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もしも願いが叶うなら〜No pain, no life〜  作者: 月影弧夜見
第3章:緋色のカミ( Ⅰ )/救世主(セイバー)
19/88

修行( Ⅱ )/背水の、陣

◆◆◆◆◆◆◆◆


「……お……はよう、今日は白が飯当番だ」

「……うぁっ、めんど……くさいな……」


 黒のツリーハウス(?)に住み始めて3日目にして、ついに俺は基礎的な魔術を扱える様になった。



 ……だから飯当番をさせられている。


 朝から炎魔術で野菜を炒めるだけの仕事だが、黒曰く、意識がはっきりしない時にも魔術を扱える様になる、という修行らしい。

 ただサボりたいだけだろ、なんて質問は聞くだけ野暮だろう。



「よし、白も昨日で身体強化魔術を自由に扱える様になった訳だし、今日は『背水の陣』の修行に取り掛かろう」


 

 という事で今日も元気に修行に取り組もうとした時、黒が衝撃の一言を発した。

「……ちなみに言っとくが、教える技は何も1つじゃないぞ」


「は?」

「はい?」


「背水の陣と、もう1つ。魔力障壁を利用した浮遊、そして魔力による時空間固定式浮遊法を教えるつもりだ」



「浮遊……って、何?」

「え……もしかして浮遊って、私たち空を飛べるの?!」



「魔力消費は大きいがな」

「浮遊って、空を飛ぶって事なのか! すげーーっ!」


 あまりのぶっ飛んだ魔術行使方法に、語彙力が吹き飛ぶくらい驚いてしまった。なんだよ浮遊って。なんだよ空を飛べるって。凄すぎじゃんか。


「まずはもちろん背水の陣からだ。俺の場合、編み出しからの習得まで4年かかったからそのつもりでやってくれ」


「よっ……!」

「嘘でしょ……あと4年も野菜生活だって思うと……頭が……!」



「だったら早くするぞ、まずは自分にとって1番最悪な、本当に絶望する様な状況を思い浮かべてみろ」



 ……まあ、普通なら、魔王に村を滅ぼされた~、だとかが思い浮かぶだろう。でも、俺は。

 既にその様な最悪の状況に出会っていた。






 2000もの雑兵。その全てが刀を持ち、その全てが俺に敵意を、憎しみを向けている文字通り最も悪い状況下。


 後の名は『二千兵戦争』。


 …………が、俺はその状況を打破している。

極限まで集中を高め、近づいてくる者を1人残さず薙ぎ倒す、人によっては卑怯とも取れる守りの手法。


 近づいてくる者がいなくなれば敵の位置を把握し、行動を予測し、予測した行動と実際の行動を照らし合わせ、敵の隙を突く戦法。


 ……その戦法を今使うのだとしたら。


 あの時の様に、小柄だから敵の刀が当たらなかった、なんて事は起きはしない。


 ならば、今2000もの雑兵を討ち倒すのだとしたら。

 想像しろ。イメージだ。目の前にあるどんなものでもいい。むしろ何も無くていい。


 目の前の敵を。目の前の景色を。想像する。

 その先にある、たどり着いた結論…………それは。



 スピード。敵の目視を上回る圧倒的なスピード。


 パワーはこの際関係ない。敵の胴体に刀を当て、そのまま引き抜くだけで敵は重傷を負うからだ。

 ならば。スピードだ。




「背水の陣…………」


 一瞬のうちに移動する。頬を撫でる風をも斬る、圧倒的なスピード。


 ……と同時に、ヒュッ、と甲高い音を立て、地面にほぼ並行に風を撫でる様に振られる刀。


「白……お前……」

「え、なんなの今の動き」


 魔力行使だ、身体強化魔術だなどと考える間もなく、俺は脚力強化魔術を使っていた。



 その証拠に、足に浮かんだ線状の回路が紫色に輝くのが見え、辺りの景色も少しばかり進んでいた。


 ———その結果が。あの馬鹿げたくらいに速い移動だった。


 もはや、走りではない。等速直線運動、とも呼べるかの様な動きであった。



 今までよりも段違いのスピード。あまりの速さに、サナと黒は唖然としたまま、口を開けたままだった。その口は……ポカン、だなんて擬音が似合うくらいに開いていた。



「お前……たった今ので背水の陣を……使ってみせたのか」


「凄い……凄いよ白! 私の脚力強化魔術なんかとは比にならないくらい速かった!」


「そ…そんなにすごかったのか」


 思わず照れてしまう。




