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長い、長い夢

 ……ということで、今回から新章らしい……だからまあ、俺が振り返りをまたやることになったんだが……



 ———なぁ、どうして俺なんだ……色々きついのに、なんで俺なんだよ……(by白)



 まあいいか、前の章の振り返りは簡単だ……俺と、俺に恨みを持った遺族達が争った『新・二千兵戦争』が起きた、ただそれだけだ。


 ……もういいだろ、俺はもう何も言いたくない……え、まだ?……分かったよ、もう少し詳しく言うよ……


 遺族の軍をまとめ上げた女、『レイ・ゲッタルグルト』と対峙した俺は、色々あって最後に和解に成功……成功……したのかな……?


 ———まあ成功したと言うことでいいだろ、とりあえず……それで、眠ってしまって……今に至るってことだ……



 ———もう、休ませてくれ。疲れたんだ、俺も。

◆◇◆◇◆◇◆◇




 ……どこだ、ここは。

 身体を動かす。

 ……どこも動きやしない。

 ……いや、それどころか、勝手に動いている……!


 もしかして、アレか? 「もう1人」の俺に身体を乗っ取られた……ってやつか?



 ……だなんて思いもしたが、よく見ると自分の手や爪の形が違……似ている。


 ……どこだ、ここは? 洞窟……の中……?

 周りには…モヤのかかった誰かが。




 ……目の前には。頭の上に幾何学模様……のような輪っかのついた、青髪の少女が浮いている。


 その少女が指を前に突き出した瞬間。

 閃光と共に、自身の横にいた少女の胸が貫かれた。


 ……思わず、少女(サナ)の名前を叫びそうになった。

 どうして?…………この女とサナは違う……はずなのに……




 ……長い夢を、見た気がする。


 喪失感。

 失ったものは、と聞かれれば、特にないと言い切れるのに、なぜかその時の俺は心が喪失感で満杯になっていた。




 ———今度こそ、本当に目を覚ます。

 見た事がな———いや、あの天井だった。

 木造の黄色がかった茶色の天井。


 すぐそばには2つのベッド。

 そして……自身の足の方向にある、木の一部。




 ツリーハウス。

 そう、ここは———、

 黒の家、だった。





 と。台所から人影が姿を見せる。



「起きたか、白」


 紛れもない、黒……本人だった。



「……えっと……一体何があって……」

「えーと、あのー、端的に言えばお前を気絶させてここまで運んだ」


「あ、あの、何で俺は気絶させられて、って言うか、あの後一体どうなって」


「……お前らの戦いな、まあまあ目撃者もいたし、王都でもかなり広まってたんだわ。


 で、心配して来てみれば、刀片手に、とても人とは思えない人形のような形相で、今にも人を斬らんとしたお前がいた訳だ」


「……え?」


 必死に記憶をかき集める。

 そうだ、俺はあそこで意識が断線して———。






「ちなみに……あれから何日くらい経ってい———」








「1年だ」





「はい??」


 ちょっとごめん、訳がわからない。


「えっえと、俺が気絶してから……1年??」



「……そうだな、サナもいなかったし、お前一体どうし———」




「……殺し……たのか」


「どうした?」


「俺の周りに、死体はあったか」


「……ああ、1人、隻腕の少女が腹から斬られて仰向けになっていた。それに、その周りにも人が……それはもう、山のように積み上げられて死んでいた」


「…………………っ!」


 とりあえずお礼を言うべきだ、と思ったが、後悔と自責の念が自身を襲う。


 ……また。またなのか。

また、衝動に身を任せた。———いや、衝動に乗っ取られたんだ。



 ……一体何なんだ、コイツは……! 俺の中のコイツは、一体何なんだ……!

 何で殺そうとする、何で食べようとする、何で俺の中にこんな———。





 違う。自身の中に「もう1人」の自分なんていない。


 俺が、俺自身が贖罪から逃れる為にいつの間にかそんなモノが自分の中にいると思い込んだだけで。


 結局、みんなを殺したのは。俺だったんじゃないか、と。そう思ってもしまう。


 ……ダメだ、結局何なんだ、俺は。


「知らなかった」だなんて言い訳をし、好き勝手に人を殺し、贖罪の旅に出たと思ったらまた好き勝手に人を殺して……!


 そして、挙句の果てに大切な人との約束まで破って…………!!


 一体何なんだ、何をしたいんだ、俺は……!

 何で、何でこんな事やっている?

 何で生きる意味をいつの間にかにすり替えている?

 俺は……俺は———!





