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もしも願いが叶うなら〜No pain, no life〜  作者: 月影弧夜見
第4章:新・二千兵戦争
24/88

別れ/決着

「うおおおおおおっ!」

「そうだそうだ!」

「死ね、人でなし!」


 平野の各地から湧き上がる声。

 全て、俺に向けられたものだった。

 あまりにも絶望的すぎる兵力差。まともにやって勝てるかなど、わざわざ確かめなくとも分かる事かもしれない。



 そんな時、後ろから、

「……白、私はどうすればいい?」


 だなんて弱々しい声が聞こえてきた。



「……逃げろ」


 小さな声で返す。



「……え?」

「浮遊法、習っただろ。それで今すぐ逃げろ」

「……でも、それじゃあ白が……!」

「じゃあ、()()()殺すのか?」


 このままここに残るというのなら。

 ソレは俺と一緒に殺戮を起こす、と言っているも同義なのだ。


「……」


「いいから、とっとと逃げろ。じきここは戦場になる。お前にとっては危険だ」


「……じゃあ白は、白はどうするっての……?」


「戦う」


「……っ!」


「人を斬るな、なんて、俺にはそんな約束すら守れそうにない。


 と言うよりもう破ってしまった。……これは俺が始めた事だ。責任を取ってたった1人で終わらせる」


「でも!……そんなの……白はここまで助けに———」



「……ぅうるせえっ! そんなに俺が心配か!……っ、ごちゃごちゃ言わずにとっとと逃げろって言ってるだろっ!」


 あまりの大きな声に、あたりは一瞬静まり返る。



「……じゃあ、じゃあ1つだけ、約束して」


 先程の俺の小さな声よりも更に小さな声でサナは語りかける。


「約束なんてしない方がいい、俺はすぐに約束を破るから———」



「生きて」


 言葉が遮られる。

 サナにとっても、これは相当な覚悟だったであろうに。







「お願い……お願いだから、必ず生きて帰ってきて……!


 あんな……あんな、罪も許せないような弱い奴らなんかに……負けないで!


 ……私は……知ってるんだから……貴方が必死になって、己の罪に向き合ってるのを知ってるんだから!


 そうやって頑張って生きてるのが貴方、ソレが白なんだから…………だから、必ず……生きて帰って来てね……っ!」


 目に涙を浮かべ、必死に約束を述べるその時のサナは、いつもよりもより一層弱々しく見えた。



「………………ああ、もちろん。それに関しては…………約束するさ」


 その言葉を聞き入れたサナは王都方面へと飛んで行く。








 ……さて、亡き師匠へ。すいません、約束は破らせてもらいます。

 ……でも、サナ。お前にはこの罰を、責任を、負ってほしくなかったから。







「…………さあ、やってやるよ、とことんテメェらの気が済むまでなあっ!!!!」




「別れの挨拶と死にに行く覚悟は済んだか?」


 隻腕の女は高圧的な声で質問する。





「……とっくの昔に、できてるよ」


 誰にも聞こえないくらい、小さな声で呟いた。



 ……でも。この戦いは。殺すための戦いじゃない。

 死ぬ為の戦いでもなければ、責任を取る為の戦いでもなくなった。


『生きて』

 あの言葉が、脳内で何度も何度も繰り返される。



 ……そう、この戦争は。

 生きる為の、戦争だ。

「約束」も、「夢」も、「名前」も、「戦う理由」も、「仲間の存在という認識」も、いつかどこかにかなぐり捨てたものを理性と一緒にかき集める。






「背水の……陣!」


 こちらが刀を構えた瞬間、敵は一斉に走り出す。

 ……狙いは、あの黒幕らしき女。

人混みの中を、文字通り斬り抜ける!


 殺す事も、負傷する事もいとわない。ただ走り、生きる為に殺す。良くも悪くも、動機は昔の俺と同じものであった。


 ただ、今は違う。


『誰か』に託された約束を。『誰か』に託された夢を叶える為に、今俺はここにいて、今の俺は刀を振りかざしているのだから———!!


 

 怒りも、憎しみも、悲しみも、快楽も、全ての感情を原動力に敵の間を切り裂きながら走り続ける。


 負けられない。死ねる訳がない。絶対に、絶対に成し遂げなければならない事がすぐそこにあるはずなのだから!


