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真犯人はいずこ

 カオルの身柄を裁判所経由で拘置所から取り戻し、みんなはいつも集まる海老名高校の鉄研部室に戻っていた。その間、マスコミが執拗に追いかけてテレビ中継していた。それに『ニュース系YouTuber』までもが『ITバイトテロの容疑者』カオルの保釈のシーンを撮ろうと集まった。テレビではカオルの鉄道会社のダイヤ構築からアプリ開発までやっていた非常識なバイトの実態から、カオルが小学の卒業文集に書いた小田急複々線化後のダイヤ案の話まで徹底的に暴かれたらしい。カオルは激怒していたが、それは今の世の中で避けようのないよくあることだと総裁が諭した。こういう犯罪では容疑者は推定無罪のはずだが、相も変わらずそうはならない社会的制裁という現実がある。


 もうこの6人は卒業しているのだが鉄研は今も続いていて、彼女たちOGのたまり場にもなっている。ただ部屋はかつて使っていたあのトイレの脇の狭いジメッとした部屋ではなく、かつての教室である。学生数が少なく教室が余っているのを例によって総裁がその悪知恵でぶんどったのだ。そのおかげで鉄研の資産であるこれまでつくったモジュールジオラマなどを整理して保管するスペースがある。鉄道模型はTMS、Tetsudo・Mokei・SyumiをTime・Space・Moneyと言われることもある。時間と場所と資金が同時になければなかなか出来ない。でも総裁はここで場所を手に入れている。あとは時間とお金である。

「真犯人、誰だろう」

 疑問が浮かぶ。

「あのマイクロSDは論理的にセキュリティ保護されていて、その上でロッカーにしまってある。ロッカーからの持ち出しはデジタル記録簿で管理され、持ち出しには管理権限を持つものの生体認証が必要なんだよなあ」

 カオルはそう言ってカルピスウォーターを飲んだ。

「警察はそれにカオルくんをみつけたのか」

 総裁がそう聞く。

「そう。ぼくも管理権限を持ってる。ぼくが持ち出しを記録して持ち出したことになってるんだけど、第一の問題はその生体認証の時間、その部屋にいなかったんだよね」

「ええっ」

 みんな驚いた。

「なんと、アリバイがあったのか」

「そのとき自販機のある給湯室に行ってたんだよね。そこで北急庶務課の鈴音さんと話しこんで。それが最近はやりのVTuberの話ですっかりもりあがっちゃって。都合30分ほど。それで係長さんに『ほどほどにしなよー』ってたしなめられた。てへ。でも持ち出し操作のタイムスタンプはその30分のなかなんだ。生体認証を使ったセキュリティドアを通らないとその端末のある北急データHQルームには入れない。だからたぶんそのセキュリティドアの入退室ログと矛盾すると思うんだけどなあ」

 カオルのそんな話にみんなあきれている。

「もしそうなら、その入退室ログ見れば、実際持ち出した真犯人もわかっちゃうんじゃない?」

「そうだけど……なんでこんな簡単な矛盾に刑事さんたちが気づかなかったんだろう」

「うーん」

 そのときだった。

「あ、いた!」

 キャリアスタイルのスーツの小柄な女性が来た。

「竹警部!! なんでここに!!」

「あなたたち、いるかなと思って。海老名署にたまたま用事があって、そしたらあなたたち高校にいるんじゃないかなって聞いて。私たちもこれですごく酷いことになってるのよ。誤認逮捕もいいとこなのに。なんでこうなっちゃったんだって。神奈川県警も警視庁も今それで後の処理どうするかすごくもめてて」

 竹警部は警視庁サイバー犯罪センター主任刑事である。

「真犯人は? 警察はどう考えてるんです?」

「それが、生体認証ドアのログが削除されてるの。今修復作業してる。今時ログ削除で逃げられるわけないのにね。修復できちゃうからわずかな時間稼ぎにしかならない」

「とはいっても時間かかることはかかるんだよなー。あのログ、ログにしてはわりと重たいデータだし」

 カオルが息を吐く。

「でもそのログ削除のできるものもまた容疑者になるわね」

「容疑者は絞られるよ。データHQに入室許可のある人間、さらにログの捜査権限を持つ者に限られる」

「外部からの侵入は? ハッカー集団とか」

 ツバメが言う。

「ちょっと、誰が組んだセキュリティだと思ってんの?」

 カオルはちょっと不愉快そうに声を上げた。組んだのはカオルだ。

「そうよね、それだからこんなに疑われちゃったんだよね。ひどいっ」

「確かにヒドイ」


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