴方が私を所有するに相応しい者か確かめさせてもらいます」


「……はい?」


 ……なぜ?

 今更、この刀を持つに値するかを選定する……って事だろ?


「……何すんだよ、結局?」


「こういう事です」


 瞬間。

 目の前の全ての景色が反転する。

 白から黒へ。黒から赤へ。赤から黄へ。

 目まぐるしく変わる景色の中、神威擬人体が指差した景色に入り込む。



 ……入り込むとは言ったが、こちらは1歩として動いちゃいない。

 その奥の景色が、そのままこちらにスライドしてきたような、そんな感じだった。


「……ここは?」


「貴方が、最初の罪を犯した場所です。貴方はここで、戦ってもらいます」


 擬人体がそう口にした瞬間、さまざまな色の球が一箇所に集まり、そこに形作られたのは、


「……お前は……俺か?」

「……」


 そこに形作られたのは、紛れもない、昔の俺、俺の子供の姿をした化け物だった。

 子供の俺は手に刀を持っており、いつの間にか俺自身も刀を手にしていた。



「……誰だ、オマエ」


「僕? 僕はね……キミだよ。キミも気付いてるんだろ? 神威によって作られた、もう1人のキミ。それが僕」


「……殺せば……いいのか?」


 思考は切り替わる。


「殺せば、いいと思ってる?」


「……それで終わるならな」


「……馬鹿だよね、キミは。すぐに殺して終わらせようとする」


「ならば俺は馬鹿でいいさ。俺にはやらなきゃならない事がある。その為に、死んでく……」





「そう言って、何人殺してきた?」

「……俺は生きなきゃならないんだ。だからその為に殺……」



「6386人」



「……なんだ、それは……!」

「キミの……数だよ。今まで、斬り殺してきた数さ」


「……だからなんだと……」


「キミは生きなきゃならないだの、やらなきゃならない事だの何だの言ってるうちに殺してきたんだよ? これだけの数の未来ある人々をさ」


「傷を抉って楽しいか……!」


「傷? そうか、キミにとっては傷なんだ。でも、殺している時のキミの顔は……実に愉快なものだったけどね」


「やめろ……!」


「キミは結局自制できなかった。自身の内から湧き出る殺したいという衝動、『呪い』、『吸血衝動』、『食人衝動』を」


「……だから、やめろ……!」


「結局キミは、贖罪だの何だの言っていたけど何にも分かっちゃいなかった。自分の事を。本当に贖罪をしたいと言うのなら、今すぐその首、かき切ってよ」


「は……?」


「キミの代わりに僕が戦うからさ。キミは変われなかった。チャンスをもらっておきながら、根本的な問題は何も変えようとしなかった!」

「……ぁ……」


「兄さんの死を悲しんでいたけど、殺したのはキミなんだよ?」


「……何……だって……?」


「キミが黒の家から出なければ、兄さんに会う事はなかった。兄さんに会わなければ、兄さんは魔王軍の手を借りる事も無かった」


「……嘘だ……」

「兄さんが魔王軍の手を借りなければ、兄さんが黒騎士に殺される事もなかった!!」


「嘘だ……嘘だ……!」


「殺したんだよ、大事な人を! キミは、自分の手で!」


「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だっ!」


 ユメ、なんだろう。

 目を開ければすぐに覚めるユメで、現実にはなんの影響もない、ただのユメ。


 ……それでも、そのユメは、確実に俺の心を抉り取りに来ているようなものだった。


「……さて、もう終わりにしよう。いかにキミがどうしようもない人間か分かっただろ?……早く、その首をかき切ってよ」





「………………できない」


「……ハハッ! やっぱりそうだ。未練がましくこの世にしがみつき、何故だか分からないけど厳しいけれども生きていくと曰う! やっぱりそうだ、キミはそう、どうしようもないヤツじゃないとキミじゃない!!」






「……じゃあ、こうしよう」


 子供の俺は指を鳴らす。次の瞬間、俺が初めて「解体」した女性が、元の姿のままその身体を晒す。


「さあ、バラしなよ! 食べなよ! キミの思うがままだ!」


 ……嘘つけ、何が思うがままだ、既に体は思い通りではない。


 鼓動は速くなる一方。顔は引きつり、目を思いっきり見開き、「エサ」の姿をその目に捉える。


「そら見たことか、キミはやっぱり抗えない。食えばそれで終わりだよ! こんな長い長い悪夢は! 僕がキミの、現実での人格を乗っとるからね!」


 身体は今すぐにも女性に飛びかかろうと力を込める。

 だが、頭の中は違った。



 ……殺せば、終わるんだろ?

 この首、かっ切れば、終わるんだろ?

 ……だったら、終わらせよう。

 俺は……どうしようもない人間だ。



 でも、変えようと思って変えられるような人間じゃない。

 ……だったら。もういっそのこと、「受け入れる」のみだ。



 自分は弱い。自分はどうしようもない。

 ……だから?



 それで構わない。どうしようもなくとも、変わろうとは思わない。

 だから。こんな自分を受け入れつつ。全てを終わらせる決断をした。


「が……っ?! 何……で……僕を……」


 かっ切った、かっ切ってやったさ。「子供の俺」の首を。


 そして。

「ごぶ……っ!」


 自分の首もかっ切った。


 最後まで変われなかった。変わろうとは思った。変わろうとは言った。だけど変われなかった。だからこれは、そんな俺の、俺自身への儚い抵抗。


 ……最後まで変われなかった……とは言ったが。


 ……最後に自殺ができるなんて、よっぽど変われたんじゃないか、と必死に自分に言い聞かせた。





 そうして、俺は後に、この決断を()()()()こととなる。

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