食堂車での夕餉
「オーロラ白鳥」の食堂車は、「デラックス日本海」にも劣らない本格的なサービスを提供していた。三人が案内されたテーブルには、既に予約していた夕食のメニューが置かれている。
「すごい! 『北海道・北陸・京阪美食紀行』とありますわ」
御波がメニューのタイトルを読み上げる。
「ええ。この列車は函館から大阪までを縦断するから、その沿線の名産品を活かした料理が提供されるのよ。北急周遊列車事業部の力の入れようがわかるわね」
頭取は感心した様子だ。
「さふであります! これぞ、移動するレストランともいうべき晩餐であります!」
総裁は目を輝かせている。
「しかしこんなときにゼータクしていいのかなあ」
「むしろこういう時だからこそ食にはこだわるべきと思うぞ」
「総裁食い意地もすごいからなあ」
御波が呆れる。
「兵站確保は作戦の要諦ぞ」
「はいはい。意味なく軍事用語使わないの」
頭取も笑っている。
テーブルに運ばれてきたのは、北海道の新鮮な魚介と、日本海沿岸の山の幸を贅沢に使ったコース料理だった。
オホーツク産帆立のカルパッチョ
函館で水揚げされた新鮮な帆立を使用し、特製ソースで仕上げた一品。北海道産のハーブを添えて。
津軽海峡マグロと北陸鰤の握り寿司(二貫ずつ)
青森県大間産のマグロ、富山湾産の脂の乗った鰤を厳選。北陸地方の醤油でいただく。
秋田県産ローストビーフ
A5ランクの秋田牛を低温でじっくりとロースト。地元産の野菜を添えたメインディッシュ。
福井名産越前ガニの味噌汁
濃厚なカニの旨味が凝縮された、列車で楽しめる贅沢な味噌汁。
京都宇治抹茶のムースと小田原みかんのアイス添え
大阪に近い京都の抹茶と、北急沿線の小田原みかんを使用したデザート。
「このお寿司、信じられないほど美味しい……列車の中でこんなに新鮮な魚介がいただけるとは」
御波は感動しきりだ。
「これだけの食材を、鮮度を保ったまま長距離輸送し、車内に搬入し調理して提供するのは、並大抵の努力ではないわね。まさに北急の執念よ」
頭取も満足げに頷く。
「うむ。これがワタクシたちの戦う原動力になるのだ!」
総裁はコース料理を堪能し、活力を満たした。
列車はなおも大阪に向けてひた走っている。
そしてあたりは暗くなっていた。
夜が、やってきた。




