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特急「オーロラ白鳥」

 函館駅の長くカーブを描くホームには、白い車体に窓廻りがメタルヴァイオレットに彩られた特急列車が入線していた。それが特急「オーロラ白鳥」である。


 使用されているのは、北急電鉄が保有する681系をベースとした681系7000番台。50Hz対応の改良工事を受けている。編成のほとんどが座席車で、そのうえ食堂車も連結されている往年の長距離特急仕様だ。


 食堂車の厨房部分の壁に大きなオーロラ白鳥のロゴが鮮やかに描かれている。そこで記念撮影をしている人も多い。


「いくらなんでも時代錯誤めいてませんか、これ」


 御波が目を丸くする。たしかにこの時代に長距離座席列車は珍しい。


「この列車は長距離の景色を楽しみながら、食事と座席で移動できる密かな人気列車。敵もまさか、こんな目立つ列車で私が移動するとは思わないでしょう」


 たしかに鉄道ファンらしき人々が何人も荷物を手に乗り込んでいく。ただそれだけでなく、秋田ー新潟間の効率的な移動のための乗客も多いようだ。たしかにその区間は今JR東日本の列車だと早朝の移動が系統分断で困難なのだ。


 三人が乗り込んだのは、2人掛けと1人掛けの広々とした座席が並ぶグリーン車である。窓から北海道と日本海岸の雄大な景色を存分に楽しめる設計だ。


 定刻通り、列車は函館を出発した。車窓には、雪を抱いた山々や、広大な雪原が広がっている。


「また違った緊張感がありますわね」


「うむ。どこで敵が仕掛けてくるかわからぬ。とはいえ移動し続ける限り敵の襲撃は困難。この時間を使ってまずは情報整理なのだ」


 頭取はカオルからの詳細な報告書を総裁と御波に見せた。


「善さんのアカウントを使ってアクセスされた情報、やはり北急の次世代高速鉄道開発計画のデータだったわ。東郷はこれを使い、北急の株価を暴落させ、安値で買い叩くつもりよ」


「まさか、TOBが情報戦のための目眩ましだったとは……」


「ええ。定款変更の役員会阻止も、その時間稼ぎ。私たちが大阪にいない間に、北急の危機を決定的にしようとしている」


 頭取は、そう言うと、車窓の流れる景色を見つめた。


「でも、私たちがこの列車に乗っている限り、東郷の思い通りにはさせない。この長い旅路の中で、必ず彼らの次なる一手を見つけ出し、阻止してやるわ」


 列車は力強いモーター音を響かせながら、北海道の大地を南下し青函トンネルに向かっていく。


「まずは、腹ごしらえなのだ。この列車の食堂車もまた格別だと聞く」


 総裁がそう言って立ち上がると、頭取と御波もそれに続いた。食堂車で彼らは束の間の休息と、決戦に向けた活力を得ようとしていた。



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