勉強会と試験日
仲間内で勉強会をする輪太郎たち。休憩時間に懐かしいお菓子、そして期末試験がやってくる
6月15日、日曜。
我が家で初の勉強会の日。
俺たちは机に向かって自己紹介をしていた。
「えーと、じゃ、自己紹介からやろうか。
俺が高木宏。1年4組。水泳部。今回の発起人。サトルとリンタローの2人に友達を集めさせた張本人、だな。
サトルとリンタローの2人とは小学校以来のパソコン友達で、3人でパソコンソフト作ったりしてる。
だいたいはそっちのリンタローがプログラム担当で、サトルがイラスト担当、俺が企画とかって感じ。
いまんとこイベントごとの発端はだいたい俺ね。」
「僕は木村覚。1年5組。美術部。ヒロシとリンタローの2人とは小学校からの友達だね。
ヒロシが言った通り、この3人だと、絵が必要な時はだいたい僕が描いてる。
基本的に絵を描くのは好きだから、何かあったら声かけてもらってもいい。
ただし、上手いかどうかは保証しないから。」
「うっせー、俺よりは上手えよ。」
「ヒロシに言われてもねえ。美術部入ったら僕より上手い人はたくさんいたし。
ぼくももっと上手くなりたいから、いろいろ練習はしてるかな。」
「んじゃ、次俺か。
竹尾輪太郎。1年7組、同じく美術部。まあ、2人が言ってる通り、俺ら三人、小学校時代からの仲間だね。
いちおうプログラム担当、というか、プログラムしか出来ないが正しいかな。
パソコン弄って思ったように動かすのが最近の楽しみ。
それ以外だと、本が好きで、まあ、言ってみれば活字中毒の括りかな。
ああ、あと、中間試験で学年2位だったけど、あれはパソコン買うために無理した結果なんで、ずっとあの成績じゃないと思うからその辺はよろしく。」
「なんか、いきなり衝撃的な発言から入ってるけど、大丈夫か?」
「いや、俺たちこんなもんだから。じゃ、3人も自己紹介してくれる?」
「んじゃ、俺から行きます。
川中勉。1年2組。水泳部。今日ここに来たのはヒロシ君の紹介で、かな。
基本的には水泳バカのつもりなんで、泳ぐ以外の役には立たないと思います。
部活のために勉強は頑張っておきたいので、教えてくれるなら頑張ります。」
細身で色黒で身長高めの少年が挨拶をした。
代わりに、中肉中背の眼鏡の少年が立ち上がる。
「んじゃ次は俺でいいかな。
坂井太一。1年5組。生物部です。サトルのクラスメイトでもう一人とジャンケンして負けて今日来てます。
勉強自体は嫌いじゃないですが、成績的には180番位だったかな。
まあ、そんな感じです。」
「最後は俺っすね。
えーと吉田健治っていいます。1年7組。天文部っす。竹尾君のクラスメイトで、今日は竹尾君に誘ってもらいました。
今日は内輪の勉強会に参加させてもらってありがたいと思ってます。
解らないところを教えてもらえると助かるっす。」
吉田君は身長やや低めだが、がっしりした体格に四角い顔という特徴的な体形だ。
「今日だけど、基本的には各自で勉強して、解らない部分があればお互い教え合う感じでいいかな?
どうしてもって部分だけリンタローを頼ろうか。
どっちにしろ自力はつけないといけないし、全部頼ってたらリンタローが勉強する時間が取れないだろうし。」
「そんなに神経質にはなんなくてもいいよ。自助努力して解んないときは気にせず聞いて。
ただ、勉強できるのと教えるのが上手いのは別かもしんないから、解りにくくっても勘弁してね。」
「んじゃまあ、昼飯食べて集まったから今が1時、だからまずは50分頑張ろうか。
で、10分休憩して、もう1時間、それで3時でしょ?
