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もしも願いが叶うなら〜No pain, no life〜  作者: 月影弧夜見
第3章:緋色のカミ( Ⅰ )/救世主(セイバー)
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贖罪、償いと贖い

◆◆◆◆◆◆◆◆


 その日の夜。

 ツリーハウスの柵に腕を垂らし、星と月以外真っ暗な空を見つめていたその人影は、サナのものだった。


 月光が反射し、サナの顔が映し出される。

 ……ああ、やっぱりどこからどう見ても美人だ……


 ああ、いかんいかん、ダメだダメだ。そんなにジロジロ見たらあっちの視線がなーーーっ……




 ……え? あっちの視線?


 気がついた時には、サナは既に微笑みながら、こちらを見つめていた。



 どうせなら、と思い、話せる様にサナの隣に移動する。

 そして、聞いておきたかった事を質問した。



「……なあ、どうして俺が、人を斬ったって分かったんだ?」


 一瞬で場の空気が岩のように重く冷たくなったのが分かった。それほどまでに、今の質問は聞いたらまずかったのだろう。でも。



「……教えてくれ、なんでそんな事……分かったんだ?」



 どうにかして、聞き出そうと努力する。すると、


「……じゃあ……聞く? 私の……『本当の』親の話」

「……聞かせてくれ」





 もう、想像はできていた。

 多分サナが、……俺が初めて人を食べた時にいた親の……娘なんだろうなと、予想はついていた。


「えっとね、私の母親は……多分あなたが食べたの……言葉に出すとヘンな話よね」


 ……まあ、分かってはいたが凄絶だ。

 ヒトを食べるヒト……今ならば分かるが、そんなことただの狂気でしかないと言うのだから。


「あの時の事は、今は鮮明に覚えてる。……いや、そのように思い出したのかな。


 ……だから、そんな事をした何者かが白じゃないかって、疑いたくないけど、疑わざるを得なかった」



 ……なんでそんな事を平気な顔をして言えるんだろうな、などと思いつつ聞いていた。


「それで……父は……多分あなたが斬り殺した。……二千兵戦争……って知ってるでしょ?…………そこで……父の遺体が見つかった」


 二千兵戦争。今でも鮮明に覚えている。

 日ノ國が、()()()()()()()()()2()0()0()0()()()()()()挙げた、最悪の戦争だ。


「……ごめん」


「別にいいの。終わった事だし、あなたも生きる為にやった事だろうし。それに、これで確信に変わったけど、白が……人斬り白郎、よね」


「そう……です」


「……やっぱりね」

「……なんで、記憶喪失だってのに、そんな…………事覚えているんだ」





「この記憶は……前に誰かに封印してもらったの。でもこの前、リーとの戦いの時に、人を食べるゴブリンを見てフラッシュバックした…………だから、つまり思い出しちゃったわけ。こんな最低な記憶を」


「あ……」

「それで、聞きたい事はもう終わり?」

「そう……だけど」



 会話が途切れる、重い空気の中で。

 気まずい状況が続く。

 しばしの静寂の時。


 そんな静寂を引き千切るかのように話し始めたのはサナだった。


「ごめん、独り言話すけど……いい?」

「……うん、いいよ」


「私ね、白はそんな事してないって思ってた。自分の事に責任を感じていて、後悔していて、そんな人が人を殺めるなんて事は多分しないだろう、って思い込んでた。


 この前、白が本当に人を殺した事を打ち明けた際、正直言って酷いと思った。


 未来ある人の命を奪って、それを自分の生活の糧にしてて、私の母も……殺してて。


 だから、ふざけるなって、もうお前とは一緒にいてやるもんか、って言おうと思ってた。


 でも、白には白なりの信念があって、他人から引き継いだ夢があって、自分の起こした最悪の展開を二度と起こさない様に、二度と自分が後悔しないようにする人だって事は、前の戦いで分かってた」




「……」


「だから私は……ちょっとおかしくなってたの。———最初は白に、思いっきり……死ねっ!……って、言ってやろうとも思った。


 でも、やっぱり放っておけなかった」


 そりゃあ……そうだ、俺なんて今にもコイツに殺されて当然なんだ。


「白は、自分は死ぬべきだ、だなんて思ってるかもしれないけど、あなたは知らなかっただけ。それが悪い事だって」



「……」


「だから、……あまりにも、可哀想だなって思ったの。


 知らなかっただけなのに、ある日突然命を狙われ、その危機から脱しても、人を殺した、なんて過去はずっと白についてまわる。


 確かに人を殺す事は悪い事よ。でも、だからってあなたが死んで償うべきなの?


 死んだら、全て終わり?…………違うでしょ、白は、今まで積み上げた死体の分、生きなきゃならない。償いとして。贖いとして。


 他の誰かが掴み取れなかった幸せを、あなたが代わりに掴み取ってあげなきゃいけないって、そう、思ったワケ」



「……」


「だから、私が今ここにいる訳で。白に、白なりの幸せを掴み取ってもらう為に、私はここにいる。白と一緒に旅をしてる。


 ……だからあなたは生きてなきゃいけない。白には、生きてもらわなきゃいけな……って、私は思って———ってえっ?!


 寝てる……じゃない……!」



「……」


「いくら独り言だからって…寝るのは流石に……っ!」


「……」


「……失礼……でしょ」


 何かに気づいたのか、サナの物言いが少しむすっとした物言いに変わる。




 多分、バレてるな。

 全然寝てない事。

「わ……わたしっ! 先にベッドに戻っておくからっ!……んもう、何で寝てるの、てゆーか何であの場で寝れるワケ?! どうして~……」






 失礼、かな。


 それは……罪から逃げるようで。

 もはや俺すらも聞いていたくは無くなったけど。


 サナが去った後。

 もう誰もいなくなった、月照らす樹木の展望台にて。


 ……辺りは暗い。


 いつかの俺のように、暗く、暗く、どこまでも深く、暗い。


 だが、月明かりが、かろうじてその暗闇を打ち消している。

 まるで絶望の最中、一筋の希望の光が差し込むように。



 そんな中で。






「……なんでみんな、こんなに優しいんだ」


 ただ1人、吐き捨てるように……呟いた。



 それが、俺の贖罪か。

 そうやって、少しでも生きて、幸せを享受する事こそ、俺の贖罪だと、サナは……お前は、そう言うのか。




 だからこそ、か。




 俺は、俺なりの幸せを掴むことを……この夜、決意した。










 この世界は、つくづく優しすぎるんだ。


 こんな俺なんて、今にも死んで当然の事をしてきたっていうのに。


 それでも、それでもまだ運命は俺に手を差し伸べて。

 まるで無邪気な子供のように「何度だってやり直せる」と、そう告げるように。



 

 でも、この時の俺は……間違いなく嫌な予感がしていたんだ。


 近いうちに、俺は俺自身の運命と対峙することになる、と。

 そんな何の根拠もない直感が、頭の中を駆け巡る。


 怖くて仕方がなかった。そんな抽象的なものに、怖さを抱くのもかなりおかしいのだが。

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