運命の激突
物陰から現れた、黒き鎧を見に纏った女騎士。
しかしその身体には、纏わりついて離れない瘴気が染み付いていた。
「邪魔をするな黒騎士! これは俺様とアレンの必ずつけなければならない勝負だと言ったはずだ! キサマの出る幕なぞ……」
「……黙れ。貴様は私の忠実な下僕になると誓ったのを忘れたのか?」
下僕…………コイツにそう言わしめるまでに、自分のプライドまでも売ったってのか、兄さん……!
「貴様に完全に支配されるとでも思ったのか?」
「黙れ、私が出る」
「何を……!」
「私が出ると言っているんだ!」
場の全てを揺るがす重圧。
その重圧に、イデアは未だ耐えられずにいた。
「……ふざけるな、この、この勝負は、俺たち兄弟の勝負なんだ……!
許さん、許さんぞ……! 邪魔するなど絶対に許さん……!
キサマの思い通り、なんざなってたまるか……
キサマの、思い……通り…………なんざに……なって、たまるかぁぁぁぁぁあっ!!!!」
「兄さん……?!」
「呪縛から逃れた、か。だが、もう遅……」
「兄さん、逃げるぞ!」
すかさず俺は、兄さんの手を掴む。
「っなっ?!」
「戦うのは後だ、走るぞ!」
そうして、背水の陣を用い、しまいには兄さんを抱っこして猛ダッシュ。
「お、おい、キサマ……ッ!」
「黙っててくれよ、見つかっちゃ困るんだよっ!」
◇◇◇◇◇◇◇◇
「はあ、はあ、は……っ、逃げ、きった……か…………」
とりあえず、距離は置けた。ヤツの発していた突き刺すような魔力はその息を潜め、今この場には俺の吐息のみが流れている。
そのまま木と草の影に隠れて話を進める。
『どこに隠れたぁっ、イデア・セイバーッ!!!!』
猛々しいヤツの声は森一帯に響き渡るが、そんなものは今は関係ない。
「……兄さん、まさかアイツと組んで……」
「あんなクズとなぞ、組むわけがないだろう……!」
「……って言うか、アイツどうするんだよ! 多分アレ、俺でも勝てそうにな……」
「…………そうか、アイツが気になって仕方がないのか。……なら」
途端。地上の増してゆく影に隠れるように立ち上がり、兄さんは言った。
「……俺が行く」
「兄……さん?」
「ヤツには勝負を2度と邪魔できぬよう、必ずここで殺す」
「だから兄さん、ヤツは俺でも倒せない、だからせめて2人で……!」
瞬間。うなじに激痛が刻まれる。
「…………ぁ……兄……さ……ん……?」
次第に薄れゆく景色の中で。
「……キサマと一緒にやるなどと、死んでもごめんだぜ」
1人、吐き捨てるように呟く兄さんの姿を見た。
その背中はどこか寂しげで。もう二度と会えなくなるような、そんな悲しさを纏った背中だった。
「……キサマと、徹底的に、何も気にせず、己の全力をぶつけ合う勝負をする為に。俺は、ヤツを倒す。
……だからキサマは引っ込んでいろ。キサマがいると集中できん。
……そして……まあ、弟の為に犠牲になるのが兄らしい生き方なのだとしたら……だったら、俺様はそうした方がいいのかもな」
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そして、イデアは想う。
……昔々。父上が、最後の最後。本当に最期の時、「父親らしい事」をしてくれた時のように。
「にいちゃん! 石積もうよ!」
「にいちゃん! 抱っこして!」
「兄さん、今日も戦うの?」
「兄さんは……遊んでくれないの?」
「兄さん!」
「……兄さん」
……アレンの声がする。幼い頃からずっと一緒だったアレンの声が。
そう言えば、アレンとは1度も遊んでやった事がなかったな。
俺は、娯楽というものを教えられてこなかった。
だからこそ、アレンとは遊んでやれなかったし、自分1人では遊べやしなかった。