 もう、頭がどうにかなりそうだった。

 自分がしたい事を、肯定して、否定しての無限ループ。


 ……でも、これだけは言える。

 頭の中では既に結論は出ていた。いや、おそらく最初から。

 意見はまとまらない。だが、これだけは最初から分かっていた。だから、その結論を口に出す。




「……………もう、俺は戦わない」


「……そうか」

「……」


「何か……あったんだろ」

「……」


「何があった。お前の人生、お前の経験、お前の罪。全て話せ。俺は宗呪羅(師匠)にはなれないが、お前の力にはなってやりたい」


「…………………俺は……!」



 





 そこからは、まあ、この血に汚れ、約束も何もかもを裏切った俺の人生を、淡々と機械的に述べたまでであった。


 そして、その話を聞き終わると黒は、


「……そうか、ならば、お前はまだ戦わなくちゃならない」


 と、ただ一言のみ、告げた。




「……それは、何でだ。……予言があるからか?」



「まあ、予言もある、予言もあるが、お前には出会わなくちゃならない人がいる」


「……!」


「出会わなくちゃいけない人がいて、行かなくちゃならない旅があって、叶えなくちゃならない夢があって、償わなくちゃならない罪がある。だから、お前はまだ戦うべきだ」


「……」


「……だが、それも無理だ、と言うのなら。お前が、また罪を犯す事を恐れているのならば、ここで一生を過ごすといい。


 お前の人生だ。残りは好きにするといいさ。自分のやりたい事を探せ」


 そう、黒は告げて、ただ1人……リビングへと向かっていった。











『自分のやりたい事を探せ』

『生きて』

『白郎、私はね———』


 いろんな思考が頭を駆け巡る。

 その度に、グズグズしちゃいられないと立ちあがろうとするが、またその度に自身の業を思い出し、立ち上がる気力は失われる。


 ———俺は、どうしたらいい?



「嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ! もう、もう殺したくないんだ! もう二度と罪を背負いたくないんだ! でも、でも出会うべき人がいて、やるべき事もあって、結局どうすればいいか見失うんだ! 俺は俺は何をすればいいんだ、俺は何の為に戦えばいいんだ俺は誰の為に何をすればいいんだあっ! 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ、全部、全部! 何もかも! 嫌なんだよっ!




 誰か、助けて……! 俺を、俺……を……殺してくれ……!!」



 涙に濡れた悲痛な声が、ベッドに包まれる。

 ぐちゃぐちゃ。全てがぐちゃぐちゃ。目に見える全ても、心の中もぐちゃぐちゃだった。


 もう何もかも見たく無くなって見えなくなるくらいに、全てぐちゃぐちゃだった。


 心情の混沌のうねりの中で。








 泣き疲れた。

 何日泣いた?

 ベッドは未だに1つだけ湿っている。


 心の底から。心底失望した。

 自分に。何度も何度も同じ事を繰り返す自分に。


 今も昔も、何度も何度も同じ罪や同じ事を繰り返してきたんだ。


 一度失敗しようと、何も学ばず、次には何も変わっちゃいない。


 そんな自分に、何かを成し遂げる事ができるか?


 予言なんて大層なもの、成し遂げられると思うか?



 ……無理だ。

 もう俺には無理なんだ、何もかも。

 せめて、ここで。俺の唯一の居場所(ベッド)で、眠るように死にたい。

 最終的に心に残ったのは、そんなくだらない願望だった。








 ……また、長い夢を見た。


◆◇◆◇◆◇◆◇


 その夢の主人公は、愛する人を救う為に、仲間も世界も全て切り捨てて、幸せを掴めずに儚く散っていった、そんな主人公だった。


 たった1人で、愛する人のために、世界を、人間を裏切って突き進んできた主人公だった。



 それでも、結果的に主人公は世界を救った。

 太陽なんざない空にも輝きが戻り、潤いなんて無かった水が透き通るようになった。


 すごいなあ、と思う。

 でも。その動機は。


「愛する人を救いたい」そんな、ちっぽけな願いだった。





 俺は、幸せになれたでしょうか?

 俺は、生きる意味を見つけられたでしょうか?

 俺は、誰かの為に戦えたでしょうか?

 俺は、何かを守る為に戦えたでしょうか?



 答えは「ノー」だと思う。


 だって現に、こうして今でもくすぶっているのだから。

「約束」1つ守れやしない者に、何が守れるのか。

 夢の中の「主人公」と、自分を重ねる。例え夢という一時の幻想だとしても。

「主人公」は、裏切られた。自分の信じたものに裏切られた。それでも諦めなかった。


 どんなに打ちひしがれようと、「主人公」は自分の夢を突き通し、見事それを叶えてみせた。



「もしも願いが叶うなら」と、そう叫んで。

 ならば俺にはそれができるか? 自分の夢を、貫き通す事ができるか、できたか?


 今の俺には、間違いなく……できないと思った。


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