銀行リモート役員会
露天風呂とプールでのリフレッシュを終えた三人は、個室に戻り、頭取の指示のもと、宮崎で得た情報を元にした北急防衛策の資料作成に取り掛かった。
「このEHR-400Xの開発データこそが、北急電鉄の未来を担保する最大の武器よ。国交省の勧告は、その情報を奪うための目眩まし。この情報があれば、TOB賛成派の専務たちも沈黙するはず」
頭取は力強く語る。
御波が作成した資料は、EHR-400Xの技術的優位性、そしてそれが将来的に北急の株価に与える影響を詳細に分析したものだった。
そして、翌日の昼。北浜共立銀行の臨時役員会が、頭取のリモート招集により開催された。
頭取は「あまつかぜ」の個室から、最新のホログラフィック通信システムを通じて役員会に参加した。彼女の後ろには、総裁と御波が控えている。
「山本頭取、ご多忙の中ありがとうございます。本日は、TOBに対する弊社の最終方針を決定したい」
専務が重々しく口を開く。
「専務、お待ちください。TOBへの対応を決定する前に、北急電鉄の真の企業価値を示す、極めて重要な新情報を共有させていただきたい」
頭取はそう言うと、総裁が操作するタブレットから、役員会に接続された大画面に資料を映し出した。それは、EHR-400Xの開発計画の概要、そしてそれがもたらす未来の利益予測だった。
「これは、北急電鉄が極秘裏に進めている次世代超高速鉄道開発計画、EHR-400Xのデータです。宮崎の旧リニア実験線跡地で、秘密裏に開発が進められていました」
役員たちは息を呑む。彼らが知っていたのは、国交省の中止勧告が出たという情報だけだったからだ。
「この計画は、単なる鉄道技術の枠を超え、次世代の完全自動運転技術、新素材、そしてデータ管理技術の粋を集めたものです。仮に鉄道計画が頓挫しても、そこから派生する技術は、北急電鉄に莫大なライセンス収入と新たな事業機会をもたらす」
頭取は、EHR-400Xが北急の財務リスクではなく、むしろ未来の成長エンジンであることを論理的に説明した。
「そして、専務。この情報を最初にリークし、国交省の中止勧告という偽情報を使って北急の株価を貶めようとしたのが、グローバルワークキャピタルと東郷徹郎弁護士の真の狙いでした。彼らが欲しかったのは、北急の経営権ではなく、このEHR-400Xの技術データそのものだったのです」
頭取は、東郷徹郎の悪しき企みを、宮崎での発見を根拠に暴いた。
専務は蒼白になり、言葉を失った。
「北急はまちがいなく『金の卵を産む鶏』です。それも、従来型の鉄軌道を時速400kmで走る、世界を変える力のある金の卵を産む鶏です。これを手放すのは、金融機関として最も愚かな判断です」
頭取の強い説得力と、EHR-400Xという具体的な未来の証拠を前に、役員会の空気は一変した。
議論の末、北浜共立銀行は、満場一致でTOBへの反対を決定し、北急電鉄に対する全面的かつ強力な支援を公にすることを決議した。
「ありがとうございます、専務。これで、KKBは一つの意志のもと、北急の危機に立ち向かうことができます」
頭取はそう言って、ホログラム越しに深々と頭を下げた。総裁は、安堵の表情を浮かべ、御波は小さく静かにガッツポーズをした。
個室の窓の外、列車は静かに夜の東海道を上っている。総裁の胸には、この戦いに勝利し、カオルの無実を証明し、そして2000万円を取り戻すという決意が、新たに刻まれていた。
「でも九州からまた東京へ、って、ほんと「水曜どうでしょう」のサイコロ旅みたい」
「「ケツが取れる夢見たんだよ!」ってなりそうであるが、案外まだそこまでひどくはないのう」
「そんなコト言ってるとまた東京から北海道に行くはめになるわよ」
「それはノーサンキューであるのだ」




