受賞と報告
輪太郎は小学校の先生たちに受賞の報告をするのでした。
4月20日、日曜。
今日も朝から雨だった。
結果発表が1か月遅れた「第4回 I/O ソフトウエアコンテスト」。
その受賞者が今日発売される月刊I/O 5月号で発表される。
そういうわけで、当落の結果をもって小学校へ結果報告に行かないといけないわけだが……。
3人全員が本を買いに行くのもやっぱり無駄である。
そういうわけで代表して俺が本屋に行くことになっている。
たまにでもI/O買ってたのが俺だけだったという理由である。
ちなみに、高木君ちは月刊ASCII派、木村君はプログラムポシェット派であるらしい。
なお、うまく受賞していたら電話で合流する算段だ。
事前の約束では自転車で集合する手はずになっていた。
でも、そんな日に雨。
幸先の悪いものを感じないでもない今日である。
仕方がないので、母に頼んで車で最寄り本屋へと移動する。
母も結果が知りたいとのことで、今日はお休みをいただいていたみたいである。
さすがに看護師でも1か月も前からならスケジュールが取れるんだな。
早速、コンピュータ関連の雑誌棚へ移動すると、平積み棚にばっちりI/Oが積まれていた。
手に取ると、目次のページにコンテストの結果が発表されていることが載っている。
「ふーっ、はーっ」
深呼吸して雑誌を手に取る。
まずはカラーページを探してページをめくる。
202ページくらいからがカラーページになっていた。
祈るような気持ちでページをめくる。
ついに212ページに入賞者発表のページが現れた。
「うわ、載ってる」
右側のページに画面のスクリーンショットが載っているのだが、「わたれ!国道三号線」の名がばっちりと掲載されていた。
これで入賞は確定。とはいえ、努力賞なら賞状、盾、記念品だけである。
左側の総評を読むと、最優秀賞に該当する作品は無いとのこと。
この時点で100万円の賞金は無くなった。
あとは優秀賞の賞状、盾、50万円か、審査員特別賞の賞状、盾、海外特派の2択になる。
見ていくと、優秀賞にも名前はない。
これで賞金は無しのパターンか、と思ったところで、何故か審査員特別賞なのに賞金30万円の項目が…。
そんな賞って募集記事に書いてあったっけ?
読み進めると、俺たちのゲームはその賞金30万円の方の審査員特別賞になっていた。
海外特派付きの審査員特別賞も別にあるので、審査員特別賞に賞金30万が追加で付いたわけでもない。
賞金30万円の審査員特別賞が追加で準備されただけのようだ。
30万組は俺たち以外にも3人居るので、最優秀賞や優秀賞にあたるほどではなかったけれど、それなりに評価できる内容でした、って感じなのかなあ。
悪く見ると、ちょっと賞金を値切られた気もするからちょっと微妙だけど。
まあ、でも、小学生のしかも3人グループを海外派遣はさすがに無理だろうからなあ。
連名での投稿だから派遣するなら3人送らなきゃならないし、送るなら保護者も必要だ。
もしかしなくても、3人分の旅費を考えると、30万の方が安くつく、という結論だったのかも。
まあでも、30万か。
100万や50万に比べて3人で綺麗に分けられるし、逆に良かったのかもしれないな。
「母さん、審査員特別賞だ。
入賞だよ。早く戻って2人に伝えないと。」
「あらあら、大変。じゃ、本を買って急いで帰りましょうか。」
「うん、買ってくる。母さんは入口に車回してて。」
「わかったわ。とにかくおめでとう。」
「ありがとう」
自宅に戻り、2人に電話をすると、早速高木君のお父さんが車でやってきた。
後部座席には高木君と木村君の姿もある。
「小学校に行くと聞いてね。
それはいいけど今日は雨だろう?だから足をだそうってね。
確認したところ、木村君ところのご夫婦も田植え機の試乗会で無理だって話でね。
代わりに私が送ってきたわけさ。
さあ、竹尾君も乗せてくから乗って乗って。」
「母さん、どうしようか?
