「デラックス日本海」食堂車
三人が向かった食堂車は、テーブルクロスがかけられ、花が飾られた本格的なレストランだった。落ち着いた内装は、まるで動く高級ホテルのようだ。
「昨日の『明星』のセルフ食堂とは大違いですわね」
御波が目を輝かせる。
「この食堂車も、北急が沿線の食材を生かしたメニューを提供することで、一種の地域貢献を目指しているのよ。今夜は、北陸の海の幸を使ったコース料理を頼んでみたわ」
頭取はメニューを見ながら微笑む。
「おお、さすが頭取閣下、抜かりありませぬ!」
運ばれてきた料理は、地元の新鮮な魚介を使ったもので、三人はしばし会話を忘れ、食事を楽しんだ。
「美味しい……こんなに豪華な料理を列車の中でいただけるとは。知識として走っていても実際となるとまた格別であります」
総裁は感動している。
「非日常が、最高のスパイスですね」
御波も満面の笑みだ。
食事を終え、列車は金沢に、その先の札幌に向けて走り続ける。
食べ終わり食堂車を出た三人は、食後のコーヒーを飲むため、同じ車両に併設されたロビーカーへと移動した。ロビーカーは天井まで伸びる大きな窓が特徴で、夜の帳が降りた日本海の街明かりが、車窓を流れていく。
椅子はゆったりとしたソファで、乗客たちが静かに会話を楽しんだり、読書をしたりしている。
「ここで少し、今後の作戦について詰めましょうか」
頭取が声を潜める。
「札幌の件、善さんのアカウントの悪用。そして東郷徹郎の影。すべては北急が持つ『情報』に集約されている。しかし、彼らが狙う情報とは、一体何なのか」
「札幌のデータセンターの事件と善さんのアカウントの件、カオルくんの報告では、どうやら東郷の指示を受けた何者かが、善さんのアカウントを不正に利用し、北急の特定のデータにアクセスしようとしていたようです。そのために、システムの知識を持つメンテナンス会社の社員が邪魔になり、排除された可能性が…」
御波が、カオルから送られてきた情報を頭取に伝える。
「東郷は、北急の解体を企てていたリゾートファンドの顧問弁護士だった。彼の目的は、北急の土地や資産の売却益だったはず。だが、今は情報のようです」
「ええ。北急は、近年、次世代の鉄道技術や、沿線の土地開発に関する機密情報を多数保有している。もし、それが東郷の手に渡れば……」
総裁の表情が険しくなる。
そのとき、列車が速度を緩め始めた。
「まもなく、金沢に到着です」
「金沢で追っ手の動きがないか、警戒しましょう。東郷は私たちが札幌へ向かっていることを知っているかもしれないわ」
頭取はそう言って、窓の外に目を向けた。プラットホームの明かりが近づいてくる。総裁と御波は、再び緊張感を高め、戦闘態勢に入った。




