涙
「カオルちゃん」
そっと声をかける御波。
笹木を見送ったこの会議室で、カオルは立ち尽くして激しく泣いていた。
「笹木さんを疑いたくなかった。はじめて会ったとき、いろんな話が出来る仲間が出来ると思ったから。うれしかった。本当にうれしかった。それなのになんで? こんなことなら将棋もプログラミングも出来ない方がずっと幸せだよ! 笹木さんが内心あんなこと思ってたなんて。知りたくなかった! なんで! 神様、なんで!!」
カオルはひどく取り乱している。さっきまでずっと堪えていたのだ。
「神様、ヒドすぎるよ……なんで! なんで!? こんなの、もうヤダ……物事を忘れられないぼくにこれはあんまりにも残酷だよ!」
カオルはギフテッドであると同時に完全記憶、忘れるという健全な脳の仕組みが壊れて忘れることの出来ない障害を抱えているのだ。それゆえ、このことも彼女をこれから永遠に、彼女がその命を失うまで、消えることなく苛み続けるのだ。
それにほかのみんなも言葉がない。
「誰しも人の奥底にはおぞましい悪魔が潜んでいるのだ。でもみな、その悪魔の気配に気づけるし、それを抑えることも出来る。普通はそうだ。だが、その悪魔を是とし、発動させる悪しき者がいる。悪しき者とはそういう人物なり」
総裁はそう言葉にした。
「そういえば、笹木さんをそそのかしたその悪しき人物って」
御波が言う。
「ああ。そういう人物がやはりいたのだろう」
「えっ、それはまだ特定できてないの?」
「さふなり。見当も付かぬ。だが実在するようだ」
「それわかんないのにあんな激詰めしたの?」
「背に汗をかいた」
総裁は顔をこわばらせる。
「もうっ、何やってるんですか!」
「ゆえ、2000万円の借金はまだ解決しておらぬ」
「こまりましたわねえ」
詩音がまた眉を寄せる。
「25万の金利支払いも迫ってくる。まさにピンチ……初っぱなから摩文仁の丘に追い詰められておるのだ」
「いちいち旧陸軍の話に例えないでください!」
「その悪しき者を見つけなければ、我々は2000万円の借金で沈没するしかない。なんとしても見つけなければ……。おそらくこの件はこのカオル君誤認逮捕だけでは終わらぬ。もっと大きな何かの前段作戦だと思う。何か恐ろしいことが今始まっておるのだ」
「どう探します?」
総裁は息を吐いた。
「まったく見当も付かぬ。だが」
続ける総裁。
「絶対ゆるさん」
ここで第1章は終わりです。ここまでで15000字ぐらいです。
一応この話、全10章構成+おまけ1話でやろうと思っております。けっこういろいろ専門的なとこ間違ってると思いますが、素人の妄想ということで笑って受け流していただければありがたいです。スペオペみたいなモンだから。だって調べてもなかなかわかんないんだもん…。これじゃまた総裁に鉄研制裁されるひいい!