おやつ休憩しながらしばらくゆっくりして、その後、もう1時間頑張ろうか。
それで、今日の勉強会は終了で。」
「あんまり遅くなると帰るのが遅くなるからそんなもんだろうね。
あ、そうそう、暑いから喉も乾くと思うんだ。お茶用意してあるから、各自適当に飲んでね。
あと、おやつ休憩用にはジュースも買ってあるから、それはその時に。
じゃ、各人それぞれ頑張ろうか。」
一度大人を経験している人間にとって、中学生のやり直しは結構難しい。
何が難しいかというと、忘れている部分、抜けている部分を見つけるのが難しいのだ。
単純な大項目はタイトルを見るだけでどんな内容かの見当はつく。
当然、基礎項目については、その知識だけで大体問題なく回答を出すことができる。
ところが、教科書や応用のプリントをこなしていくと、あれ、この内容、この単元のなかの一部だったっけって項目が出てくる。
こういうのが厄介だ。自覚していない忘れている項目だ。
幸い、人生をやり直しているせいか、死ぬ間際よりは物覚えがかなりいい。
見つけてしまえば覚えられる。
しかし、あるかないか解らないこういう部分を抜けが無いよう念押ししていくのは結構面倒くさい。
また、コンピュータやスマホ・タブレットの普及であいまいになりがちな部分っていうのもある。
典型的なのが漢字等の数のある暗記項目だ。
漢字自体は覚えてても、漢字を使う熟語が出てこなかったり、元号や西暦が出てこなかったり人名を忘れていたり。
年のせいか、それとも、もともとあいまいだったのか、あれ?これなんだったっけ、が頻出する。
解答をみれば思い出すだけに、忘れているのがとにかく悔しい。
便利なものは、便利な分だけ副作用ももたらすんだなと勉強しながら思う所存である。
まあ、それでも、一度学習してるだけ思い出すのは早いんだが。
こういうの、繰り返してるとだんだんイライラしてくるよなあ。
いっそ、全部思い出せるよう、勉強をし直して漢検取ってしまうのはどうかとか思ったりする。
まあ、そのための時間がもったいないと感じてしまうので、そこまではしないけども。
今回の人生での目標は就職氷河期で酷い目に合わない事だ。
勉強をやり直せば今回の人生が良くなるなら漢検取得も考えるんだが。
問題はそこじゃないんだよなあ。
みんなからの質問をさばきながら、ローテーブルに向かって数式を弄り回していると、じきに3時に近くなった。
集中してると時間の流れが速いねえ。
残りのみんなに声をかけて、おやつの調達に台所に移動する。
用意したおやつは個人的には懐かしいものばかり。
S&B食品の5/8チップに明治のカールのチーズ味、不二家のカントリーマアムにカバヤのフィンガーチョコ
飲み物は原液の方のカルピスと伊藤園のレモンスカッシュのペットボトル。
いやー、懐かしいわ。
コーン菓子のカールとか、カントリーマァムは平成、令和でも食べられたけど、フィンガーチョコはなかなか見かけなくなったし、5/8チップに至ってはたしか生産終了してたはず。
そういえば、熊本在住だと引き続き売ってるから気づかないけど、カールも関東圏では売ってないんだっけ?
1986年現在のこの時代だと、この辺のお菓子もまだバリバリ現役である。
5/8チップは1979年発売開始、カントリーマームが1984年。どちらも発売10年未満。
カバヤのフィンガーチョコが1969年発売開始で17年、明治のカールでも1968年だからやっと18年経ってるくらいか。
まだしばらくはどのお菓子も問題なく調達できるわけで、ついついこういうのを選んでしまうのは仕方ない。
大手のお菓子メーカーの定番お菓子もいいけど、こういう懐かしいお菓子も悪くないよね。
何しろ、子供時代に普通に食べてたリアルタイムのお菓子だからね。
ホント、人気のお菓子って時代を超えるなあと思う今日この頃。
6人でお菓子をつまみながら、雑談に興じる。
「3人でゲームを作ってたって言ってたけど、どんなのを作ってたの?」
「あー、実際に遊ぶならヒロシかサトルかの家に行かないと無理だね。
俺んちのパソコンは6月末にやっと買ってもらえる予定で、まだ届いてさえないし。
当然、完成してるゲームもないからね。
ああ、そうだ、画面だけなら掲載されてる雑誌があるけど、見てみる?」
「あー、I/Oの5月号?」
「いや、PiOの7月号。記事書いたやつが献本で届いたんだ。」
「何だよそれ、俺見てないぞ。サトルは?」
「僕も見てない。ズルいよリンタロー」
「本の到着が10日だったからさ。2人とも今日来ることが解ってたから、保留してた。
雑誌を学校に持っていくのはまずいだろ?」
「事前に言ってくれてればよかったのに」
「サプライズ、サプライズ。黙っといた方が2人とも驚くでしょ?
