簿記試験前の2週間の苦労
東京行きのため、締め切りが繰り上がったソフト改修。果たして3人は修正版を完成させることが出来るのでしょうか?
5月21日、水曜日。
中間試験の結果発表の次の日、昼休みに俺はヒロシとサトルを緊急招集し、事情の説明を行っていた。
「そういうわけで、わたれ!の改造版、I/O編集部に渡すの、6月24日が締め切りになったんだ。
そのせいでプログラム自体の完成を前倒しにせざるを得なくって。」
「簿記のテストがあっても、プログラムの再開自体は6月の9日には出来るって言ってなかった?
24日なら十分時間があるように思えるんだけど。」
「そりゃ、何もなければ大丈夫だよ。でも、6月の18、19に期末試験があるじゃん。
そのための時間どうするの?」
「「あ~」」
「テスト期間を差っ引くと、今日から使える日数は平日が15日、土曜3日、日曜が2日しかない
スケジュール的にはかなりカツカツなんだよ。
しかも簿記を勉強する期間とかぶってるから、そう長時間プログラムに全力を費やすわけにもいかなくて。」
「プログラム的にはあとどれくらいかかりそうなの?」
「2人に頼んでた作業の進捗次第だね。
そっちはどうなってる?」
「一応、絵のほうは大丈夫。
もう方眼紙のほうにも起こしてるから、あとはリンタローが見ておかしいところがなければ大丈夫かな。
どこかで見てもらおうと思ってカバンに入れてきてあるから、後で2人で見てくれる?」
「わかった、じゃ、それが問題なければ早速データにしてプログラムに組み込んでみるよ。
出来がよければ、今晩にもデータ化して入力するだけにしておくよ。
ヒロシのほうは?」
「結構難産だったんだけど、サトルと合わせて20個ほど考えてる。
そのなかで使える奴だけ使えばどうだろう。」
「どんな感じ?」
「いくつか例をあげればいいか?
時間制限を付けて時間内にクリアできないとダメなマップを作る案。
取ると時間制限が伸びるアイテムを用意して、それを何度もとることで時間制限を伸ばすことでたどり着ける場所に初めてクリアできるルートがあるマップ案。
アイテムを取ると壊せるようになる車をマップに追加して、その車を壊してクリアする案。
ボーナスステージ風に点数が入るアイテムがでいっぱい並んでいる面だけど、タイムだけ短い罠マップ案
ゴールが移動するマップ案、それ以外は車の移動方法とか表示方法を変更するのがほとんどだね。
例えば大型の車が迫ってくるのを避けるとか、車がチョロQになってプルバックで戻っては進むを繰り返すとか
変わり種だとマップの何カ所かに陸橋があって、陸橋の上なら車には当たらないけどヘリに当たる、とかそういうのだな。」
「思ったよりいろいろアイディア出てるね。
プログラムに落とす段階で出来る出来ないはあるだろうけど、使えそうなのも多そうだ。
アイディアの方は何かに書いてる?全部読んでみたいんだけど」
「使いかけのノートにで良ければまとめてある。
後で渡すから持って帰って使えそうなものだけ使ってくれ。
ダメそうなものも理由を含めて教えてくれれば何か代案を考えるよ。」
「解った。じゃ、早速今日からプログラムを始めるよ。
ある程度単位で出来上がるたびヒロシんちに集合して入力してみよう。
それで、遊んでみれば使えるかどうかは判断できるでしょ。」
「以前もやったテストしてはプレイの繰り返しってやつか」
「あんまり難しすぎても駄目だからそこのテストもしておかないとね。」
「日数が残りあんまりないんだろ?ペースはどうするんだ?」
「週に2日、火曜木曜は美術部があるから、その日は極力抜けられないと思う。
間に合いそうになければサボるけど、基本、学校に残るのは1時間か残っても2時間そこらだしね。
だから、それ以外の平日夕方と土曜日曜どっちかをヒロシんちでのプログラム入力と動作テストに充てようと思ってる。
その辺どうかな?ヒロシはヒロシで忙しい日もあるでしょ?なんとかなる?」
「俺も部活が問題かな。水泳部は週4日営業だから、水曜と土曜日曜なら大丈夫だが。
てか、どう考えても日程的にヤバくね?
