簿記の勉強をはじめました1
簿記の勉強の準備を始めた輪太郎。すると、いろいろなことがトントン拍子に進みだし……。
佐藤家を訪れてから数日後、俺は早速簿記の本について調査を始めていた。
とりあえず、当たり前だが小学校の図書館には置いてない。
身近なところで借りれそうな宛もとりあえずはない。
こういう時、公立の図書館が使えると便利なんだけどなあ。
残念ながら市営図書館は中学校がある隣町にしかない。
小学校の間は一人で校区を出ちゃダメってことになっているので、隣町の図書館が使えるのは4月からだ。
本屋についても同様で、一番近い本屋は中学校のちょっと先に建っている。
当然こちらも4月からしか使えない。
となると、やっぱりまずは1冊本を買わないと話が進まないなあ。
つまりは、毎月のマイコンBASICマガジン買いに行くときに一緒に探すしかないわけかあ。
そういえば、マイコンBASICマガジンは今月から発売日が変わっている。
毎月10日だったのが2月から8日になったのだ。
おかげで、今月は本屋に行くのが9日ですむ。
簿記の本を手に入れるのも1週間早くなるわけで、ほんの数日だけど有意な差になる。
先月までだったら16日まで買いに行けなかったことを考えると得した気分だ。
購入費もクリスマスにもらった図書券3000円があるし、金銭的にも不安はない。
あとは待つだけ、と言うやつである。
しかし、本屋と図書館、かあ。
俺のうちから中学校まで直線距離で約2Kmほどはあるから、通学には自転車が使えるだろう。
そうなれば隣町に出れるようになるので、学校帰りに本屋や市営図書館に寄れるようになる。
中学自体の図書館もあるから、読める本は格段に多くなるはず。
そうなれば調べ物もだいぶはかどるようになるだろう。
それこそ、上手くやれば市営図書館や中学の図書館の司書さんと仲良くなって、購入書籍の内容に介入するとかも出来るかもしれない。
お小遣いの少ない子供の身には夢が広がる話である。
まあ、それもこれも、まずは4月にならないと始まらないのだが。
9日、日曜日。
通いつけの一番近い本屋にはメーター幅の棚に二段丸ごとくらいの簿記の本があった。
出版社別であったりなかったりするが、基本的には毎年新しいのが出ているように見える。
早速、最新の物をと探していると、今年出版の本をいくつか見つけた。
奥付を見ると、今年出版の本は全部発行日が今月になっている。
へー、簿記の本の改定時期って2月更新なんだ。
ナイスタイミングというか、なんというか。
出来る事なら早く資格のレベルを上げたいところだが…。
パラ見してみた感じ、いきなり2級はハードルが高そう。
とりあえず、最初の目標はひかりちゃんのおじさんのおすすめ通り3級がいいかな?
いろいろ見比べた末に、同じ会社のテキストと過去問を含む問題集を1冊づつ購入することにした。
合計2800円。図書券の範囲でギリギリ間に合った。
テキストを読むと、一般的に100時間くらい勉強すれば合格できるって書いてある。
次回の試験日が6月頭らしいのでそれまでに約120日。
毎日1時間でも100日間あれば合格水準まで行ける計算なのに、そのうち30日くらいは春休み期間だ。
必要なら1日中でも勉強することが出来る。
時間的には十分だろう。
むしろ、中間テストまでの勉強期間を考えればちょうどいい位かな?