 ……もう1度、もう1度生きてサナに会う為に。



 はちきれんばかりの脚を動かし、呼吸する間もなく敵を斬り裂き、風と共に敵を斬りながら走り抜ける。

 動け、動け、動け!


 止まったら終わりだ。死体につまづいても終わりだ。それでも最後まで諦めるな……!


「……っうっ!」


 敵の刀が肌に触れる。

 触れたところからパックリと肌が割れ、中から紅色の液体が姿を見せる。だが———、



 別に手が切れようが足が切れようが関係ない。ただひたすら、走り抜けるのみだ……!





 ズシャッ、と。鈍い音。


 目の前を塞ぐ、最後の敵を斬り捨てる。

 周りには誰もおらず、少し離れた所にいた者たちは、俺が通った場所の死体を見てひたすらに怯えていた。




 ……目の前にいる、ドス黒い気を放つ……隻腕の女以外は。




「この、この兵たちを集めたのは、お前か?」


 眼前にて立ちはだかるは、左腕のない隻腕の女。

 コイツが———黒幕だ。


「そう、私が兵を集め、私が戦争を引き起こした。


 名を———レイ。レイ・ゲッタルグルト」


「…………何の、為に?」

「復讐の為、それ以外あるわけがないじゃない……!」


 女はそんな簡単な事も分からないのか、と半笑いで返答した。


 ……すると、女は上半身の服のポケットから、液体の入っている針のついた容器を取り出す。


「……何をする気だ。ふざけた事はやめろ……!」


「いいえ?……別に、ふざけている訳じゃない。そちらが両腕なのに、こっちが隻腕だなんて不公平でしょ?」


 そのまま女は針を隻腕の断面に突き刺し、中の液体を注入する。


「私は、今の今までお前を殺す為だけに生きてきた。お前を殺す為だけに刀を持ち、お前を殺す為だけに魔族にもしがみついた!……その結果が……コレ……!」


 女は自慢気に隻腕の断面部分を見せびらかす。



 すると。

 断面部分の肌が膨れ上がり、その肌を突き破るようにして紫色に変色した新たな肌が姿を見せる。

 現れた紫色の肌はそのまま膨れ上がり、次第に腕を形成していった。



「……ふふ……んははっ……あははは! 人斬りぃ! 見えているかこの巨腕!……お前を、お前を殺す為だけにここまでしてきたんだよっ! 

 

 お前を、この手で散々痛めつけて、原型が留まらない位にズタズタに引き裂いて嬲り殺す為に!!」



「……やっぱり、殺し合いか……」


「そうだ、そうだとも! 当たり前じゃないか! お前はあまりにも殺しすぎた! 私の父も、私の母も、私の兄弟たちも!


 みんなそうだ、ここにいる兵たちはみんなそうだ! なのに誰1人として、強い奴に媚びはしなかった!」


「……」


「でも、私は違う。お前を嬲り殺す為だったら何だってする!……いや、何だってしてきたのよ!」




「……哀れだ」




「何だって……?」

「俺と同じ、過去の醜い憎悪に囚われた哀れなヤツだ、と思っただけだよ」




 率直な感想。俺はいつの間にか、女と自分の姿を重ねてしまっていた。


「何を……何を言っている人斬り……キサマ……キサマと私が同じ……だと!……そんな訳あって……たまるかぁっ!」


 相手は最初っからガチギレ。全くもって煽り耐性なしである。



 女は巨腕を突き出し突進してくる。

 流石にアレは俺でも掴まれたらひとたまりもないだろう。文字通り嬲り殺される。


「背水の陣、脚ノ項……!」


 だからとりあえず避ける事にした、が、問題はどうヤツを殺すか、だ。



「つああぁぁあっ!」


 巨腕が振られた隙を突き、女の本体に向かう。

 しかし。

 直上には、既に巨腕が迫っていた……!