期末テスト期間前に終わらすとなると、5月28日と6月4日、あとは土日しか無いよな。」
「月金はダメか―。まあ仕方ないね。
ヤバいはヤバいけど、一度さんざんテストして仕様は理解しているからね。
集まれない日は徹底的に机上でプログラムを詰めておいて、集まれる日は全部プログラムの入力とテストに使えれば、何とかなるんじゃないかな。
以前同様、平日も2時間位は粘れるだろうし、既存のプログラムへの修正が中心なら時間内に何とか出来ると思う。
せっかく考えてもらってなんだけど、アイディアの方も面さえ増えれば全部使わなくてもいいわけだし。
ま、最悪、どうしても無理なら6月の20、21、22の3日間があるよ。そこで何とかしよう。」
「もしそうなったら20日は理由付けて部活休むよ。1日なら何とかなるでしょ。」
「それは助かる。
でもまあ、簿記のテストもあるから極力6月頭までに完成させる方向で行こう。
そのうえで最後の3日は不具合チェックのためのテストプレイ日位の気持ちで居ればいいんじゃないかな。」
「そうだね。後はリンタロー次第だけれど。」
「俺たちも応援とテストプレイくらいはするぞ。できることがあったら言ってくれ」
その後、プログラムの改修は順調に進んだ。
平日の毎日2時間ほどの机上プログラムは思ったより多くの修正を完了させた。
5月の24日にはタイトル画像とロゴの差し替えが終わり、デバッグ用の面セレクト機能が追加され、追加マップの2ステージ、ボーナスマップの実装が完了。
翌日25日にはさらに4ステージ、時間制限付きのマップの実装が完了。
これで合計9ステージになった。
同時に、簿記試験の準備も順調だ。
プログラムに注力しているせいで一日2時間程度しか時間を費やせていないが、既に一度テキストを解き終わっているだけあって、復習だけでも十分な進捗を見せている。
自分でまとめた復習ノートを何度も読み返したり、一部を隠して内容を覚えているか確認したり。
あと、過去問を解いたり、問題集を解いたりと手を変え品を変え、飽きないようにいろいろと勉強方法模索している。
今の所、テキストや過去問を追いかけている限りは習熟度が上がってきているようで、既存の設問の回答で迷うことはほとんどなくなってきた。
週が明け、火曜日になり、ファミコン版ドラゴンクエストが発売される頃にはプルバックで戻っては前進するチョロQマップのプログラムが追加され、水曜日にそれを入力してテストを行った。
テストプレイの状況に併せてさらにチョロQの移動速度を調整したり、巻き戻るタイミングではチョロQがウィリーするなどのグラフィックの変更が加えられ、他のアイディアと組み合わせられてさらに4ステージが追加された。
そしてついに30日の金曜日、再び俺は昼休みにヒロシとサトルを招集する。
「そろそろ時間的に限界だと思う。
あと1週間で簿記試験だ。さすがに最後の1週間くらいは勉強にフルに使いたい。
だから、31日土曜に実装する内容を最後にして、6月1日は全部をテストに使おうと思う。
不具合が出ないかを確認したいんだよね。それでいいだろうか?」
「解った。」
「いいと思うよ。
しかし、思ったよりアイディアが生かせなかったね。」
「ごめん、こればっかりは俺のプログラム能力の問題だね。
ボーナスマップ実装するには、最初の3ステージでもポイント追加する変更が必要で時間がかかったし、
時間制限は思ったよりゲームバランス調整で時間を食った。
チョロQは比較的楽だったけど、ウィリーさせるためのグラフィックとか、前後へのスピードの調整に手間取った。
これ以上は時間的に無理だよ。あと1要素入れるのが限界かな。」
「最後の追加分はどのアイディアを使う予定だい?」
「大型の車がやってくるのを躱すのと、車と車の間の幅が1キャラ分しかない中を直進して避けるやつにしようかなと。
見た目派手だし、それでちょうど15ステージだから切りもいいかなって。」
「そうだな。今回は時間制限もあるし、ここらで終了でいいんじゃねえ?
竹尾だけ無理させるのはなんか違うと思うし。」
「そうそう。
使えなかったアイディアも残しておけば、また別のプログラムで使えるよ。」
「ありがとう。じゃ、残りひと頑張り、実装することにする。
今週の土日までは付き合ってくれると助かるよ。」
「いや、20、21、22も空けてあるから遊ぼうぜ。
部活休むのをギリギリに申告するのも良くないから、20日はもう休みにしちゃったんだよ。」
「僕たちも部活は無い週末だからね。
初日は完成祝いに乾杯しながらテストプレイしようよ。
やっぱ、不具合が無いかどうかは僕も気になるし」
「2人とも。ありがとう。
んじゃ、その時は何かお菓子を持ち寄ろうか。」
「OK、んじゃ、ジュース類はうちで用意するわ。
ついでにまとめ読みしたいと言ってた月刊ASCIIも読めばいいだろ。
あれも読無奴がいないと単なる古本だからな。親父も文句言わねえと思うよ?」
「ん、わかった。当日はお願いね。」
かくして、わたれ!国道三号線の更新版は6月1日にさんざんテストされ、完成とされた。
新しいタイトルは「デンジャラスロードを超えて!」
このソフトは、その後、月刊I/Oの掲載プログラムを販売していたコムパック社のソフトとして売り出された。
そして、年末までにX1向けソフト部門で1500本を売り上げる、プチヒットタイトルになるのだった。