僕は母さんに送ってもらおうかと思ってたんだけど。」
「いいわ、高木さんのお言葉に甘えて、一緒に連れて行ってもらいなさい。
あなたの妹もお祖母ちゃんばかりに任せられないし、お祝いの準備も必要でしょ?
奥様達にも電話してみるから小学校にはあなたたちだけで行ってもらうと助かるわ。
高木さんも付いていってくださるみたいだし、問題はないでしょう。」
「解った、行ってくる。」
小学校にはこの前のメンバー、校長と教頭、担任、学年主任の先生たちと興味本位と思しき理科のマツ先が待っていた。
みんな、すでに受賞を知ってるのだろう。
校長室の机の上にはマツ先のものと思しき月刊I/Oが置かれ、全員見たこともないほどにこにこしている。
早速、審査員特別賞を受賞したことを伝えると、全員とても祝福してくれた。
すぐに、転勤した元副担任の水上先生にも電話がかけられて入賞を伝える。
水上先生にもとても喜んでいただいて、祝福の言葉もいただいた。
仕事しながら待ってたと思しきこっちのメンバーはともかく、水上先生はいつ来るか解らない電話を待って部屋にいてくれたのだろうか。
なんかとても申し訳ない気分になってしまった。
校長だけは編集部のことをまだぶつぶつ言っていたが(そんなに卒業式の件が悔しかったのだろうか?)、それでも受賞は受賞だ。
素直に受け取って、3人で感謝の気持ちを伝えると、先生たちもいい笑顔で笑ってくれた。
校長先生が聞く。
「ところで、受賞したことは中学校には伝えるのかね?」
それに対しては高木君のお父さんが答えた。
「いえ、そのつもりはないですね。
賞を獲っただけならいいんですけど、今回は賞金があります。
クラスメイトに広がってしまうと、タカりや恐喝のもとになるかもしれません。
せっかくの受賞結果をそういうつまらないことで汚すわけにも行きませんので。
今回は小学校の頃に作成したもので受賞したので、小学校の頃の実績ということでいいのじゃないかと。」
「そうかね。
確かにそのほうがいいかもしれないね。
小学校でもあまり吹聴しないほうが良いなら、そうするようにしようと思うが。
どうでしょう、そのほうがいいですか?」
「いえ、普通に話すくらいなら問題ないと思います。
幸い、ちょうど小学校を卒業したばかりですから。
問題は子供たちで、大人はそんなに問題は無いと思っているので。」
「通ってる学校内や同学年に公にならなければ問題ない、ということですな。
私たちも卒業生の自慢話ができるのはうれしいことです。
それでも、大きく話が広がらないよう心がけておきましょう。」
「お願いします。兄弟のいる子とかもいるでしょうしね。」
「心得ました。
ちなみに今日この後は?」
「すみませんが、多分、家族で祝勝会になると思います。
もしかしたら3家族集まるかもしれませんし。
このご挨拶がすんだら私どもも失礼させていただこうと思います。」
「解りました。
今回は本当におめでとう。
君たちの普段の努力が認められてこの賞につながったんだと思うよ。
今後も頑張ってくれ。
何かあったら卒業生としてまた知らせに来てくれるとうれしいよ。」
最後に挨拶をして4人で校長室を出た。
振り返ったところで安普請の校長室のドアの向こうから校長の声がした。
「先生たちも、今日は私がおごるから、どっかに飲みに行かないかね?
こんな日は仕事をしても手につかないだろう。
昼飲む分には明日に響かなくて済むだろうしね。」
「おお、それはいい。行きましょう、行きましょう。」
明らかにノリノリのマツ先の声。
盛り上がる先生たちを横目に、俺たちは小学校から引き上げた。
この時代、運転代行ってあったのかしらん。
飲酒運転にならなきゃいいんだけど。