「ああ、今のを名付けるとすれば背水の陣、(きゃく)の項だな」


「かっこいい……脚の項……! めっちゃかっこいい……!」


 やはり俺であっても年頃の男の子。こういう言い回しには興奮するものなのである。




「白、今のは本当に凄かったぞ。あんなに一瞬でマスターしてしまうなんて、よほどの死線を潜ってきてなきゃできはしない……荒技だ」


 そうだ。死線。


 死ぬか生きるか、それを問われる勝負には慣れていた。

 だからこそ、あそこまで容易にイメージできたのだろう。



「……で、サナは何か想像できたか?」


「え~、え~と、なんか具体的なものが浮かばないと言うか……」


 そりゃあそうだ。今まで戦場という戦場を死ぬほど体験してきた俺に比べて、サナはまだまだひよっ子みたいなもんだから。


 というか、普通の人なら生きるか死ぬかの闘いなんて、人生に1度あるかないかのものだろう。

 ならば。



「……待てよ、そもそもサナ、お前って背水の陣を使う必要があるのか?」


「白、それはどういう事?」


「サナは氷魔法とか使えるから、遠距離から主砲をぶっ放せるし、近距離だろうと魔力障壁を張るなり身体強化魔術で逃げ出す事だって可能だからさ、無理してできるか分からない背水の陣を練習する必要があるのかな、って」


「言われてみれば……そうね」



「だったら次の練習に移行するか?」

「だな」

「そうしましょう!」


 ……と、気を抜きかけたところで。





「ならば……白、手合わせだ」

「はい??」


 あまりにも突然勝負をふっかけられたもんだから声が裏返ってしまった。



「手合わせ、だ。俺も自作の木刀があるからそれを使う。いいだろ?」


「なるほど、背水の陣の実践練習と」

「そうだ、サナは危ないから離れていてくれ」




 黒は木刀を構え、そのまま目の前で面を見せる様に立ち止まる。

 守りの姿勢だ。おそらく攻めに来い、と言うメッセージだろう。



 ならば。遠慮なく行かせてもらう。

「背水の陣、手ノ項!」


 黒に切りかかる、と見せかけ、

「……そう来たか」



 素早く屈み、刀で薙ぎ払う。

 そう、狙いは守りに入った体勢を崩す事。確実に決まった、などと腹を括っていると、

「悪いが、攻撃は全て受け止めさせてもらう」



 黒は予備動作無しにそのまま刀を振り下ろし、俺の刀を上から刀で押さえつける。

「嘘だろ?!」


 すかさず黒の方の地面を蹴り、姿勢を屈めたまま距離を取る。しかし、それが悪手となった。


「黒が……いない?!」

「上だ」



 ……視界から黒が消えて僅か1秒。

 黒は既に軽く跳び上がっており、そのまま刀を振り下ろす。

 すかさず刀でガードしようとするが、


「間に……合わな」


 あちらの刀が振り下ろされる方が速かった。






「……さて、俺の勝ちだな」

「自分の強さを自慢したかっただけなんじゃ……」


「違う、お前の弱点を見出す為だ。事実、白の弱点は分かった」

「俺の……弱点?」




 そこに横から見ていたサナが口を挟む。

「白はね……動きが派手なの」

「は……で?」



「そう、1つ1つの動作を大きくしすぎて、次の攻撃への対応が全くできてなかったわ」


「最後、俺が刀を振り下ろしながら降りてきた時、白の動作がもう少しコンパクトだったのなら、俺の攻撃はガードされていた」


「でも、俺の攻撃はスピードに自信があって……」


「いくらスピードが速かろうと、予備動作が大きすぎるからプラマイゼロ、つまり相殺される形であんまりスピードが出てないのよ、白の攻撃は。


 ……その分、黒さんの攻撃には隙が無かった。予備動作がほとんど無しですぐに次の攻撃に移るから、スピードも速くどんな攻撃にも対応できるって訳」


「そうか、だから最初のアレはガードされたのか」



「そう言う事だ、だが白、背水の陣のパワーはキチンと使いこなせていたぞ。もう少しで押さえつけてた刀も持たなかったからな。


 ……さ、動いたら腹減ってきたなっ……って事で白、罰ゲームとして昼飯の調理はよろしく」


「え~……めんどくせ~……」


 …………俺が黒に勝てる日はまだまだ遠そうである。

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