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暗号の解読

 記者会見を終え、総裁、御波、頭取の三人は、カオル、詩音、ツバメ、華子と合流し、今回の事件の最大の謎の一つであるEHR-400Xについて話し合っていた。場所は、いつもの海老名高校鉄研部室、といきたいが、時間がないのでVRチャットで作ったバーチャル第2部室である。


「EHR-400X……どこを探しても、試験車両はおろか、計画の具体的な情報さえ出てこない」

 カオルが何台ものモニターを前に唸る。


「国交省が中止を勧告するほどの計画なのに、その実態が全く不明瞭とは、あまりにも不自然ですわ」

 詩音が困った顔で言う。

「周遊列車事業部とは別の開発チームがあるらしいんだけど、樋田社長も教えてくれないんだ。実車試験もしてたっていうけど、その車両がどこにいるかもわからない」

「そんな。試験列車を実在してるのに隠すなんてできるわけがない。どっかで人の目に触れているはずであろう」

「それがどうにも。信じられないけど」

「でも謎が増えて関係人物もどんどん増えておる。これ、ちゃんと収束するであろうか」

「北急の先行きとともに心配ですね」


「そこで、善さんが生前残したデータの中に、何かヒントがないか調べてみたのだ」

 総裁がそう言うと、カオルが立ち上がって一つのタブレットを差し出した。

 

「これだよ、総裁。善さんが生前、趣味で撮っていたらしい動画ファイル。フォルダ名は『懐かしの鉄道たちへ』。僕も適当に作ったフォルダだと思って見てなかったんだけど、たぶん善さんが僕らの共有クラウドにこっそり入れてたみたいだ」


「ふむり」

 総裁が再生ボタンを押すと、画面には古いビデオカメラで撮られたと思しき、ピントも甘く手ブレの多い映像が流れ始めた。


 そこには、北急の長距離列車『あまつかぜ』の試運転の様子や、山梨のリニアモーターカー試験線の風景、そしてなぜか、宮崎県にある古い高架の鉄道施設の映像が映し出されていた。


「これ……これもリニア実験線の跡地では?」

 御波が食い入るように画面を見る。


「宮崎県の日向ひゅうがにある、かつてのリニアモーターカー試験線ですね。今は廃止されて、太陽光発電施設や高速鉄道の部品の試験場になっていると聞きます」

 詩音が知識を披露する。


 動画は、その高架下をゆっくりと進む映像だった。そして、突然、善さんの声がかすかに聞こえた。


善さんの声「……ここが、今のワシらの心臓じゃ。樋田会長がな、新しい『夢の箱』を作ろうとしとる。……EのHとRの400。この場所に肝心要が隠れとる……」


 その言葉とともに、カメラは高架下のコンクリートの壁の一点をズームアップした。そこには、誰かが落書きのように『EHR-400X』と、小さく書き込んでいるのが見えた。


「心臓……夢の箱……EHR-400X。 善さんは、この宮崎の廃線跡に、北急の次世代技術の核心があると申しておったのか」

 総裁が口にする。


「宮崎のリニア実験線、あれはかつて国鉄が高速鉄道技術を追求した場所。北急がそこで何かを極秘裏に開発していた、あるいはデータを取得していた可能性があるわ」

御波が推理を深める。


「そして、EHR-400Xのデータがそこにあるとしたら、東郷弁護士もそれを狙っているはずですわ!」

 詩音も緊張する。


「よし! この状況で立ち止まっている暇はない。頭取、ワタクシたちは宮崎に赴くのだ!」

 総裁は頭取に目を向ける。


「ええ、その通りね。善さんが残したメッセージは、私たちへの最後の助言よ。グローバルワークキャピタルと東郷が狙う『情報』の核心は、札幌ではなく、この宮崎にある。日本最南端の鉄道の歴史が、北急の未来を握っている」

 頭取は即座に決断した。


「宮崎へ飛行機で飛びます! 今から羽田経由で向かえば、夕方の便に間に合います」

 御波がすぐに航空券の手配に取り掛かった。


「カオルくん、ワタクシたちが宮崎にいる間、東京での情報収集と善さんのアカウントの追跡、それにあの山城という技術顧問の動向も探るのだ!」

 総裁がカオルに指示を出す。


「わかった。絶対、真犯人を突き止めてみせる!」


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