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金沢の夜、迫る影

 列車が金沢駅のホームに滑り込む。深夜ではあるが、北陸新幹線が開業してからは人の流れが変わったとはいえ、やはり北陸の主要駅である金沢は、夜でもそれなりに活気があった。


 頭取は個室に戻る前に、ロビーカーの窓からホームの様子を慎重にうかがった。総裁と御波も、彼女を守るように両脇に立って警戒を強める。


「ここから乗り込んでくる可能性もあるわ。特に、個室の予約状況は筒抜けになっているはず」

「さふであります」


 ホームには数人の乗客が乗り込んできた。大きな旅行鞄を持った外国人観光客や、出張帰りらしきサラリーマン風の男性たち。その中に、特に目立つ不審な人物は見当たらない。


 そのとき、ホームの一番端、列車の最後尾付近から、黒いフードを深く被った人物がこちらへ向かって歩いてくるのが見えた。フードの奥の顔はよく見えないが、その足取りは観光客や出張客とは明らかに異なり、何かを探るような、直線的で迷いのない動きだった。


「総裁、あの人物……」

 御波が、かすかに震える声で総裁に囁く。


「うむ。ワタクシもそう思う。あまりにも周囲を警戒しすぎておる」


 その人物は、寝台車の窓を一つ一つ覗き込むようにして、こちらへ近づいてくる。そして、ロビーカーの大きな窓の前まで来ると、一度立ち止まった。フードの奥から、暗闇の中にいる総裁たちに向けて、まるで視線が投げかけられているような錯覚に陥る。


「……どうします、頭取?」

「刺激しないように。私たちだと悟られてはまずいわ」


 頭取は静かに身をかがめ、総裁たちにも手で合図を送る。三人はロビーカーのソファの陰に身を隠し、息を潜めた。


 不審者はそのまま、ロビーカーのドアに手をかけた。


「ドアが開きます!」

 総裁が短く警告する。


 しかし、その瞬間、列車のドアが閉まるチャイムが鳴った。


「まもなく発車いたします。扉にご注意ください」


 チャイムの音と同時に、不審者は諦めたように手を離し、急ぎ足で来た方向へ戻っていく。

 車掌の機関車へ発車の合図を送る無線の声が聞こえる。。


 列車が動き出し、金沢駅のホームが後方へ流れていく。


「助かった……まるで神風であります」

「運が味方したようね」


 頭取はホッと息をついたが、表情は依然として険しい。


「あの人物は、確実に私たちを探していた。東郷の手の者でしょう」

「それにしても、ずいぶんと大胆な行動でありますな。夜行列車とはいえ、駅のホームで人目もはばからず」

「それだけ、彼らが急いでいるということよ。私たちが札幌に着く前に、私を排除するか、あるいは北急の情報を手に入れるのを阻止しようとしている」


 総裁は拳を握りしめた。

「絶対ゆるさん」


 三人は個室に戻り、今後の作戦を練り直すことにした。列車のジョイント音が、夜の日本海沿いを走る彼らの決意を刻んでいるようだった。


 札幌までの道のりは、まだ長い。


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