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もしも願いが叶うなら〜No pain, no life〜  作者: 月影弧夜見
第3章:緋色のカミ( Ⅰ )/救世主(セイバー)
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絡みつく残像( Ⅱ )/前日譚

「そうか、キミか。噂に聞く人斬り白郎ってのは」


 後ろからコエがする。優しくて、全てを包み込むような男のコエが。



「……だれ、ですか」





「名乗っておいた方がいいかい?」


「……」


「返事くらいはしてくれてもいいと思うけどなぁ……とりあえず名乗っておこう。


 私の名前は雪斬(せつぎ)宗呪羅(そうじゅら)。これからよろしく」



「これ……から……?」


「そうだ、これから私がキミを預かろう。そして、私がキミを育てる」

「……??」



 あまりの事に驚きを隠せなかった。


 突然現れた男は周りの死体に驚く事もなく、その死体の山を生み出した俺に恐れる事もなく、あろう事か俺を育てる、だなんて言い出したんだから。




「驚くのも無理はない。だけど、キミは今死のうとしていたろう?」


 無言でコクッと頷く。



「だから私がその命を救う。死のうとしていたのには理由があるんだろう?……だったら、私がそれを解決してみせようさ。


 さ、ここにいても冷えるだろうから、お兄さんについてきたまえ」



 なんて事を口走ると男……宗呪羅は胸を張り、上機嫌のまま鼻歌を歌いながら歩き出した。


 ……何がなんだか分からなかった。きっと、この人はおかしいんだろうと思った。名前も何かヘンだし。





 でも、なぜか着いて行きたくなった。

 この人なら、こんな俺でも受け入れてくれるんじゃないか、と思ったからだ。


 この人にだったら、全てを話せると。この人といれば、きっと自分にとって大切な「何か」が見つかる、などといった幻想を信じてしまったからである。



 今思えば、ソレがこの旅(悪夢)の始まりだった。





◇◇◇◇◇◇◇◇



 着いたのは、ボロい一軒家。

 外装はアレ……だが、内装はキチンと掃除されていて、綺麗なままであった。


 中から美味しそうな菓子の匂いが、今にも僕を食べてと言わんばかりに溢れ出てくる。




「さあ、ここが今日からのキミの家だ」

「……あの、1つ……聞いていいですか…?」


「何でも聞いてくれて構わないさ」


「どうして、俺を拾ったんですか」



「どうして……ん~どうしてだろうね~……単純に、放っておけなかったから……とかじゃ、ダメ?」


「でっ、でも、俺はあれだけの人を殺していて、生きていいはずが」



「……気にすることでは無いと思うよ、そのくらい」

「その……くらい?!」



「別に、キミは悪気があって殺した訳じゃなかった。それ以外の方法を知らないから、そうするしかなかった。違うのかい?」

「……え?」


「キミは、人を殺した事を悪い事だと思いながらも、殺した人を食べなければ生きていけないから———ほかにどうやって生きていくのか知らないからこそ、がむしゃらに殺した。それだけだろう?」


「何で……知って」


「キミはかなり有名人だよ~、人斬り白郎、だってね。だから、その噂を元に色々考察してみたんだけど、どうやら合ってたみたいだね……


 白い髪をした少年だから、白郎と名付けられてるんだよ、キミは。……そうだ、キミにちゃんとした名前をつけてあげよう!」


「名前……?」




「え~と、苗字は雪斬で……人斬り白郎からとって雪斬(せつぎ)白郎(しろう)!……どうだろう、気に入ってくれたかい?」


「雪斬白郎……」


 雪斬白郎。それが俺に名付けられた名前だった。



 宗呪羅は、俺が今まで悩んでいた事全てを気にしなくていい、なんて言いながら一蹴した。

 普通の人なら、恐怖で震え上がるはずなのに。


 この男の笑みからは、キミはまだ子供なんだから、そんな事するはずないだろ、だなんて言葉が飛んできそうなくらいの明るい雰囲気を感じた。まるで、父親のような笑顔だった。