計算上はある程度友達付き合いで遊びに出ても何とかなりそうな感じである。
問題は勉強の段階から電卓が必要なことだ。
家にある電卓が使えればいいけど、家庭用電卓じゃ会計計算には使えないって聞いたことがある。
そうなると、専用の電卓が必要だ。
それを買うとなれば、予想外の出費を覚悟しないと。
とはいえ、会計ソフトを作ろうと言うなら簿記の理解は必須だからね。
お金がたまるまで待ってからと言うのは悪手だろう。
お年玉の投入を検討しないといけないかな。
それか、交渉して親に金を出してもらうか。
まだ金額が解らないけど受験費用もあるしなあ。
合計いくらくらいかかるんだろう。
あと、受験会場についても調べないといけない。
テキストを見る限り、全国の商工会議所って書いてあるけど、多分これ、地元の市の商工会議所ではダメだよね。
熊本市内とか、八代市内とかそういう規模の大きい商工会議所でないと駄目な気がする。
こういうの、誰に聞くのがいいんだろう。
ひかりちゃんのお父さんに聞くのが一番早いけど、さすがにこれくらいは調べられる気がするんだよな。
うちの親族とかでもないから簡単にほいほい聞いて時間を取らせるのも申し訳ないし。
母方の祖母の兄弟で商売やってる三角のおじさんなら知ってるかなあ。
商売やってる以上、帳簿付けはきちっとやってるはずだし、簿記資格も持ってると思うんだよな。
厳しい人だけど、これくらいなら聞けば教えてくれる気がする。
ばあちゃん経由で話を通して、日商簿記の受験詳細について聞いてみるかなあ。
まあ、家帰ってから相談しよう。
本屋から帰宅してからはわりととんとん拍子に話が進んだ。
まず、簿記のテキストを買ってきたことで、母から話を聞かれた。
それで、これからの時代、パソコンで食っていきたいけど実機がないこと。
実機があっても、パソコンで食べていけるかどうかはまだよくわからないこと。
だから、うまくいかなかったときの受け皿として税理士を目指してみたいと考えていること。
この前たずねて行ったのはその税理士の先生だということ。
そのとき、まだ税理士になるための直接的な勉強をやるにはまだ早いと言われたこと。
かわりに、まずは、簿記資格について勉強してみることを勧められたこと。
とりあえず、勉強するだけ勉強して、資格が取れそうなら受験してみたいこと。
それには電卓と受験費用が必要な事、そして受験日程や受験会場についてもよくわからない事。
そういうことを母に話してみた。
早速、夜にも父を交えた話が行われることになり、同様の内容を父に話すと父からいくつかの質問を受けた。
「まず、税理士を目指すことはいいと思う。
どこで知ったのかは解らないが、国家資格を前提にした仕事だから割と手堅い選択だろう。
個人で何とかならなくとも資格があれば会計事務所に就職の線もあるからな。
そのために簿記を勉強したいというのもいい。
まずは普通の勉強が先だと思うが、それをやったうえで勉強するなら、社会勉強としては悪くない。
で、どうしたいんだ。」
「えーと、まず、電卓が必要で、お年玉で会計に使える電卓を買いたいんだけど…。」
「んじゃ、電気屋か。
いや、まずは会計用の電卓というとどういうのかを調べないといかんな。
その前に、受験に関する日程や受験会場、受験費用の話もあるか。
こういうのに詳しいのは、やっぱり、三角のおじさんだろうな。
輪太郎、おばあちゃん呼んできてもらえるか?
三角のおじさんに電話をかけてもらって話を聞こう。」
三角のおじさんは祖母の兄さんで祖母と仲がいい。
だから祖母を通したほうが相談を聞いてもらいやすい。
代わってもらった父が電話で話をしてみると、おじさんは簿記2級の資格を持っているそうだ。
ただ、受験したのはだいぶ前なので最近の事情はよくわからないという。
なので、来週のどこかで商工会議所で聞いてみるので、次の週末に話を聞きに来い、ということだった。
三角のおじさんは2つ隣の町で3号線沿いにある店を経営している、
住んでる家は店の2Fで、息子2人の4人暮らしをしている。
うちからだと車で15分くらいの距離で、一族の墓に参るときは毎回立ち寄る場所だった。
大した距離じゃないので直接話を聞けるのは助かる。
「それで、輪太郎、一緒にパソコンについての話も聞かせてくれ。
クリスマスの展示の時に、高木さんに話を聞いたが、あのソフト、小学生3人で作ったって本当か?」
「いや、タイトル画面の小学校の絵、見たでしょ。
うちの小学校の生徒以外があんなもの作ると思う?
それに、家の小学校でパソコン持ってるの、高木君と木村君だけだよ?」
「いや、思っていたより出来が良かったんでな。
小学生であんなカラーのゲームが作れるとは思わなかった。
パソコンというと、真っ黒の画面に文字を出したり消したりっていうメージが強くてな。
県の研修会でみたパソコンの初期講習でもそういう画面しか見ていないので、驚いた。
で、あれ、どうやって作った?」
「高木くんちでパソコン使わせてもらって作ったよ。
10月にばあちゃんたちと一緒に紀伊国屋に本を買いに行ったでしょ?
