テツ道が繋ぐ夢
株主総会は、山本頭取の熱弁と山城の自白、そして越山銀行のホワイトナイトとしての参戦により、グローバルワークキャピタルによるTOBに断固反対するという結論に至った。
最終的な採決の結果は、北急電鉄の防衛側にとって圧倒的な勝利となった。個人株主の多くが、北急の「夢」と「地域貢献」という理念に賛同し、防衛に賛成票を投じたことはもちろん、驚くべきことに外国人株主からも多くの賛成票が集まったのだ。
この外国人株主の中には、北急の長距離列車「あまつかぜ」に魅せられ、その技術とノウハウを使って中国で「あまつかぜ」を建造し、最終的にはユーラシア大陸横断鉄道を実現したいという壮大な夢を持つ、中国の大富豪ジャック・リーも含まれていた。彼の支援は、北急電鉄の国際的な信用と未来への期待を象徴するものとなった。
北急電鉄は、危機を乗り越えたことを宣言し、樋田会長は記者会見で、かねてより予告していたEHR-400X計画の成果を具体化するとして、限界走行試験新幹線「ヴァルキリー」の建造を正式に開始すると発表した。それは、日本の鉄道史を塗り替える新たな挑戦の始まりだった。
*
総裁は、一連の事件解決後、北浜共立銀行の本店頭取室に呼び出されていた。
「総裁、今回の件では本当によくやってくれたわ。貴女たちの活躍がなければ、北急電鉄は今頃、技術を奪われ解体されていたでしょう。心から感謝するわ」
頭取は深く頭を下げた。総裁は「ワタクシも頭取の知恵と勇気に感服いたしました」といつもの調子で応じる。
しかし、頭取の表情が引き締まった。
「ただ、総裁。言いにくいことだけれど……」
「……わかっております。ワタクシ、北浜共立銀行のインターンを辞めさせていただきます」
総裁は、寂しそうな、しかし清々しい顔で言った。
「ええ。残念だけど、総裁は銀行員には向かなすぎたわ。顧客の資産を増やすより、鉄道模型のディテールアップのほうが向いてるでしょう。優秀だけれど、やはり組織人としては……」
頭取は苦笑する。
「組織で生きるのは、ワタクシには合わないのであります。思い知らされました。ワタクシの悪知恵は、組織を救うためには使えるが、組織にいると組織を乱してしまう。その重大な矛盾に気づいてしまいました」
「いいのよ。それがあなたの個性だもの。それに自分で気付けるのもあなたの優秀さよ。とはいうけど、総裁」
頭取は優しい目になった。
「あなたには、本当にやりたいことがあるんじゃない? 銀行員という安定した道とは別の、心が惹かれる夢が」
総裁はしばらく黙り、頭取の目を真っ直ぐに見つめた
「話してくれたら、融資するかもしれないわよ。北急電鉄という成功事例と、あなたたちの技術とネットワーク。それに、あなたの悪知恵と情熱があれば、きっと実現できるわ」
総裁は決意を込めた強い声で、静かに言った。
「ワタクシには夢があるのです。それは……」
〈了〉




