可憐な激詰め
「カオルちゃん、ログの書き換えってどうやってやるの?」
御波が突然そう言い出す。
「そんなヤバいこと答えられないよ。悪用されると困るから」
カオルは半分怒気を含めてあきれている。
「てことはできる人は限られてるわよね」
御波の目が輝きだした。彼女はアイドルっぽい可憐な容姿に、国語偏差値80オーバーの強力な読解力と、それに派生するすさまじい推理力を持っている。
「まあね。だからログは簡単に侵入されないようにログサーバ、別の機械に転送させてる。たまたまボクの『ユーレイがやった』ログはその転送をボクのクラウドに飛ばすようにしてたからね」
カオルが説明する。
「てことは、カオルちゃんのユーレイのやったログはログが生成されてからすぐにカオルちゃんのものになってるんだから、改竄される時間がないわよね。カオルちゃんのクラウドに入り込まれてない限り」
御波が論理を明晰に展開する。
「……そうだ。警察の入手したログはログサーバのログで、多分改竄はログサーバに侵入して改竄ツールを使ったんだと思う。でもシステムのこと知らないのによくわかるね御波ちゃん」
そう驚くカオルにさらに御波が聞く。
「その痕跡って調べられる?」
「そこそこ難しいけど、できなくはない」
「でも、ログサーバに飛ばされる前、生成されてすぐのログを改竄は?」
「無理だよ。ログ生成プログラム自身を書き換えなきゃいけないし、それをやればやったことがまたログに残る。それを消せばそれを消したことが残る。どこまでも必ず何かは残る。消しゴムで消すようには行かない」
「そうよね」
御波はそこで自分のカルピスウォーターを飲んだ。
「えっ、じゃあ善さんが本当にやった?」
「まさか!!」
みんなが動揺している。
「あとは……ログ生成プログラムを作ったときにバックドアを作る、かな。条件分岐を作っといて、普段は普通にログを作り、何かのトリガーで偽のログを作成するようにしておく。でも普通はその条件分岐が存在してるのは監査でバレちゃうからね」
カオルが続ける。
「その監査を誤魔化すことは」
「普通はできない。監査ってそういうもんだから」
「普通は?」
御波がなおも聞く、
「普通はね。頭の体操で、それをすり抜けることできないかな、って考えたことがある」
「で。あったのね、その方法」
御波が詰める。
「え! そんな」
思わずカオルはうろたえてしまう。
「あったんでしょ」
御波は更に詰める。
「そんな! いくらなんでも」
「あったんでしょ」
「ボクがそんなことできるってなったら、それこそ警察の読み通りじゃん!」
「あったんでしょ」
「だって、だって……」
「あったんでしょ?」
ついにカオルは涙しながら叫んだ。
「はい、あーりーまーしーた!! 一つだけそうする隙がありました! うっうっうっ」
御波の激詰めに嗚咽するカオル。
「カオルちゃん撃沈……!」
ツバメはあきれる。
「御波ちゃん相変わらずドSだよね」
華子もそう言う。
「ひどい! 私、みんなと総裁を救うためにやったのに!」
御波は激怒している。
「でも、カオルちゃんだけはその方法、知っておるのか。それを誰かに話したことは?」
総裁が聞く。
「……そういえば」
「えっ」
「……このHQの機械を納入した八菱電機の技術営業さんに」
「えええっ、言っちゃったの?」
みんな驚く。
「いや。そのものは言ってない。ただヒントになることは……言っちゃったかも」
「カオルちゃん、口軽すぎー」
みんなが口々に非難する。
「だって、実際にやるのはなかなか大変なんだよ!それこそ量子コンピュータクラスのシステムを使った力任せだもの! って、うわっ言っちゃった!」
慌てるカオル。みんなでそれをジト目で見る。
「あ!」
だがそのときみんなは流しっぱなしにしていた部室のテレビにびっくりした。
ニュースショーの1つコーナー、最先端科学の特集コーナーで、八菱電機鎌倉製作所にある量子コンピュータの実験施設の紹介をしていたからである。
「まじ!」
「でも、ハッキリしたね。それができるのはカオルちゃんか、八菱電機の人間のどっちかだけだって」
御波はそうあざとく微笑んだ。恐ろしい子!