幕間
……ふん、どうやら今回からは新章らしいからな。特別にこの俺様から、前回までのあらすじを説明してやろう(イデア)
アレン———いや、白のヤツはサナ……さんと共にパーティ名を変えた後、依頼を受け……そこでパンを食い漁っている俺に遭遇した、ここまではいいな?
その後、色々(命を掛けた死闘)あって最終的に俺とは別れ、ヤツらはまた次の獲物に手を出したらしい。
その獲物は———魔王軍幹部。幹部の一角、エレキポイズンスライムのリーを前にして、ヤツらはどうも仲間割れを引き起こしたらしいな。
しかしア……白は『師匠』の言葉を思い出し再起、自らも瀕死の重傷を負いながらも、リーを倒すことに成功した、と。
皆が勝利の歓喜に包まれる中、ただ涙ながらに、サナは白の無事を祈っていた…………でいいのか。
……もしや俺は、早速ヤツの恋愛対象からは外されているらしいな?
朝。
なんの変哲もな……変哲しかない朝だった。
起きてすぐ見たのは知らない木造の家の天井。
おそらく、一晩漬けで看病してくれたサナが横で座りながら寝てて。
窓の外から見た村は氷が溶けてて、生き残った人々や鎧を着た兵士が楽しそうに会話してるのが見える。
俺は……そうか、勝ったのか。
魔王軍幹部相手に。
「……う……あ……」
体を起こす。
「痛っ……!」
———あの時の激痛。
全身を食い潰す様に、外側、内側から痛みが迫ってくる……!
痛みで失神しそうな意識の中で。
「白!」
自分を呼ぶ声がした。
「動いちゃダメ! 寝転んで安静にしてて!!」
言われるがままに横になると、痛みは少しだけ収まった。
「あ、ありがとう……ずっとここで……診てくれてたんだな」
「そ……そうよ、感謝する事ね……」
なんか少し俺に対して強気になってないか?
「……結局、あの後どうなったんだ? あれから何日経った?」
「……あれから1週間、あなたは寝たきりだった。見た通り村は復興中、どんどん進んでく時間の中で、あなただけが取り残されちゃったって感じ」
「結局あのスライムは、魔王軍の幹部で間違いないんだよな?」
「ええ、間違いないわ」
「おお、やったな……! これでかなりの報酬がもらえる……! ずっと1人用の宿に泊まる日々ともおさらば———っ?!」
唐突に右頬を引っ叩かれる。
「この…………バカッ! なんで、なんで自分の命が危ないってのに金の心配してんのよ!
貴方が…………白が起きなくて……ずっと心配だったんだからぁっ……!」
サナは俺のベッドに縋るように泣きついてくる。ああ、足の方が濡れてきた……
「自分の命を顧みないのはお前もだろ?!」
「~~~っっ……!」
サナは目を細くし縮こまる。よほど図星だったのだろう。
「ちなみに1つ聞いていいか?」
「え?? え、ええ、別にいいわよ」
「この身体、どうやって治した? まさか自分の命と引き換えに治すとかいう等価交換魔術とか使ったりしてないだろうな??」
「……いいえ、違うわ。白、あなたの適正魔術属性って何でしょう?」
「唐突な出題?!……えっと……回復魔術……だけど」
「それを使ったの」
「……へ? 俺自身は寝てるのにどうやって?」
「白の魔力回路と私の魔力回路を繋げて、そこから白の魔力器官へアクセス。それで白の魔力器官を借りて私の魔力で自分自身に回復魔術を使ったって訳。おかげで私、もう氷1つ出せない位魔力が枯渇しきってるわ……」
……何言ってんだ?
魔力回路を繋げて……魔力器官へアクセス??……そんなことできんのか?!
