対決
「あ、あなたは……!」
「初めまして。あるいは、お久しぶりかな。北急電鉄の技術顧問、山城だ」
総裁は戦慄した。山城こそが、石黒を殺害し、笹木をそそのかし、すべての陰謀の裏で暗躍していた真犯人だったのだ。
「あなたが……山城技術顧問!」
総裁は、突如現れた山城の冷酷な目に、全身の毛が逆立つ感覚を覚えた。彼のスーツ姿は完璧だが、その表情には微塵の人間味もない。
背後には、疲労と緊張で横たわる頭取がいる。
総裁は、彼女の体を庇うように、山城の前に立ちはだかった。
「まさか、あなたが全ての黒幕だったとは。石黒さんを殺し、笹木課長を陥れ、東郷弁護士を裏で操っていたのは、あなただったのですね」
山城は、総裁の大仰な口調を鼻で笑った。
「悪あがきはよせ、総裁。君の鉄道への情熱は認めるが、所詮は子供の遊びだ。私は、君たちが気づかないうちに、北急の全システムを掌握していた。君たちの周遊列車事業も、EHR-400Xの開発データも、全て私の手の中にある」
山城は一歩、総裁に詰め寄る。その体躯は総裁よりも遥かに大きく、その圧力だけで総裁の足はわずかに後ずさった。
「私が東郷を操ったのではない。彼もまた、私の計画の一部に過ぎない。君たちの言う『夢の鉄道』など、非効率の極みだ。私は、このシステムを真に効率化し、価値のあるものに変える。そのためには、君のような感情的なだけのノイズはまったく不要だ」
山城は、総裁の顔に手を伸ばした。
「失せろ」
その瞬間、総裁は反射的にキャリーバッグを盾にし、山城の腕を振り払おうとした。しかし、山城の力は桁違いだった。彼は、総裁のキャリーバッグを一瞬で弾き飛ばし、その手を総裁の肩に置いた。
「所詮、女の力。私に勝てるわけがないだろう」
山城は、総裁の体を軽々と押しやり、頭取が横たわる寝台へと視線を向けた。
総裁は必死に抵抗するが、山城の強靭な握力に、体は動かない。彼は、体力の限界を超えて奮闘するが、徐々に押し負けていく。背後には、命を預けた頭取が倒れている。
「東郷の目論見は崩れたが、私の計画は崩れていない。株主総会に山本頭取が出席しなければ、北急電鉄は私のものだ」
山城は、総裁の顔面を掴み、その抵抗を封じようとした。
その時、総裁の瞳から、片目のカラーコンタクトレンズが、ポロリと床に落ちた。
総裁の左目の、隠されていた琥珀色に燃える瞳が、山城の顔を真正面から捉えた。
「悪しき者よ! 汝の魂の深奥にある真実を、今こそ洗いざらい吐き出すがヨイ!」
そう叫ぶ総裁の瞳は、まるで心の奥底を覗き込むように、山城の虚無的な目を射抜いた。
山城の顔から、冷酷な笑みが消えた。その目に、恐怖と動揺が走る。彼は、まるで糸が切れたかのように脱力し、総裁から手を離した。
「あ……ああ……」
山城は、その場に膝をつき、震えながら口を開いた。
「そうだ……私がやった……全て……私が……」
山城は、涙を流しながら、すべての真相を話し始めた。
「私は、北急の技術顧問でありながら、北急の非効率な経営方針に憤りを感じていた……私の開発したSYNOPTやシステムは、もっと世界を変えられるはずなのに、樋田会長の『夢』という名の趣味に利用されていた……だから、東郷と組んで、北急を解体し、真に技術を理解する私の手に全てを渡そうとしたんだ……石黒は、私を脅迫しようとしたから……邪魔だったから……」
その時、寝台から頭取が起き上がり、静かにスマートフォンを構えた。
「その自白、全て録画させてもらったわ、山城さん」
頭取は、カオルと遠隔で接続し、この映像を緊急のYouTubeライブで配信するよう指示した。
「緊急速報! 北急電鉄TOB事件の真犯人、技術顧問・山城による衝撃の自白映像です!」
ライブ配信は瞬く間に拡散され、視聴者は驚愕した。
「山城さんが真犯人だったのか!」
「すべてを操っていたのは技術者……」
「総裁の片目……まさか!」
東郷徹郎の陰謀の裏には、さらなる悪意、山城の歪んだプライドがあったことが、白日の下に晒されたのだ。
列車は猛スピードで東京へと向かう。山城は、自らの罪を自白し、憔悴しきっていた。
「これで終わりよ、山城さん。あなたの計画は、あなたの自白によって崩壊した」
総裁はうなずくと、片目を覆ったまま頭取に言った。
「それはそうと、頭取、ワタクシのコンタクト、探してくだされ……」
「……そうね。いくらなんでも、このままは危険すぎるわね」
頭取も軽く震えながら床を探し始めた。




