救世主/予言
魔王軍幹部、幻想種であるインフェルノドラゴンを一撃で葬ったその姿。
まさに神を堕とした俺の兄、イデアを彷彿とさせるくらいだった。
黒髪の謎の男。
その拳には、刀が握り締められていた。
「待った、サナ。あいつが持ってるのは刀だ」
「刀……つまり……!」
「そう、おそらくまた、日ノ國辺り、日輪列島の出身者だろう」
「えっ……じゃあ、また戦うの?」
「そんなに俺は戦闘狂じゃない。だが、お前に危害が加えられると言うのなら———話は別だ」
と、黒髪の刀士はこちらに気付いたようで、手を振った後、こちらに手招きのポーズをとった。
「どうするサナ、行くか?」
「ええ、行くわよ。お礼も言いたいし」
「やあ、…………アレン・セイバー。間違いないだろ?……その白髪」
開口1番、男は……俺の本名を口にした。
「お前にお礼を言いたいが後回しだ。どうして俺の本名を知っている?」
「どうして……まあ、ヘファイストス神殿国に住んでた、からだな。次代王位継承者さん」
「その呼び名はやめろ。あの国は滅亡したはずだ」
……なぜその名を知っているのか、なぜ俺が次代王位継承者だったことを知っているのか。
「白、ヘファイストス……神殿国って何?」
「サナは少し黙っていてくれ、こいつは何かヤバい、重大な事を隠してる」
「そうカリカリしないでくれ、俺は、お前たち2人に修行をつけに来たんだ」
……修行……修行?!
「……へ?」
「えっとそれはどういう……」
「だから、俺が今日からお前らの師匠になる、という事だ」
「?!」
———修行?
師匠になる????
一体全体、この男は何を言っているんだ?!
「はあ、何言ってんのアンタ?! 急に現れて、ドラゴン倒したまではいいけど、名乗りはしないし私たちの師匠になるとか口走るし、言ってる事おかしいって思わないの?!」
サナは(なぜか)めちゃくちゃブチギレてるが、俺はその黒髪の姿に昔の師匠を重ねていた。
———師匠の髪は白色だったもんだから、風貌的には擦りもしていないのだが。
「まず名前を名乗れ。どうも俺たちはお前が信用できない。それと俺たちを鍛える目的も教えろ」
「名前……名前は……俺には、名前なんて大層な代物はつけられていない。だから、お前の名前にちなんで『黒』と呼んでくれ。
……で、お前たちを鍛える理由ってのが、ある予言に基づいた伝説が絡んでくる。そこについては後で教えよう。とりあえず、俺について来てくれ、人目につかないところで話したい」
◇◇◇◇◇◇◇◇
黒が行った先は、森の奥。
巨人———と言うより、俺たちより何倍も大きい人の模型の首……のような、石像が隣接している滝だった。
轟く滝の音とは裏腹に漂う涼しい冷気が、より鮮明な清涼感を醸し出している。
———そんなところで黒は、
「お前を……幸せにしろ、とお前の父に頼まれたんだ」
そう、俺の父の話をしてきたんだ。
「俺の……父だと……?……嘘だ、だったら名前くらい分かるんだろうな———」
「ヴァーサ・セイバー。それがお前の父の名前だ、そうだろう?……そもそも、アイツは国王だったんだ、あの国に住まうものであれば誰もが知っていた」
言いかけたところだったが、本当に知っていた事に唖然とした。
俺の父。
ヴァーサ・セイバー。
この俺、『アレン・セイバー』とその兄、『イデア・セイバー』を産んだ張本人にして、先代神殿国大王。
———でも、俺はアイツにあまりいい思い出はなかった。
何せよ、俺の父、ヴァーサは———、
「嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ!!……父さんは俺たち兄弟の事を、戦う為の機械としか見ていなかったはずだ……!」
そう、俺はアイツに、戦うことしか教え込まれてこなかった。
生まれた時から3才まで、真っ白な何もない部屋に幽閉され、ひたすら戦闘技術、刀の扱い方を学ばされた。
それと……もう1つ。
これまた白い部屋の中で…………ただひたすら『痛い』経験をしたこと。それだけは覚えている。
娯楽などほとんどなく、ただただひたすら戦うことのみを強制された人生。
唯一与えられた遊び道具は『けん玉』とか言う貧相な木材のおもちゃのみ。
———そんなに中途半端な娯楽を与えるんだったら、最初から何もさせなければ良かったものを……!