 今の俺にとっては、それは間違いなく———。




 それからは、宗呪羅———師匠との生活が始まった。


 まず決められたルールとしては、師匠が同伴する時以外の勝手な外出禁止、人を殺すの禁止、手当たり次第に食べるの禁止とかいう普通の人からしたら明らかにおかしなルールだった。



 師匠は最初に、食べられるものについて教えてくれた。


 普通、人間の肉は食べるものじゃない、だとか、動物の肉を焼いて、それに塩をかけて食べるとめっちゃ美味しいだとか、師匠の知る食べ物についていっぱい教えてくれた。



 日中は基本、何やってもいいって言われたから、刀の修行をすることにした。どうやら、師匠は凄腕の剣士 (自称)だったそうで、刀の振り方や基本動作、力の入れ方や構え方とか色々教えてくれた。


 この刀の修行があったからこそ、今の俺は宗呪羅を師匠と呼ぶ様にしているんだ。






 …………ある日の夜中。あれだけ騒がしかった虫たちも寝静まった頃、師匠と縁側で話をした。


 抑えられなかった衝動の事。

 もう1人の「自分」の事。

 自分には、したい事や夢、生きる意味がないと言う事。



 ……そうしたら、師匠はこう言ってくれた。




「別に生きる意味が無くたって構わない。


 命ある限り、明日を必死に生きるのが《《人間》》の生き方です。夢なんてものは生きていれば勝手に見つかるものですし。でも、そうですね、私の夢は……」



 《《その時》》の師匠は、話し方も丁寧で、いつもの気の抜けたお兄さんっぽい感じが抜けていた。



 思えば、勘違いが始まったのもここからだ。


 俺には、人生の師となる者がいなかった。本来その役目を負うはずの親からは、我慢できずに逃げ出してきたから。


 だからこそ、ヒトの、人間の……本来の生き方って言うのは、もうこの人から学ぶことしかできなかった。……だから、その生き方しか———ダメだって思ったんだ。



「白郎、私はね、《《もう誰も苦しむことのない》》、みんなが楽しく生きられる世界を目指しています」



「みんなが……楽しく?」

「そうです、私たちの力で、世界は変えられる。戦争続きの東の大地でも、《《皆がアイを想えば》》、いつかみんなが手を取り合える日がきっと来るはずです。だから———」



「……」


「だから、白郎はもう、罪のない者を誰も殺さないでください。


 今の白郎には、無実の人を殺す事がどれだけ悪い事か分かるはずです。約束できますか?」


「……分かり、ました」




 ……守れるはずのない、約束だった。








「……さ、もう夜も遅いですし、早く寝ましょう! 早く寝る事は大事ですよ、特に白郎みたいな小さい子供にとってはね、だから早く布団に……」


 師匠は、俺の事を「小さい子供」だと言った。


 あんなに人を殺しておきながら、そんな俺を、もはや人ですら無いかもしれない俺の事を受け入れ、「子供」だと言ってくれたのだ。



 それは、とても嬉しかった。

 自分が人間として認められた様で。

 初めてこの時、俺は他人から人間だと言われた《《気がした》》。


 その次の日から、師匠は「仕事にいく」と言い出し、日中は帰ってこなかった。



 だから日中に掃除をしたり、料理をしたり、「勉強」をしたりしてとにかく暇を潰していた。




 師匠が帰って来てからは、師匠が前の弟子たちに教えて来たと言う、「雪斬流」とかいう剣の流派の技を色々と教えてもらってた。


 雪斬流は、「無辜の者を守る剣」を重んじていたため、師匠は俺が常日頃携帯してた神刀(神威)に、ある概念を付与してくれた。


 その概念は『不殺』。何も傷つけない様に、付与された武装になんらかのカバーを敷くものだった。


 だから今も、この神剣は普段木刀に化けているんだ。

 師匠は俺自身に不殺を徹底させたんだ。