アレンが娯楽を学び始めてからというもの、アレンは父上とよく遊んでいた。
遊んでいた時のアレンは、決まって笑っていた。俺を視界に入れた時以外は。
アレンは俺を見た瞬間、ハッとしたような、どこか虚しい顔になった。
……全く遊ばせてもらえなかった俺を、まるで、いや、憐れむような虚しい顔に。
「兄さん! 一緒に遊ぼう!」
「兄さん! 一緒に鬼ごっこ……」
「兄さん! 一緒に……」
ある時から、アレンは俺を遊びに誘う時の誘い文句に「一緒に」だなんて言葉をつけるようになった。
……くだらない。全て今まで1人でやってきたってのに。
「1人で」生きていけるように特訓し、
「1人で」殺せるように教えられ、
「1人で」『プロジェクト・エターナル』を終わらせる為に全てを知った。
……カミの一柱、オーディンを堕とした時は、癪ではあるが共闘という手を取ったこともある。だがあの時は仕方なかった。
……二度と、あんなことはしない。今度こそは一人で終わらせてみせる。
……しかしやはり、そんな俺からすれば。「一緒に」だなんて、くだらない冗談だ。
それでも、アレンは何度も何度も、諦めずに遊びに誘ってきた。
全部全部、無視してみせたさ。
……最後くらい、一緒に遊んであげてもよかったな、と若干後悔しても……いるのかもしれない。
俺が1度でも遊んでやれば、アレンは人を喰らう殺人鬼にならず済んだのだろうか。
未だに何度か後悔はするものの、もはやそれは過去の話、今とは一切関係ない。
……だからこそ、何もかも1人でこなしてみせる。
つまり、キサマの出る幕はない、アレン。
腹は決まった。決意は満たされた。
後は、終わりにするだけだ、黒騎士。
黒騎士はなぜかアレンを殺す事に執着している。だからこそ、この場でヤツに勝つしかない。
この場でヤツに勝って、心置きなくアレンと決着をつける。
……待っていろ、黒騎士。
……待っていろ、アレン。
キサマが起きた時には、全ては終わっているはずだからな……!
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一方その頃。
村にて、センはようやく動き出した。
「白さ~ん、白さ~ん!!……いない……か」
……ダメだ。白さんの宿に来たけど、白さんのパーティはどこにもいやしない。
鍛冶屋に帰って…………そうだな、やってみようかな、あの刀の概念付与。
◇◇◇◇◇◇◇◇
鍛冶屋に着いて数分後。
甲高い鐘の音が村内に響き渡る。
普通では鳴らさない決まりのはずなのに。
……普通なら。
思えば、あの時だってこうだった。
「普通ではない事」が起きたり、起こしたりすると決まって悪い事が起こる。
……あの時。村に魔族が侵入してきた時。
僕を庇って死んでいった勇者を見た時。
僕が……勇者になろうと思った時の事を、鮮明に思い出した。
「セン……セン、お前は逃げないのか」
鍛冶屋の外から顔を見せたのは、おじいちゃんだった。
「あ、ああじいちゃん、ちょっとやる事があってさ、先に行っててよ」
「まさかとは思ったが……無事でいろよ」
「……うん」
素っ気ない、少し低い返事。
……それもそのはず、今まで僕の夢を否定し続けてきたじいちゃんが、今日に限っては全くもって止めやしないんだから。
正直言ってかなり違和感があった。
……恐らくじいちゃんは気付いてるんだろう。
「でも、さ、別に大丈夫だよね」
強くなる鐘の音と共に、迫り来る魔王軍。
はっきり言ったら怖かった。けど、今のこの村には白さんがいる。今はどこにいるかは分からないけど。
……それに、白さんは……白さんのパーティは魔王軍幹部だってやっつけてるんだから、多分大丈夫。
……だからこそ、白さんが戻ってきた時の為にも、概念付与だけでもしておかなくちゃ。