「一体いつ誰にそのような戯言を吹き込まれた?」
「戯言じゃねえ……ホントにそうだっただろうが……!」
「……そうか、そうだったのか、だからお前は国を出て行ったと。……まあ、仕方ないよなぁ…………お前は何も知らないだろうし」
「何も……知らない……?」
「そうだ、日ノ國幕府はここより東の大陸に位置するある国と協定を結び、世界を丸ごとひっくり返す何かしらの計画を企てていた。
その計画を実行する際に邪魔となるであろうヘファイストス神殿国を滅ぼす為に、ヤツらはさまざまな計画を企てていた。
……実際に機神があの地を襲ったことと、お前が国を出た直後に、神殿国は何者かによって、その土地ごと滅ぼされているのが……何よりの証拠だ」
……機神?
いや、そうだ、機神だ。
数年前。幾度となく俺たちの国を襲った『カミ』と呼称された機械生命体。それが機神。
その一柱を、俺の兄———イデアが堕とした、そこまでは俺も知っているが……
……なんだこの話……?! こっちは混乱するばっかだぞ?!
「待った、待ったちょっと待ってくれ、話が混乱して意味が分からな……」
「……意味が分からない、か。それでも、お前の体に眠る鍵が計画に必要不可欠なのは確かだ。事実、お前は神殿国を出た後、1年した後に誘拐された」
———機神、鍵、言っていることが何1つ分からん、何も見えやしねえが……俺が誘拐されて———。
誘拐された……そうだ、そして俺は———!
「……………そうだ、日ノ國の奴らに、俺は———」
言いかけたところを黒が遮り、そのまま黒が続ける。
「そうだな、誘拐されたお前が———信じられないが、誘拐された側のお前が引き起こしたのが———日ノ國幕府の崩壊。もとい、日ノ國の滅亡と呼ばれるようになった。
俺も驚いたさ、まさか7歳の子供が、お前がたった1人で国を滅ぼすなんて。
……それとも、もうお前の翅は覚醒したのかもしれんな?」
……本当になんなんだ、この人は。
俺のことを、一体どこまで知っている……?
「え……ウソ、でしょ、白が、本当に日ノ國を滅ぼしたって……!」
それまで話についていけずに口を閉じていたサナが、ようやくその重い口を開く。
「ごめんよサナ、でも……黙っておきたかったんだ、この事は」
たとえそれがどれだけ狡いことだったとしても。
それを、せめて隠しておくことを誠実と俺は思うから。
「……で、黒。父さんの遺言だが……なんで父は、俺に対してそんな遺言を……残したんだ……?」
疑問だった、父さんの行動は俺にとって不可解以外の何物でもなかったからだ。
娯楽を与えて幸せに暮らしてほしかったのか。
戦う術を教え、神殿国の兵器として扱いたかったのか。
今の質問は、その不可解で中途半端な父の行動によって生じた疑問だったのだ。
「…………そもそも、神殿国のルーツを知ってるか?」
唐突に投げかけられた質問に対し、俺はイマイチこれと言った答えを見出せてはいなかった。
……そもそもコイツはコロコロ話題を変えすぎだ、話下手なのか?