 すかさず地を蹴り後ろに飛び退く。



 ……計算外だった、巨腕だから動きが鈍い、だなんて勝手に思い込んでしまっていた。


 ……が、そんな固定観念などとうの昔に崩れ去っていた。



「……ふふは……! 遅いなどと、思ってたわけ?!」


 女は歓喜しながら巨腕を振り続ける。

 とりあえず避けながら、作戦を練る。



 まず、本体に近づくのはほぼ不可能。ならば、一か八か刀を投げて……いや、そんなに早まらなくてもいい方法があるじゃないか。


 刀を腰の鞘にしまい、手を前に突き出し、ひたすら魔力を流し込むイメージをする。

 そう、凍結。氷魔術で腕ごと凍らせる……!


「フリーズっ!」


「……」


 女の巨腕が氷に包まれる。

 しかし、次の瞬間。




「ふっ!」


 女は思いきり腕を振り、氷の膜を振り割った。

 


「ならば……!」


 炎属性ではどうか、と思ったが、あの分厚い巨腕の前には無力に等しいだろう。

 ……どうする。どうするどうするどうする?!





 こういう時、冷静に考えればいい策が思………………いつかないのが普通だ。

 これ以上の策も、この場を打開する案も何も思いつかない……!


「どうした人斬り! 攻撃しないのか?!」



 女は未だにこちらに向かって巨腕を振り続けている。体力切れ、なんて言葉を知らないかのよう……に?



 振り下ろされる巨腕をくぐり抜けた後。女に異変が。


「……あっ……ああああああっ!!」


 悶絶。女は、未だに「ヒト」の腕である右腕で、左腕の巨腕と肩の付け根をおさえながら悶絶していた。



 今だ、とも思ったが、どうも様子がおかしい。


 よく観察すると、肩の付け根からどんどん紫色のシミが広がっているのが分かった。

 そのシミが広がると共に、汗を流し悶え苦しむ女。




 ……そうか、まあ、普通そうだろう。

 魔族。ヒトの上位存在。ヒトを超えた力。


 飲み込まれれば、そこには苦痛しかない。

 例え女が俺を殺したとしても。女は広がり続ける紫のシミと共に未来永劫苦しみ続けるのだろう。


 ヤツは……それを承知であの液体を注入したのだろうか。

 だから何だ。ヤツを助けるつもりか、と理性が問う。





 ……でも。過去の苦しみから逃れられないってのはとても辛い事、だって。今日、学んだばかりだから———。




 ———確かに、先程までは生きる為に殺してきた。師匠との約束を破ってでも。だけれど。師匠の願っていた世界は、そんな世界だったか?



 苦しんでる人を見逃すような、そんな世界だったか?







 ———否。師匠なら、この場で女を助けようとするはずだ。……分からないけれども。


 ……なら。例え俺の幻想だとしても、師匠ならばそうするのだろうと言うのならば。


 あまりにも身勝手だった。

 殺しておいて、やっぱ助ける、とか。

 ……それでも、俺は、やっぱり———。









 目的は切り替わった。

 生きる事? 最優先だ。しかし、その下に新たな項目が追加された。

 あの女を助ける事。

 どうにかして、ヤツから紫のシミを剥がす事。


 そうだ。空っぽだった夢に入ったのは、


「みんなが苦しむ事のない、楽しく生きられる世界」を作る事。誰かから受け継いだ、ただ1つの夢だったはずだろう……!



 戦うしか道はない。力しか解決できない。だが、他の解決方法があるとしたら———?

 ならば、ヤツからシミを剥がす方法を考え……




 瞬間。視界が持ち上がった。


「……つ……か……まえ……たぁっ!」


 腹に違和感。そう、あの巨腕に腹ごと掴まれていた。


 そのまま1回俺を上に飛ばし、今度は俺の足が掴まれる。


「しまっ……?!」

「ふふっ……!」


 1秒。自身のすぐ後ろで爆音がすると共に、俺の脳内を激痛が襲った。



「かっ……はっ…!」


 喉の奥から血が噴き出し、吐血する。

 一瞬何が何なのか状況が全く掴めずにいた。


 2秒。自身の体が激しく移動し、耳の後ろでヒュッ、だなんて空気音が通り過ぎ、またもや激痛が背中を襲った。



 ……いた、すぎる。こきゅうしようとかたをうごかすだけでも、げきつうがはしる。


 3秒。またまたはげしいげきつうがせなかにはしる。

 いま、おれはせなかからじめんにたたきつけられているという事をようやく理解した……!




