時、巻き戻った後8
ファミコンがダメと確定した輪太郎は何を開発すべきを考え始めます。
さて、ここまでの所、コンシューマを含むゲームは成り上がりには向いていないという結論が出た。
コンピュータ向けゲームについては可能性はあるが、市場規模はかなり小さくなるだろう。
となると、必然的に主戦場は業務用プログラムに絞るべきか?となるのだが・・・。
今(1985年)から、というのが結構悩ましい。
DOS時代、汎用で大きく売れた業務用キラーアプリというと、やっぱりワープロや表計算ソフトになる。
しかし、この2種類のソフト、今から開発するには少々タイミングが遅い。
というのも、DOS時代、一番売れたワープロソフトである一太郎の初版発売が1985年、同じく、表計算ソフトで一番売れたLotus1-2-3も日本語版が発売されるのが1986年である。
そして、今年が1985年。
要するに、市場を制覇するソフトの登場が今年来年ともう目の前なのだ。
もちろん、両方とも、初版発売時点から大きく勝ち越すような売れ方じゃなかった。
一太郎には松という先行アプリがあったし、1-2-3にもMicrosoft MutiPlanというライバルがいた。
とくに一太郎は市場優位をとったのがVer3位からなので、開発速度で追いつけるなら対抗するのも悪い戦略とは言えない。
年に1バージョンくらいの開発速度なので、2年は余裕があるといえばある。
ただ、俺が開発するとなると、まずパソコンを入手してから作り始めるということになるので、かなりの後追い開発となる。
さらに当面の間、開発自体を小中学生の空き時間でやらなきゃならん問題もある。
複数人でフルタイム開発できる企業に対して、機能追加のペースで追いつくのはかなりしんどい計算だ。
ワープロについて特に面倒なのは、ワープロ本体とかな漢字変換用のFEP、両方作る必要があるところだ。
ワープロ本体はまだいい。
印刷周りについてプリンタごとの対応が必要になる点はあるが、それ以外は比較的、作りやすい内容だといえる。
問題となるのはかな漢字変換ソフトだ。
かな漢字変換ソフトをまじめに作るなら漢字変換用の辞書と変換精度の問題が必ず出てくる
しかも、他社製品が大量にある中、研究しながら優位がとれるよう開発を続ける必要がある。
かな入力からローマ字入力(そう、この時点ではまだかな入力しかない)、単文節変換(単語単位の変換)から連文節変換(複数分まとめての変換)、逐次自動変換(入力途中ですぐに漢字変換する機能)、ソフト自体の機能追加も多いが辞書面の改善も必要になる。
それこそ、単語の頻出度合も調べなきゃいけないし、新出単語の採用不採用の問題もある。
最終的には前後で使用された単語をもとに変換内容を絞り込むAI変換みたいなものまでたどり着くので
そこまで作りこむ必要が出てくる。
始めてしまえば継続的に整理・分析しながら改善なくちゃならない。
そうなると書籍のほうの辞書を自力で作れるレベルの国語力がないとやっていけまい。
それを小学生1人で、ソフト開発をしながらというのはやっぱりハードルが高いとしか言いようがない。
チームが必要なジャンルのソフトだといえる。
実際、この時期のワープロソフトは、一太郎以外にもものすごく大量のソフトが存在した。
それこそ8bit版ですら単漢字変換しかできないFEPとセットで存在して、それなりに使用されている。
しかし、そのほとんどは別の形でさえ生き残ることはなかった。
ほとんどが普通に討ち死にしている。
8Bit FEPの多くは16Bit化の段階で機能追加についていけない物が多かったし、16Bit版のFEPについても、大会社がしのぎを削った挙句に緩やかに消えていったものも多い。
そういう中でバージョンを増しながら勝ち残ったのが一太郎なのである。
そして、同じことは表計算の勝者であるLotus1-2-3にも言える。
だから、ある程度正解を知っていて最短ルートで必要な機能を組んでいったとしても、それだけで確実な勝利が得られるわけではない。
むしろ、何らかの技術的優位や、たたき合いで勝てるような営業手段が無いと見込めないだろう。
また、一太郎やLotusに勝ち抜いてDOS市場を制覇したとしても、その先もまた厳しい。
Windows対応というハードルである。
それも、Windows3.1向けの対応はまだいい。3.0で開発して対応版を出せばいいからだ。
問題はWindows95だ。
一太郎もLotusも最初はここで躓いている。
そして、それを乗り越えてもその先にMicrosoftからの刺客、OfficeファミリーのWordとExcelが待っている。
まあWordはいい。特定ジャンルではいまだに一太郎が勝ち抜ける程度の出来に過ぎない。
漢文返り点付きで書けるようになったら相手してやるわ。わはははは。
むしろ問題はExcelだ。あの、表計算界のEmacsはヤバい。
アドイン組み込んでVBAでメーラが作れる表計算ソフトとか相手にしてられない。
2003年に使用中止されたファイル形式が中小企業や地方自治体で2024でも使われている恐怖。
しかもそれが問題なく動くし・・・。
いや、前世の恐怖体験を思い出している場合じゃないな。
まとめよう。
ワープロ、表計算はDOS時代の一番のドル箱であるが、ハードルが高いわりに、(よほど気合を入れて勝負しないと)長期継続性が低いのが難点だ。
特に、常に強力なライバルと戦い続ける必要があるのが厳しい。
また、俺にとって一番リスクを取りたくない時期、就職氷河期への突入段階にWindows95がやってくる点も見逃せない。
まあ、Windows95が鬼門であるのはある程度どんなソフトを開発していても一緒なのであるが、とはいえ出口の目の前にOfficeという高いハードルがあるかどうかはやはり大きい。
Windows、特に95以降を考えるとワープロ・表計算ソフトはドル箱だとわかっていても、手を出しにくい、大変に危険なチャレンジだといえるだろう。
大きな利益にはそれ相応のリスクがある、というだけの話ではあるのだが、開発時期的にスタートダッシュもできなければ、優位ななにかもない状態では残るのはレッドオーシャンだけだ。
と言って、利益が大きすぎるソフト、OS運用上必須のソフトについては、マイクロソフトの魔の手が待っている。
やっぱり、規模的にはもう少し小さな規模のソフトを狙っていく必要がある。
あるいは、作った会社を、そのピーク時点でどこかの大企業へとバイアウトして逃げ切るか。
いずれにしても、どんなソフトを作るべきか、作れるかが次の目標になるかなあ。
今度はそれを考えてみることにしよう。




