竜と冒険者と……
とある森の深い場所にドラゴンがいる。
なんでもそのドラゴンは手負いらしく、その場から動くことができなくなっているらしい。
「これ、ほんとか? 嘘じゃねぇだろうな? 」
「はいっ! だ、大丈夫です、確かな情報筋から手に入れた新鮮な情報です」
「よし、これさえあればうちのチームも竜殺しの称号をもらえる! こいつは駄賃だ」
「へ、へい。ありがとうごぜぇやす」
男は冒険者だった。確かな実力があり、今王都で最も勢いに乗っているチームに在籍していた。『竜殺し』は冒険者の最も憧れている称号で、男の夢でもあった。
知性を持つと言われている上位の竜は未開拓地域に住んでいると言われ、下位の竜つまり知性のない竜しかこの人類圏に来ないと言われている。それでもその強さ比類なき強さであり、生物最強の名をほしいままにしていた。
実力はついたが、そのような辺境にただ竜を探しに行くには危険すぎる。だが、後先考えずに突っ込むのも悪くはないと仲間に話し合っていた矢先だった。
「おい、お前ら! 覚悟はできてるか? 」
男はこの日のために準備をした。情報やから聞くや否や道中に必要になる物資をすぐ手配し、最高のコンデションで迎えたのだ。最寄りの街まで補給せずに強行軍し、食料はもちろん、野宿などの用具もぬかりなく準備して森へ入る。
王都から出発して一か月たった日だった。
頼れるチームのメンバーはいつものメンバーだ。男は前衛であったが、メンバーは五人。前衛二人に中衛二人、後衛一人のバランスの取れたパーティーだ。
急く気持ちもあるが、冒険者として常に冷静でなければならない。はやる気持ちを抑え、慎重に男達は森の中へ進む。
ドラゴンが出たとされる森へ向かうということは未開拓地へも近づくという事。今までの冒険と比べても強い魔物と合う可能性は十分高い。
男はこの日のために魔物の生態を知ることも妥協はしなかった。様々な種類の魔物を知ることで戦闘に有利になるからだ。努力を欠かさない、それが今神級冒険者に最も近いと言われる男オースティン・ライアンである。
体だけではなく、しっかりとした知見から戦闘を行う彼は堅実だった。
そして、道中危ない事もあったが、チーム全員戦闘には問題ないコンディションで目的地へ到着することとなった。
「前方100先、巨大な魔物の存在を発見。動く気配今のところないわ」
弓使いであるレーネが索敵を終え報告する。ストレートに伸びた金髪から伸びる長い耳を揺らしながら、さも自分の仕事はしたぞという態度だった。
「おそらく例の竜だろう、情報は本当だったみたいだ。あいつには終わった後に追加報酬払わないとだな」
ライアンはに不敵に口角を吊り上げる。それとは対照的に震えている手をごまかすように握る。とうとうこの時が来た。
「あいつって情報屋? でもどこから仕入れたんだろうな」
「わかんねぇよ、それが情報屋ってもんだろ」
聞いてきた騎士であるルドルフにそんなものはどうでもよさそうにライアンは答えた。情報は本当であり、そこに竜がいる。その事実だけでライアンにとっては十分だった。
ルドルフは「もう興奮し過ぎちゃってるね」と両肩をすくめた。
「作戦は? 」
眠たそうな目をしながらミドミドが話しかける。彼女はドワーフの魔法使い。小柄ながらも膨大な魔力を有している。
「警戒しながら近づく。手負いってことだが油断はしねぇ。索敵にかかったってことは生きている事には間違いない」
「それはそうでしょうが……」
僧侶であるミラは頬に手を添えながら思案した表情を見せる。
「万が一のブレスに備えルドルフ先頭、俺、そしてレーネ・ミドミド・ミラの順で行く」
「確認ですが、1・1・3で行くということですね? 」
「そうだ」
「攻撃のタイミングは? 」
「こちらで指示する」
全員が頷く。このチームで十年もやってきたのだ。ライアンが知る限り最高のメンバーである彼らも優れた冒険者だ。そしてチームのリーダーであるライアンを、実力を信頼している。