 ハッとする意識。

 突然の事に吹き飛んだ思考力は、いまこの瞬間に戻った。



 女は3回俺を地面に叩きつけた後、俺を地面に横たわらせ、余裕の表情で、


「さあ、次はどんな方法で痛めつけられたい?」


 だなんてほざきやがった。

 身体を動かす。動かそうとする、が。

 ……動かない。右足も、左足も、左腕も、胴体も、腰も、股関節も動かない。


 唯一動くのは右腕と左手、そして首と脳内の思考だけだった。


 女は近づいてくる。



 抵抗しようと、必死で刀を前に持ってくる。


「もう終わりよ……殺人鬼。お前は今日ここで、私に嬲り殺されるから……!」


 そんな事、あってたまるか。

 そんな結末、あって……たまるかよぉっ!!!!


「でも死に方だけは選ばせてあげる。何がいい? 安楽死以外で溺死や窒息死、失血死や焼死なんて……」


 うるさい、女。そんなものはどうでもいい。

 死んで、たまるか。

 こんなところで、何もできずに、死んでたまるか……!




 約束したんだ……! もう2度と、誰かとの約束を破る訳にはいかないんだ……!


 さっき、俺とアイツは同じだって思ったが、よく考えると明らかな相違点がある。それは———。





 俺には護るものや大切なものがあって、だけどアイツにはそんなものは無く、あったとしても無くなった、もしくは捨て去ったという点だ……!





 負ける訳にはいかない。

 大切なものを背負ってるんだ。

 今まで殺してきた罪と、罰と、償いと、贖いと、殺してきた人の人生を背負っているんだ……!


 負ける……訳には……いかないっ!!




 必死に考えを巡らせる。この状況を打破できる策を……!


『エクス……プロージョンっ!』


 数日前のサナの言葉が思い浮かぶ。

 ……そうだ、爆発魔術だ……!

 左手の手のひらを下にし、そこに魔力を込める。




 地面を使って、爆発魔術で舞い上がる……!

 しかし、爆発魔術はまだ誰にも習ってない、が。



『いいか白、魔術はイメージだ』


 つまり、後はイメージだ、考えろ……!

 爆裂魔法が頭に浮かぶ。……違う、俺には出来やしない。

 ……きた。きたきたきたっ!

 イメージが定まった……!




「でも、斬首なんて方法もアリ……ん」


「クラァァッシュ!」


 クラッシュ。基礎的な下位爆発魔術。

 でも、舞い上がるには十分なエネルギーだ……!




「っなっ?!」


 女は一瞬状況が飲み込めずに困惑する。その間に俺は。

 女の頭上まで飛び上がっていた。



「ゴホッ……ゲホッ! 人斬りめ、一体何をして……!」


 爆発の際に発生した砂煙がいい感じに女の視界を遮っている。


 ……後は、目的は1つ。

 落下しながら、紫色のシミが広がりつつある女の肩を切断する……!


 チャンスは1回。失敗したら、シミの拡大は止められないどころか……俺の命はないだろう……!



 それでも。



「俺の命も……約束も……大切なものも……俺の全てをかける!…………一世、一代の、大博打だあぁぁぁぁあっ!!!!」


 刀を突き立てる。落下しながら、肩のちょうどいい位置に刀を差し込み、

 そのまま、ありったけの力を込めて振り下ろした。



 瞬間。上半身に激痛。

 高所からの落下の衝撃だろう。

 しかし、ヤツの巨腕は。


「キサマ、何……をっ……!」


 ヤツの巨腕は地に落ちた。

 

