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幽霊

「ログまで操作できるのはHQの機器を納入した八菱電機、メンテの日本電子ソリューションズの担当者ぐらいだなあ。あとは北急工場の善さんか」

「善さん?」

「北急車両製作所H-TRECの車両エンジニア陣の生き字引だった人。入院してて先月亡くなっちゃったけどね。北急が戦時中に受けた空襲の生き残りでもある」

「ものすごいお年だったんですわねえ」

 詩音が感心する。

「もう半分以上、というかほとんど妖怪だと思ってたけど、亡くなるときはあっという間だった。『タバコがいつもより不味いからちょっくら病院行ってくる』って軽くいったらそのまま入院、それでそのまま。あっけなくて悲しむ時間も無い」

 カオルはそう寂しそうな顔になった。

「お年召された方はそういうことがよくありますわ」

 詩音も同じように辛そうだ。

「危うくぼくが善さんのお葬式の弔辞やるはめになりそうだったんだけどそれは回避」

「カオルちゃんの弔辞ってやばそうだよねー」

「ええっ、どういう意味なんだよ華子ちゃん!」

「ワタクシもそれを想像するとドキッとするのだ」

「総裁まで!」

 カオルはすっかり憤懣やるかたない顔である。

「でもその善さんのアカウントは今どうなっておるのだ」

「規定だと削除なんだけど、削除するのがつらくて、そのままになってる。でも、まさかね」

「ログは警察に全部押収されたのではないのか」

「バックアップはあるよ。今見てる……ええっ!」

「どうしたの!?」

「持ち出したの、善さんってことになってる」

「ええっ!」

「まさか、ユーレイ!?」

「そんなことって!」

「でも善さんのことだからバッサリ否定しきれないんだよなあ。まじで」

 カオルはそう言うが、みんなは納得しない。

「そんなわけある? まさかあ」

「善さんを知らないからそうなんだよ。善さんはほんと、ものすごい人だったから。なんか知らないけど山崎重工のセキュリティもふつうにスルーしちゃってたし」

「大丈夫なの? そんなザルなセキュリティ。ヒドいっ」

 ツバメが口をとがらせる。

「心配になりそうだけど善さんだからそうなのかな、と思ってた」

「簡単に納得しないの!」

 ツバメが更にあきれる。

「でもさ」

 カオルの目の光が揺らめいている。

「でもさ。誰かがログ消したってことになってるけどさ」

「え?」

「ぼく、一つ教わったことがあるんだ。自分の身は自分で守れ、って。特に記録は不利になるように思えても正確に書くべきだ、って」

「そうなの?」

 御波が怪訝な顔をする。

「そう。ぼく、善さんからそう教わった。不利だからって書き換えたり嘘をかくのは地獄への弾丸列車。正確な記録は自分を守ってくれる。特に神様に恥じないことしかしてなければ、って」

 カオルは思い出をそう語る。

「神様に」

「今、それがどういうイミか、わかった」

「どういうこと?」

 みんなは想像も付かない。

「整理するとさ、ボクがカードを持ち出したっていう警察の押収したログ、善さんが持ち出したことになってるログがいまある。でも元の正確なログは一つしかないはず」

「そうだよね」

「元の正確な、真犯人の持ち出したことを記録するログがどこかにあるけど、これっておかしくない?」

 カオルは気づいたようだ。話によどみがなくなった。

「えっ?」

「だって、もともとボクを罠にはめるつもりなら、偽のログはボクがやったことにしたログ一つでいいじゃん」

「……善さんの持ち出したログを作る理由、確かにないわね」

 御波が同意する。

「そりゃ善さんが本当に持ち出したからじゃない?」

 ツバメはそう言う。

「善さんのユーレイがほんとうにいるの?」

「え、そうなんじゃない? ひどいっ」

「じゃあそのユーレイは何がしたかったんだろう。そのユーレイのログが生成されたあと、ボクがカードを持ち出したことに書き換えられたログができたんだと思う。そしてそれが警察に押収された」

「たしかにユーレイのログ、考えればカオルちゃんと私たちを少しだけ騙すのにしか役に立ってない」

 御波も気づいたようだ。

「意味があんまりないよねー」

 華子もそう同意する。

「だからユーレイは実在してたんじゃないの?」

 ツバメはまたそう言ってる。

「もしかすると、そう思って欲しかったのかな。善さんのユーレイが実在するって」

「なんか変だよね」

 みんな、考え込んでいる。


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