今日初めての3人にも一緒に見てもらえば一石二鳥だしさ。」
「いやまあ、いいけどさ。
んじゃ、早速みんなで見ようか。本の方はどこに?」
「部屋にあるから持ってくる。ちょっと待ってて。」
階段を上り、左側のふすまを開けて自分の部屋へ。
勉強机の上に置いてあるPiOを掴んでみんなのいる部屋へ戻る。
「持ってきたよー。
カラーページにゲーム画面の写真が載ってて、プログラムと解説はモノクロページにある。
両方ともしおりが刺してあるから、そこを見るといいかな。」
「どれどれ……」
カラーページはコンテスト受賞者がまとめて掲載されており、その中でやや大きめに「わたれ!」の画面が印刷されている。
モノクロページの解説コーナーには誰かが描いた3人娘のイラストまでかわいらしく掲載されている。
全員でペラペラめくってみた後、ヒロシとサトルの2人はさっと本文の紹介記事まで目を通した。
川中君、坂井君、吉田君の3人も、ヒロシとサトルの後に、順に記事を眺めていく。
「これ、記事の筆者に竹尾君の名前、そのまま載ってるけど……」
「ああ、これ?記事も俺が書いたしね。
というか、こういう感じでヒロイン3人娘のイラストが乗るんだったらサトルに描いてもらって記事に付けたらよかった。
もっとかわいく仕上がったと思うのに。」
「いや、これはこれで良かったんじゃない?
キャラクターの雰囲気が雑誌内で1カ所だけ違うの微妙な気がする」
「イラスト分の原稿料とれたかもしんないぞ」
「原稿料は竹尾君が書くんだから竹尾君の総取りで良いって決めたじゃない?
変に僕の分が入ってくると揉める元だからね。触らぬ神に祟りなしってやつだよ。」
「PC-8801が近づいたかもしれないぞ?」
「それとこれは別だと思う。それでリンタローと揉めて次のソフト作れない方が嫌だ。」
「まあ、そりゃそうか。
パソコンよりは友達だよな。」
ヒロシとサトルが話している間に坂井君が俺の方に話しかけてくる。
「すごいね。中学生なのに雑誌の記事とか書いてるんだ?」
「コンテストで受賞したソフトの解説記事だからね。
何回も掲載されるような記事じゃないから。
それに、本文内ではヒロシとサトルの紹介もしてるから載ってるのは俺だけじゃないし。」
坂井君はPiOの記事部分を読み返すと驚いたように声を返した。
「ホントだ。2人の名前も出てきてる。じゃ、ほんとに3人で作ったんだ。」
川中君がヒロシを茶化すように言う。
「ヒロシが関わってるとかホント嘘くさいんだけど、この本みる限りマジなんだねえ。」
「マジも大マジだよ。
それがコンテスト受賞してるんだから嘘みたいだよな。
まあ、でも、このリンタローがいないと完成してないから、俺らは賑やかしみたいなもんかもしれないけどな。」
「何度も言ってるけど、こういうゲームはプログラムだけ出来ても駄目だから。
2人がいないと完成してないってのは忘れないでくれよな。」
「まあ、納得はしたけどさ。
本当の勝負は次回作なんだろうし。」
「まあ、そうね。
一発屋は運が良ければ何とかなる。狙って賞が取れて初めて本物なんだしね。」
「どんなことをやれば賞が取れるものなのか、出来る事なら参加してみたいんだけど」
吉田君がつぶやいた。
「やってみたいなら参加してみる?」
「ああ、ダメじゃなきゃ参加してみたいかも。
まあ、何をやればいいのかさっぱりだから、まずはそこら辺を教わってからになるだろうけど。」
「まあ、本格的に次回作に手を出すのは夏休みの予定だから、まだ新ソフトのアイディアを練る段階かな。