 女の肩には紫色のシミもない。

 ……バカだな、俺も。自らを殺そうとした敵を助ける……なんて。


「……あ……ぅっ!」


 何とか動こうと、足に力を入れる。が、おそらく骨折してる為、身体のどこも動きやしない。


 だが、動けないのはあちらも同じらしく。


「……ぁ……ぁああっ……!」


 女は右腕で肩の断面を押さえていた。




「……残、念だったな………………ごふ……っ……!」


 込み上げてきたモノを、思い切り吐血する。



「へらず口を……貴様だって、疲弊しきっている…………はず……?」


「だ……か……ら、どう……したってんだ……トドメを、刺さないってのか……俺はもう、動けやしないんだぞ……!」



「その……前に、1つだけ……聞かせて」


 ……まあ、そりゃあ疑問に思うだろうな。


「どうして……どうして、私を殺さなかった?」


「……」


「空に飛び上がったあの状況で……私を殺していれば……終わった筈……なのに」



「……お前が」


「……」


「お前が、苦しんでいたから……だよ……」




 そんな、本当にくだらなくてどうでもいい理由。

 本当は私情を持ち込まない戦場において、不用な理由。


 ……俺は……バカだった。

 こんなヤツの為に命を張って。

 約束も2つ破って。

 もう、おじさんやサナにも会えなくて。



「何で」


「……」


「何で、そんな理由なの……?!」




 でしょうね。

 当たり前、当然の反応。予想はしてた。


「わた……私は、お前の事を殺そうとして……!」


「だから……苦しんでたから……殺さなかったって言ってる……だろ……さっきも言ったじゃねえか……殺したくない、って……さあ、早くトドメを……刺せよ」



「……………………何でよ」

「……へ?」


「何で、お前がそんな事を言うのよ! お前が! お前が何も思わずに、ただ殺戮を繰り返しているなら! 私も、何も躊躇わずに殺せたってのに!!」



 そりゃあ、そうだよな。


「お前が、極悪非道で、冷酷無比な殺人鬼だったら、私も何も迷う事なんてなかったのに!!」



 ……でも。

 それはお前のただの願望であって。

 俺がそうだったらいつでも殺していい、という大義名分。それが今までコイツらの中にあったからこそ、この戦争は巻き起こった。



 でも、俺だって人間だ。




 今までさんざん殺してきた狂人でも、贖罪の為に旅をしていて、俺だって成長していると知れば。コイツらの中の大義名分はどうなる?



 少なくともコイツにとっては……戦う事を見失うくらいには絶望している。……まあ、プライド捨ててまで魔族に媚び売ったもんな。






「何で……何で化け物でも、人斬りでもなく……ただの人間になっちゃったのよぉ……!」


 女にとっては、全く、訳が分からなかった。

 何でこんな殺人鬼が急に人を助けるような事をしたのか。






 というかそもそもどうして、この殺人鬼はわざわざ名前を変えて旅をしているのか。 


 ……ただ、今の言葉で。後者だけは分かった気が———人斬りにも、きっとソレに関して色々思うことだってあっただろうから———。





「……おいおい、自分から……殺し合い仕掛けといて優しくしたら……泣き喚くのかよ……っ!」


「……」


「もういい、こんなの……終わらせよう。まだみんな……納得してない人もいる筈だけど……それでも、別の道を……模索していけばいい……」


「……」




「俺だって、衝動に任せてしまった分は……償う。どんな方法でもいい……血を……流す事以外で———」



 その時。またもや頭が割れそうな激痛が走る。

 また、俺に「コロせ」と命じるのか……!

 やめろ、やめろ、やめろ……!

 ……一体何なんだ、俺の中にいるコイツは———!



 身体は未だ動きやしない。

 だが、中のコイツを放っておけばこの身体も勝手に動いてしまいそうに、なる……!


 ……人を見てはいけない。今誰か人を見てしまえば、それこそ一生この衝動が収まらなくなる……!


 体温がどんどん上がっていくのを感じる。

 見るな、見るな、見るな……!




「……逃げ……ろ……」

「……えっ」


 掠れ過ぎて、今すぐにも掻き消えそうな声で警告する。


「……ダメ……なんだ……とりあえず……今す……ぐ、逃げろ……!!」


「何、なんなの、なんでこんな時にそん———」


「っ早く……っ! 今すぐ……逃げろ……兵と共に……逃げろ……っ!」


 もはやここが、ついさっきまで殺伐とした戦場だったとは思えない発言をする。

 ……が、また、罪を犯す訳にはいかない……!


 もう殺す訳にはいかない!

 まだ俺の理性が少しでも残っているうちに、この場から……離れて……!




 ……その時。

 プツリと音を立て、俺の意識は暗闇の深淵に呑まれていった。

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