あの時の本をお手本にして作ってみた。
グラフィック周りには手こずったけど、マニュアルとか高木君の持ってる雑誌の記事とか。
あと、実機で直接テストするとかして何とかしたのでかなり時間かかったよ。」
「3人のうち、メインで作ったのは誰になるんだ?
高木さんによると、プログラムしたのはお前って聞いたけど、本当か?」
「ホント。
高木君と木村君にしてもらったのはゲームの方向付けを決めてもらったのと、タイトル画像とかロゴとかを書いてもらったりとかかな。
ああいう絵は自分じゃ描けないし、ゲームのバランスとかも一人じゃ時間がかかるからね。
それに、前からプログラムの本を毎月買ってたでしょ?
それを高木くんちや木村くんちで入力させてもらって勉強してた感じ。
ほぼ毎日通ってたから何とかクリスマスに間に合ったんだよ。」
「毎日帰ってくるのが遅いってばあちゃんが言ってたのはそれか。
年明けても帰ってくるのが遅かったのは?」
「クリスマスの時のソフトを木村君ちのパソコンに移植してたから。
それも1日に終わったから、しばらくはまた雑誌のプログラムを入力するだけだね。
あとは、この前に応募したゲームが賞をとるかどうか次第かな。
それ次第ではまた高木君や木村君が盛り上がって次のソフトの話になるかも。」
「それで連日通ってたわけか…。
一言ぐらいきちんと報告しなさい。先方に失礼だろうが。
一応、クリスマスに3人で飲んだ時にお礼は言っているが、使わせてもらっていたお礼も考えんといかんな。
こんど2人の家にはパソコンを使わせてもらってたお礼に伺おう。
あんな高価なもの毎日使わせてもらってたのに、何もなしはまずいだろう。」
「わかった。
都合のいい日が決まったら教えて。
高木君と木村君に訪ねて行っていいかを確認するから。」
「いや、いい。直接電話する。
この前、何かあったときのためにって電話番号を聞いてきてあるからな。
親同士で話したほうがいいだろう。
ついでに礼が遅くなった件について腹を割って話してこよう。」
言われてみれば確かにね。
高木君や木村君も、ましてや高木君のおじさんまでソフト作るのにノリノリだったから気にしてなかったけど、使いっぱなしだったのはその通り。
でも、できたソフトについて、作ったのは俺でも動かせるのは高木君や木村君のパソコンだけだから、俺が持ってても仕方ないんだよな。
ソフト自体も投稿とかしなければ権利まで含めて2人にあげるつもりだったし。
あれだけ地元密着型のソフト、大規模に売るのもいろいろ難しいだろうから、正直それでいいと思うんだよな。
しかし、腹を割ってって、親同士で何を話すことがあるんだろ。
飲みたいいいわけじゃないの?
直後、油断していた俺に、親からの衝撃的な発言が襲い掛かる。
「それから、前から欲しがってたパソコンな。
もう小学6年生の期末テストは終わっているだろう?
だから中学での成績次第で買ってやることにする。
そうでないと、何時までもプログラムのために友達の家に出かけることになるだろう。
それは先方にも迷惑だ。
もちろん、中学最初の試験で成績が悪かったら、この話は無しにする。
簿記試験に合格しても、中間試験が悪かったら同じくだからな。
しっかり勉強を頑張りなさい。」
「やったー。」
キタ、やっと来た。
なんとか学校の勉強を頑張れば、パソコンが買ってもらえるところまできた。
事あるごとにパソコンが欲しいパソコンが欲しいと言い続けた買いがあったぜ。
頑張るしかないぞ、学校の勉強を。
それこそ、「皇国ノ興廃コノ一戦ニアリ、各員一層奮励努力セヨ」だ!
とはいえ、会計ソフトの事を考えると簿記の試験も落とすわけにはいかないよな。
こりゃ時間的にかなり厳しくなるな。頑張らなきゃ。