夏休みに入ったところでみんなで集まってどういうのを作るか決めるから、それまで待っててもらえば声をかけるよ。」
「ほかの2人は?」
「あれ、この勉強会、スカウトが目的だった?」
「いや?別にそんなことはないけど?ツトムは無理でしょ。水泳バカ。」
「へへっ。まあ、そうだな」
「馬鹿って言われて自慢げなの、さすがツトムだよな。」
「俺が泳いでないとか人類にとっての損失でしょ」
「言い切れるところがすごい。天才というか紙一重というか。」
「坂井君は?」
「面白そうだけど、俺もパス。生き物育ててる方が性に合うと思う。
また賞が取れたとかだったら教えてよ。見物しに行くから。
おれはそれくらいの距離間の方がいい気がするんだよね。」
「うん、OK。
まあ、今日は友達同士を紹介し合おうぜって趣旨だし。
とりあえず、みんなで勉強できてれば成功じゃね?」
「んじゃ、もう3時半だし、そろそろ続きやりますか。」
「うん、そうしようぜ。
進捗もいいし、このまま頑張ろ。」
「おう」
こうして、週末に行われた合同勉強会は無事完了した。
主要5教科に絞った勉強は中間範囲の復習から期末範囲までの再チェックまでと結構やることが多かった。
しかし、サボらず進めることができたし、各教科それなりに弱点をカバーできたように思う。
帰る前には全員、それなりに満足していたようなので、悪くない勉強会だったんじゃないだろうか。
俺についても、他人に教えることで漏れ抜けを埋めることができたので悪くない勉強だったように思う。
今度の期末試験もサクサク仕上げることが出来るんじゃないか。
そう思わせる仕上がり具合だった。
さて週が明け、月曜火曜に通常授業が行われた後、水曜日、つまり18日から期末試験が始まった。
テストは午前中いっぱいを費やして実施され、3日をかけて9科目のテストが実施される。
総合順位に関係するのは主要5科目だけだが、期末試験では音楽、美術、保健体育、技術家庭といった4科目の副教科に関してのテストも行われる。
この学校の場合、副教科の問題は割と先生たちの好みで出題されがちであるので、予習復習は難しい。
とは言え、授業さえきちんと受けておけば、テストで出そうな部分は周知されている。解けない問題は少ないだろう。
副教科は教科書を通しで読んで、授業中のノートを見直すくらい。
それで十分点は取れるんじゃないかな。
あと、主要5教科についてもそんなに心配していない。
中間時点で期末範囲まで勉強を済ませているし、そもそも一度、大学までは行った事があるんだ。
中学時代の試験くらいは油断しなければ勉強無しでも満点近いとは思う。
期末テストでもテストの方はサクサク解けて問題なし、と行きたいところ。
むしろ、今回は10位程度に収まる程度に点数を調整することを忘れないようにしないとだよな。
皆様、いつもご愛顧いただきましてありがとうございます。
つたないうえに若い子置いてけぼりの内容の作品ですのにをご覧いただいてるのが夢のようです。
ましてや、いいねやブックマーク、感想などがこんなに頂けるなど、三文作者には驚き以外ありません。
たいへん更新の励みとなっております。
今後も引き続きお読みいただけ、お気に召していただけましたら感想をいただけますと幸いです。
さて、例によって月末のご連絡です。
来週月曜より月初に入りますので、1日月曜から1週間お休みをいただく予定です。
よほど仕事でトラブらない限り、次回投稿は7月8日から更新再開を予定しています。
しばらくの間、投稿間隔が開いてしまいご迷惑をおかけしますが、次回投稿までお待ちいただけると幸いです。