「よく分からん……けど、色々大変だったんだな、ありがとう」
「よく分からん、って…………魔力器官は人体に備わってる魔力生成用の器官よ!……ったく、コレを知らないとかどーなってんの……
ちなみに、まだ完全には治ってないから。今下手に動けば死ぬから気をつけてね」
「怖すぎでしょ」
「とりあえず数日間はここで休養をとって、それから帰ることにしたわ。村の人にもこの事は伝えたから、全力で支援してくれるそうよ」
「それは……ありがたいな」
———と、その瞬間、ガチャと音を立て、木製のドアが開く。
「おねーちゃーん! 遊びに来たよーー!」
そこには5歳くらいの子供が3人。
「あ、おにーちゃん起きてるーー!」
少し……いやかなりやかましいのだが。
「こんにちは、俺の名前は白だ、よろしくな」
「白……白? へんななまえーっ」
変だとかあんま言わないでくれ……結構、いやかなり傷つく。
「おねーちゃーん、外で遊ぼうよーー」
「ごめんけど……今日は無理ね、白お兄ちゃんが寝たきりだから私が見てあげないといけないのよ」
「ほへー、そうなんだー」
「サナお姉ちゃん仲間想いでカッコいい!」
「白お兄ちゃん!」
俺がベッドより見下げた場所より、ひょっこりと顔を出す赤い服を着た少年が。
「……どうした?」
「この前の白兄ちゃんメチャクチャカッコよかった! だから僕も剣を使いたいなーって思って、剣の使い方を白兄ちゃんに教えてほしいんだけれど……ダメ?」
そうも可愛らしい笑顔で見つめられると了承しなきゃいけないみたいになっちまうじゃないか!…………だけど、
「ごめんよ、俺たちは後数日で行っちゃうんだ。だからまた後の機会に教えてあげるよ」
「えー残念……でも楽しみ!! 楽しみだからいくらでも待っとくね!!」
———ダメだ、お前みたいな幼い子が、剣を手に取っては。
こういう話をしたらすぐに引き下がるチョロ……物分かりのいいとこもまた可愛らしいな。
5歳、5歳か……その時俺は……
考えない方がよかったかな、昔の思い出なんてろくなもんがないんだから。
……でも、自分の命を擲って、見ず知らずの誰かを救う。そんなものは口だけのただの偽善だと思っていた。今までは。
「おにーちゃん、どーしたの?」
この笑顔を見ていると、別にそれも悪くないな、と思えてきてしまう。
「ん、ああ、考え事してただけだよ、大丈夫」
『じゃあ、じゃあ白は、何かやりたい事はあるの? 自分の命を懸けてでも、やりたいと思う事は?』
あの時のサナの言葉を思い出す。
『……だったら、他人のやりたい事を自分に置き換えてみるといいんじゃない……かな』
それは偽物で、叶える価値の無いものではないのかと自分に問う。だけど、
『ようは借り物の夢。たとえ誰の夢だろうと、白がそれをしたいと思えば、それは白の夢じゃない?……やりたい事なんて、そんなモノでも誰も叱りはしないわ。もちろん私も』
その言葉が答えだった。あまりにも単純。今の自分の夢の根底にあったものはただの憧れ。そんな子供じみた理想を掲げる師匠への憧れ。
それでも、夢なんてそんなものでもいいとサナは言ってくれたんだ。
その言葉だけで、生きる意味を失った機械は救われた。
結局、俺の言う『戦う事だけが生きる意味』なんて言葉はただの嘘だった。
今一度突き詰めて考えれば、本当は夢には何もなくて、それに『戦う』などと言う偽りのシートを被せていただけにすぎなかった。
……でも、今はそこにちゃんとある。自分のやりたい事が。自分の夢が。心の中にポッカリと空いた『偽りの夢』と言う穴にしっかり丁度収まる様に。
だからこそ、俺はアイツに、サナに謝るべきかもしれない。
大切なことを気付かせてくれたアイツに俺は、……嘘をつき続けたままだからだ。
でも、謝るのなら、俺の呪いに満ちた過去を話すということで。
どうしても俺は、それがたまらなく怖かったんだ。