 そうだ、この時の俺は、間違いなく幸せだった。生きてていいって、そう思ったんだ。

 こんな俺でも、間違いなく居場所があって。

 この人の側にいるだけで、俺は何も考えず、『アイ』を享受できると。


 ただただそれだけで、俺は幸せだった。

 ……そして、それが当たり前であるとも……俺は知った。








 そんな生活が続いたある日。

 朝起きた時に、俺はどこか狭く暗い空間で起きた事に気付いた。


 家の押し入れの中だった。押し入れの隙間から漏れる光が眩しかったが、堪えてこっそり外の様子を覗く。


 そこには。

 2度と目にしなくてよかったであろう光景が広がっていた。





 そもそも、覗く前からおかしいのは分かってたんだ。

 気でも狂ってしまいそうな、妙に生々しい暖かさ。


 異様なまでの血の匂い。


 死体の腐った匂いが充満していたからである。




 切断された胴体、右足首。左膝。そして首。


 首の上には、生気のなくなった師匠の顔が写っていた。





 まるで俺が犯した最初の殺人かの様に、師匠の体は見事に解体されていた。


 よく見ると押し入れの中には張り紙があり、

「ごめんね」とだけ書いてあった。


 赤い、血塗られた文字で。






 唐突に、日常を構成していた大事なパーツが奪われた。

 理不尽にも、その大事なパーツは斬り殺された。




 かつて、自分がそうしたかの様に。




 守れなかった。「人を守る剣」を受け継いだのに。


 何1つ、大事なものは守れなかった。という後悔と、

 自分はやはり、幸福を享受していい人間じゃなかったんだな、という納得と絶望。


 ……が、しかし、そこから込み上げてきた感情は、

『怒り』

 だった。




 誰だ、師匠を殺したのは。

 必ず見つけ出して、殺してやる……!

 この刃で、その笑っている顔をズタズタに引き裂いて苦しめて殺してやる……!


 ……と、

 行き場のない怒りが俺を喰らい尽くした瞬間。

 トスッ、と。

 うなじに電撃が走った。

 その後は———





『……そして俺は自分を誘拐した者共を皆殺しにした。……で、それが』


『日ノ國幕府の崩壊。もとい、日ノ國の滅亡と呼ばれるようになった。俺も驚いたさ、まさか7歳の〜……』







 ……目が覚めたのは、和室のような部屋であったが。

 その部屋は、数分後には血と肉塊で染まりきることとなる。




 全て終わらせた。

 どうやってやったのかは分からないけど、俺はその状況を何とかして打破して見せたんだ。


 俺を恐れ逃げ行く武士も。勇敢に向かってきた武士も。偉そうに腹を括って踏ん反り返っていた将軍も。

 全て斬り捨てた。



 ……その城は後に紅血城と呼ばれるようになる。

 今では人気のある心霊スポットだ。



 その後は何とか船に乗り込み、日ノ國を脱出した。

 バラバラにされた師匠を置いて。

 俺が壊した全てを置いて、ついに俺はこの大陸に辿り着いた。






『夢なんてものは生きていれば勝手に見つかるもの』


 ……俺は、その師匠の言葉を信じていた。 



 上陸した後、ジャンおじさんに拾われ、白と名乗り、自分の夢を必死に探した。

 その結果がコレだ。夢は見つかった。が、いつまでも過去の怨念に囚われているのが今の俺。



 ……いつ、解放されるのだろうか。

 いつ、この苦しみは終わるのだろうか。

 分からないけど、今の俺には、日々を一生懸命に生きる事。それくらいしか、俺にはできない。


 

 いつの日か、誰の目も気にする事なく、過去の残像に囚われる事もなく、胸を張って「幸せだ」と言えるまで。




 今一度、俺は生き続ける事を決意した。

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