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大阪決戦

「総裁、起きてください! 夜が明けますよ」


 御波の声で、総裁はハッと目を覚ました。下げたカーテンの隙間から朝日が差し込み、オレンジ色に染まった田園風景が見えていた。列車は既に滋賀県を通過し、京都市内へと向かっているようだ。


「う、うむ……。御波くん、ワタクシは……」

 総裁はまだ夢と現実の境目にいるようで、少しぼんやりとしている。


「よく眠れましたか? 頭取もまだ眠っているようです」

 御波は身支度を整えながら、総裁を心配そうに見つめる。


「夢を見ていた……弟の夢を」

 総裁は、夢の内容を御波に話すことはできなかったが、その言葉から得た力が、全身に満ちているのを感じた。

「御波くんは眠ったのか?」

「なんか昨日のデラックス日本海で函館を出てから昼寝したせいか、眠れなかったんですよ」


「それで夜の間ワタクシと頭取をずっと見ていてくれたのか」

 御波は頷く。


「さあ、総裁。顔洗ってシャキッとしてください。大阪はもうすぐですよ。役員会は今日の午後。東郷徹郎の企みを阻止する戦いです!」


 御波の言葉に、総裁は大きく頷いた。


「さふであるの。朝はよき一日のカタパルトでありルーティン。しっかりすると一日が有意義になる。そしてすべての道は洗面所に通じるのだ」


「何また言ってるんですか……」

 御波が呆れる。


 総裁は席を立ち戦闘態勢に入った。


 列車は京都駅に滑り込み、そして最終目的地、大阪へと向かっていく。



 定刻通り「オーロラ白鳥」大阪駅に到着し、頭取、総裁、御波の三人は急ぎ足で北浜共立銀行本店へと向かった。役員会は昼過ぎ、13時に設定されている。


「役員会は頭取が不在の間に招集された。敵側の狙いは、頭取が大阪を動けない状況を作り出し、北急への支援を断念させることでしょう」

 御波が緊張した面持ちで言う。


 KKB本店ビルのエントランスを抜け、頭取室へと向かうエレベーターの中で、頭取は総裁と 御波に向き直った。


「東郷徹郎は、私が札幌へ向かった隙を突いてきた。この役員会で、北急へのTOB賛成論が再び勢いを増すのは間違いないわ。特に、北急の未来に対する『懸念』を突きつけてくるはず」


 会議室に入ると、そこには既に専務をはじめとする役員たちが集まっていた。彼らの視線は、長旅の疲れをわずかに滲ませながらも、鋭い眼光を放つ頭取に集中する。


「山本頭取。ご多忙の中、お戻りいただき感謝します」

 専務の言葉は丁寧だが、その声には皮肉めいた響きがある。


「早速ですが、北急電鉄へのTOBに関する弊社の最終的な対応について、再度議論させていただきたい。特に、頭取が前回反対の根拠とされた『北急の未来への期待』ですが、これに重大な懸念材料が発生しました」


 専務はそう言って、プロジェクターに一枚の資料を映し出した。それは国土交通省の公文書らしきものだった。


「北急電鉄が推進する超高速鉄道開発計画EHR-400X、技術的・財政的リスクを理由に国土交通省として計画中止を強く勧告」


 その一文は、会議室に重い沈黙をもたらした。

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