それを話すと、サナが……アイツが、どこか遠くに行ってしまいそうで。
きっとアイツも、俺の過去を話せば……それだけで恐れおののき、逃げるに違いない。
だからこそ、どうしてもその事は……自身の過去については、未だに言い出せずにいた。
……こんな事考え込むなんて、なんか少し……嫌な気分になるな、魔王軍幹部を倒したばっかだってのに。
少し気分転換に別の事でも考えようか……と思った瞬間、俺はものすごく大事で、同時にとてつもなく恥ずかしい事実に気付いてしまった。
「……なあ」
子供たちが外へと出て行った後、唐突にサナに話しかける。
「どうかした?」
「怒らないでほしいんだが……幹部倒したからさ、報酬金が貰えるだろ?」
「普通……そうよね」
「その際……人界王から……直々に貰えるんだろ?」
「だ~から、それがどうしたの?」
「いや、あの、パーティ単位で金が貰えるんだとしたら……またあのパーティ名を……聞く事になるのかと…」
「何よ! 別にいいじゃない、素敵じゃない!!」
「いやいやいや、恥ずかしいって! 王様にあんな事言わせるとか、恥ずかしいし何より……笑いそうでっ」
実際にそうなった際を想像し吹き出してしまった。
「実際笑ってるじゃない!」
「そりゃあそうだよ! パーティ名とかさ……なんとか騎士団とかにしとけばよかったのに! つーかパーティ名なんて変えられるんだから帰ってすぐにでも変えろよ!!」
「うっっっわキッツーー! パーティ2人しかいないのに騎士団とかキッツーー! 痛い…痛すぎるわよその名前!」
「お前の付けたなんとかショウタイムだとかいう名前よりかはマシだろ!!」
「いいやこっちがマシよ!」
「こっちがの方がマシだ!」
「こっちが」
「こっちが!!」
結局、小一時間ぐらい話をして、パーティ名は変えないとかいう空気になってしまった。解せぬ。
日も完全に沈みきった後、そろそろ歩けるかなと身体を起こす。
「……何してんの白?!」
先程までの痛みは完全に消え去っていたが、地に足をつけ、1日かけてようやく俺は立つ事に成功した。
「や……やった……立てた……けどまあ、今日はもうどこにも行けないよな」
「まあ、そうよね」
「……なあ、サナはどこで寝るんだ?」
「へっ? 私は……まあ……ここ?」
「ベッドないのか? ないなら代わろうか?」
「なんでよ?!」
「男は床で寝ろ、だろ?」
「……安静にしないとダメでしょ。……だから……今日は特別よ……」
サナのその白い頬が、赤く染まりきる。
「じゃあ今日も座りながら寝るってか?! 別にいいんだぞ、俺の横で寝ても!!」
「はっ……何……何バカな事言ってんのよ!」
「だっ、だよな、一緒に寝るなんてしないよ……」
「……いいわよ」
「……はい?」
あれ、なんか今———、
「いいって言ってんのよ! 一緒に寝るって言ってんのよ!!」
「お、おお、そうだな、ありがとう?」
正直冗談半分くらいで言ったつもりだったのに。なぜかOKされてしまった。
サナがベッドに上がり込んでくる。さっきまではいつでもベッドに上がり込んで来い! なんて気持ちで身構えていたのに、今やベッドに上がり込まれてメチャクチャドキドキしている。
心臓の鼓動は高鳴り、自然と過呼吸になってしまう。
気付かれてなければいいのだが……
……まあ、そして、今俺の隣で女の子が寝ている。
互いに背中を合わせながら。
密室。狭いベッドの上に若い男女が2人。いつあんな事やこんな事になってもおかしくなさそうな状況になってしまった。
多分今自分の顔を鏡で見れるのなら、それこそ血の川の様に赤く染まりきっているのだろう。
……で、この状況は期待してもいいのだろうか?
手を、出してしまっても良いのだろうか……?
あっちはどうなんだ、ここで一線を踏み越えてほしい、だとか思っているのか?