食料品など戦闘に関係ないものは木に吊るし、いつでも戦えるように少しずつ距離を縮めていく。
日差しを遮るかのようだった木々は少しづつ進むごとに明るくなっていく。
そしてついに目視できる位置までくる。
ドラゴンは寝ているかのようで、静かに体が上下している。両眼を閉じているが、その黒く大きな体は大型の宿屋に匹敵するほどだった。
ライアンには竜の判別はつかない。それでもこの大きさ、それなりの齢を重ねた竜に違いないと思った。
もう震えはない、あとはぶつけるだけだ。
「やるぞ」
ライアンのその一声に反応し各々が行動をする。
「ファランクス」
ルドルフはライアンが攻撃しやすいようにいち早く接敵し、敵を引き付ける。
「パワーシュート」
レーネはその翼で逃げられないように翼を破壊すべく攻撃する。
「アイシクルストーム」
ミドミドは動きを鈍らせるための魔法を唱え。
「大いなる祝福を」
ミラは身体能力が上がる魔法をライアンに唱え。
ライアンは爆発的な速さをもって首を落とすべく近づいた。
「がはぁっ」
爆発的に加速したライアンは爆発したような音とともに壁にぶつかったような衝撃を受け気を失ってしまった。
よく見ると竜を囲むように氷がついており、きれいな四角の方とをしていて竜が凍ったようには見えない。
「回復を」
一瞬皆何が起こったかわから鳴ったが、ルドルフがいち早く大声を出し、この異常事態に備えるようにうながす。ミラが駆けつけ回復を施す。爆発的な加速は非常に強力な破壊力を持つが、その勢いで壁にぶつかれば人間であるライアンの体も壊れるのは当然だった。
「大丈夫です、命に別状はありません」
その時突然氷が崩れ去る。
ドラゴンは何事もなかったかのようにすやすやと寝ていた。
ルドルフは剣で攻撃し、レーネは弓で、ミドミドは魔法で攻撃するも透明な壁はびくともしない。
「防御魔法、これほどとは」
「噂には聞いていましたが、竜の魔法がこれほど硬いとは」
「道理で近づいても起きないわけだ」
警戒態勢を解かないままそ話す。ルドルフは巨漢だ。女性陣で持つには大き過ぎるし、ルドルフが持つと殿に備えることができない。
「ルドルフが起きるまで寝ていてくれるといいけど」
「これだけ攻撃しても起きないなら多少はあんしんできるが……」
「楽観視している場合ではありませんね」
するとレーネが違和感に気付く。
「誰かいるわ」
もう一つ、何かの気配を感じるのだ。
不意に女の声が聞こえる。女性というには若い少女のような声。
「この竜は殺させない。罠にかかった哀れな子ネズミ。それを逃すほど私は甘くない。幻想を抱いたまま死ぬがいい」
「ま、まて」
身の毛がよだつほどの膨大な魔力にミドミドは自分の死を悟ってしまった。。
「絶対零度魔法」
その魔法は周囲一帯を氷の彫刻へと変えた。
少女は持っていた杖で氷像と化した四人を壊していく。
同じ人であるはずに何も感情がないかのように。
持っている杖を今度は透明な壁に当てる。
すると竜を覆っていた透明な壁が一瞬で消え去った。
「寿命で死にそうになっているお父さんを殺しに来るなんて許せない」
少女は知っていた。
男たちが竜殺しを夢見ていたこと。
十年続くチームだ。若いころから冒険者をしているということは三十がもう近いだろう。体力が衰えてくる前に森へ探しに行こう言っていたこと。
少女は知っていた。
あらかじめ策を立てれば勝てるということを。身を守るために教えてくれた魔法うが強力なことも。
「どんどん寝ている時間ばかりになったね」
少女は捨て子だった。食ってしまおうかと思っていた竜は自分が老い先短いことを考え、気まぐれに育ててみたのだ。
「安心して寝ててね、お父さん。私が守ってあげるから」
幼子の免疫力など皆無に等しい。竜は己の血を分け与えた。
そして人では使えぬ竜の魔法を教わった。気まぐれから始まった行いだったが、そこには確かに愛情があった。
「最期まで一緒に居させて」
少女にとって竜は家族だった。
「私を一人にしないで」
こんな小説あんまり読んだことがないなぁと思ってリハビリがてら書きました。