デラックス日本海
大阪駅に滑り込んできた「デラックス日本海」は、寝台快速「明星」とはまた趣の異なる列車だった。往年のブルートレインから受け継いだ伝統の深い青を基調とした車体に、金色のラインが上品に光る。老朽化したとされる24系25形客車だが北急の技術と熱意で今も現役である。また改造で各個室へのコンセントや車内Wi-Fiが追加されている。テールサインもかつての「日本海」のものにオマージュした意匠だ。ヘッドマークに至っては『日本海』そのままを使っている。
総裁たちが乗り込んだのは、4人用個室寝台「日本海カルテット」である。
「おお、往年の開放2段B寝台に扉をつけた簡易個室ではあるがゆったりしておる。しかも寝具もある!」
総裁が感嘆の声を上げる。
「ええ、簡易寝台の『明星』とは格が違いますね。これならゆっくり休めそう」
御波も満足そうだ。頭取は静かに窓側の席に座り、景色を眺めている。
「北急は、採算度外視で豪華な長距離列車をよく作るわね。樋田会長の趣味かしら」
「それもありますが、北急は元々長距離寝台列車の復活運行を企画して周遊列車ブラウンコーストエクスプレスを運転し、そのなかで地方振興事業を展開、その一環で観光列車事業を始めたのです。その中で生まれたのが『あまつかぜ』を筆頭とした長距離列車群、そしてこの寝台特急なのであります」
総裁が説明する。
「経営の効率だけを考えたら、真っ先に廃止されるでしょうね。JRさんもなかなかやりたがらない。経営の定石から外れに外れている。だからこそ、グローバルワークキャピタルに狙われているのかもしれないわ」
簡易個室ではあるが乗客用コンセントや読書灯などが備え付けられており、快適な空間が確保されている。発車後、車掌が検札に来て、三人は改めて札幌までの長い旅路を実感した。
列車は夕暮れの東海道本線を西へ向かい、やがて日本海側の福井県へと進路を取る。車窓には、日が沈みかけ、山々がシルエットとなって浮かび上がっていた。
「金沢到着までにはまだ時間がある。夕食にしましょう」
頭取が立ち上がり、二人に声をかける。
「食堂車、もちろんありますよね!」
「ええ。この列車には本格的な食堂車が連結されているわ。これも北急周遊列車事業部のこだわりでしょうね」