いやーでも、ここで手を出したらアレだし? 俺とそういう事したくないから宿ではベッドと床に分かれて寝させられたんだろ?
……じゃあ、ここで手を出すべきでは———。
その頃、サナは白とは真逆の事を考えていた!!
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……いや、ここまでしたなら手を出すわよね? そろそろ出すわよね? 狭いベッドの上に男女2人!!
共に死線をくぐり抜けた仲間! ここに来て手を出さないなんて事はないでしょ白! さあ、ここで越えるわよ! 一線を!
もちろん最初は白とするなんて無理と、絶対考えられないって思ってた。でも!
『責任、とってよね』
あの頃から、なんでか分からないけど白に対して抱いていたの! 恋心を!!
まるで白のことを『運命の人』と認めてしまわんと、私の心臓はずっとなりっぱなしだったんだから!
それに……Romanticでしょ、こんな展開!!
宿でしたらうるさいだろうし……だからって外でするのもなんか違う……でも今なら! 今ならできる! 確実に!!
だから白、今! 今しかないのよ! 確実に一線を越えられるのは、だから早く!!
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そんなこんなで、白は手を出すべきじゃない、サナは早く手を出してなどというお互いにまるで凹凹の様に上手くハマらない思考を持ち、事態が停滞し始めてから6時間が過ぎた!!
その間特に何もなく!
それでもお互いの考えが気になりすぎてお互いに寝られないという寝不足不可避の地獄の時間が生まれてしまった!!!!
そして朝。午前7時ごろ。
……お互いにそろそろ起き(るフリをし)ようかなと思い、白が先手をとる。
「……ぅ……あ、サナ、おはよう……よく眠れた……? (自身は全く寝ていない)」
「おはよう……白……とても快適だったわ……(こっちも全く寝ていない)ところで大丈夫? 目の下にクマができてるけど……」
「ん? あ、ああ、大丈夫だよ、全然大丈夫、あははは」
お互いに起きた瞬間呂律が回ってる時点で寝てないのがバレっバレである。だが両者は気付かない。
「そっちだって、なんか顔がゲッソリしてる感じがあるけど大丈夫?」
「ん? 私の顔って……そんなにゲッソリしてる? 特に体調は悪いところはないけど……」
……あれ、もしかして寝れてなかった事バレてるっ?! もしかしたら……『そんなに俺の事が気になって仕方なかったのか』
……だとか思われてそう!!
それだけは恥ずかしい、それだけは絶対に避けなければならないと、両者の(謎の)プライドが燃えたぎる。
「なあ、外行かないか? この村の住民たちにも挨拶してないしさ」
「た……確かに! 白はまだ挨拶してないしね! 早く行きましょう!」
互いに外に出て話を逸らし、自分のプライドを守ろうとする。だが、それが逆効果に終わる事を2人は知らなかった。
朝なのに照りつける日差し。朝なのに地を焦がす日光の熱。
「なんっっか……頭……いたい……」
「私も……っうっ……吐きそう……」
もちろん寝不足の2人にとっては地獄でしかなく、2人は村長の家にたどり着く前に頭から倒れ込んで気を失ってしまった。
……まあ魔王軍幹部との戦いの末なので、たった一晩でも寝不足になればこうなるのは分かりきっていたはずだったが。
そこに通りがかった子供が1人。
「最近暑いよな~ってあーーーっ! おとーさーん! 勇者さんたちがーーっ!」
騒がしい喚き声が村中に響き渡る。
……どうやら、俺たちはまたこの村にお世話になってしまう様だ。
……2人の意識が暗く、暗く染まった後も、なぜか心の中では「熱い」という感触が何度も何度も繰り返されていた。
その時はそんな自覚などもてるはずもなかったのだが、その感触について起きた後にもう一度思い起こされることについては、2人はこの時気付いてはいなかった。
そして、もう1つ。2人は気付いていなかった事があった。
———新たなる幹部の、襲来である。