「分からない。……あまり物心つく前に、出て行ってしまったから」
「……そうか、ならば教えよう。神殿国のルーツ、それは、大戦末期に示された、ある『予言』だ」
「予……言?」
……それは、救世主のための予言。
いつの日か、世界を救ってみせる、救世主を記した予言。
『心砕かれし救世主によって、世界の命運が閉ざされた時、3人の勇者が現れ、世界を救うだろう。
1人は、救世主の子孫。
また1人は、希代の魔法使い。
最後に、同じく救世主の子孫。
『大穴』より這い出た、セイバーの子孫の子。
彼らは呪いの闇や、神の光をも退け、ついには世界を救ってみせるだろう。
……しかしてその後、世界は砕かれる。
たった1人の███によって。
崩れゆく世界の中で、救世主は抗うことすら叶わず———
———此度も、終末を迎える』
「……今のが、予言だ。俺の知りうる限りのな」
「抗うことすら叶わず……って、結局ダメじゃないの、世界救えてないわよ、上げて落とすタイプの予言よ、コレ!!」
サナの言う通りだ、なんちゅー予言だ、そのために———そのくだらないおとぎ話の為に、ヘファイストス神殿国なんて馬鹿げた国が作られたってのか?
大体、最後はなんだ、結局ダメじゃないか、救世主すらも抗えていないじゃないか。
「……で、結局この予言と、神殿国のルーツに何の関係があるんだよ」
「神殿国の核は……お前だ。『アレン・セイバー』、1000年前、終末戦争を終わらせた救世主……ゼット・セイバーの、真の子孫であるお前たち、セイバーの家系を育てることこそが、神殿国の始まりだった」
「は……?」
待った、待った待った。
この俺が、大戦を……終末戦争を終わらせた誰かさんの、子孫……だってえ??
———だから、だから俺たちは『救世主』の一族だったってのか……?!
「……ついて来れてないよう……だが、話を続けるぞ」
———そこは一旦中断して、話を整理する場面じゃないですかね、お兄さん??
「つまりだ、世界を救う者を育てる……ことを選んだヘファイストス神殿国。ここまで来れば、日ノ國と、神殿国の崩壊が関わってることも、ある程度筋が通ってくるだろ?」
「……世界をひっくり返す、計画……それを、俺たちセイバー、救世主の一族に邪魔されるわけにはいかない、と」
なるほど、我ながらかなりの名推理だろう。
「その通りだ。ヴァーサは自分達神殿国の連中が、日ノ國の計画の障害となっている事に気付いていたのだろう。
だからこそお前たちが日ノ國の奴らに狙われることを危惧したのだろうか、ヴァーサはお前たちを、1人で生きていけるくらいに強くする事にした。
だから俺が今ここにいて、お前を鍛えに来た、という訳だ」
「つまり……俺たちの父は……自分の駒として俺たちを育てたのではなく……」
「そう、お前たちに生きてほしくて、お前たちに、幸せになってほしくてお前たちを育てたんだ。
……だからヴァーサは、自分の育て方はこれでいいのだろうか、子供達に娯楽を与えなくていいのだろうかとずっと悔やんでいたのさ。
———その国を捨てる、最期まで」
「そうか……俺たちはずっと……誤解を……」
そんなもので納得できるのか。
いいや、別に納得できるような、そんな話でもなかった。
でも、なぜかコイツ———この黒だとか言う男は師匠と同じ匂いがする。
だから———そうでなくても、無理矢理にでも納得させようとしたんだ。
「いいんだ、別に。結果としてお前たち兄弟は生き延びていて、お前に関してはあんなに美人なウィザードを連れている。
一緒に冒険して、目の前の障害となる敵を倒し、苦悩し葛藤する。どうだ、これがお前の父が守ったものであり、お前の生きる日常だ。今、幸せだろう?」
「美人……私今美人って言われた……?!」
……そうだった、ずっと俺は父に操られ、衝動に駆られ取り返しのつかないことをしてしまい、未だにその呪縛に囚われている、哀れで不幸な人間だ、なんて事を思い込んでいた。
でも現実は? 俺にとっての今は、
どう映る?
正直言って、口では聞いているそぶりを示したが、はっきり言って話はほとんど分からなかった。
そもそも、黒の話が長すぎるんだ、あんな長話、俺じゃなければあんなに聞き込まない。
……でも、その言葉の数ほど、俺に言いたいことがあって。
それが、父の……ヴァーサの未練というのなら。
それが、救世主となる事が、俺の宿命だというのなら。
今一度、過去を振り返って。
俺は、俺の運命と、もう一つの運命と、向き合う時…………かもしれない。




