寝台快速「明星」食堂車
「こうして廊下が長いのは寝台列車らしいのう」
総裁が先導しながら言う。
「乗ったことあるの? あなたの歳で」
「うぐう」
「総裁、ぜったい昭和のおっさんが総裁のガワ被ってるのよ。背中にチャックがあるのよきっと!」
「中の人などいないのである!」
頭取は二人の様子に笑っている。
「ほんとあなたたち、仲良しね。見てて笑っちゃうほどに」
「恐縮なり」
「総裁また恐縮がズレてる」
「うぐう。次が座席車、その次がラウンジでその次が食堂車なり」
「車内デッキにピクトグラムの案内がある通りね」
座席車にはいくつか空席があったがラウンジがその代わり満席だった。座席客がラウンジに移動していたのだろう。その次が食堂車である。
「貫通扉の窓に『食堂』って書いてあるのがなんだか新鮮」
御波がそういう。
食堂車はカフェテリアスタイルで椅子はそれほど大きくなく、テーブルもいいデザインだが豪華というほどではない。カジュアルな感じの車内である。
「え、明星ってインスタントラーメンなの?」
御波がそう呟く。
「さふなり。この食堂車では冷凍おかずセットやインスタント麺各種とレンジで温めるご飯、冷凍麺を楽しめる半セルフサービスの食堂車なり」
「そのせいか、メニューがそれほど高くない。観光地価格かと思って覚悟してたのに」
「こうして人件費を大幅に節約してでも夜間の供食を諦めなかったのが北急イズムであるのだ」
「真っ先に赤字でカットされちゃうわね。食事」
「しかし実例はある。近鉄名阪特急「ひのとり」にはセルフサービスの自販機コーナーが有る。焙煎コーヒーにお茶菓子に記念品まで自販機で買える」
「昔スナックカーとかやってた伝統を残したかったのかもね。名阪間はそこそこ時間かかるのでいいサービスだと思ってた」
頭取も言う。
「さふなり。では明星チャルメラを快速明星の中で所望するのだ」
「ほかにもやきそばの「一平ちゃん」高級麺の「中華三昧」にヘルシーな「ロカボNOODLES」もあるのね。これなら飽きなくて済みそう」
「熱湯と電子レンジを提供するだけなので厨房オペレーションもシンプルになる」
「やすいだけじゃなくて明星の最高峰シリーズ「麺神」もある!」
「なにげにこのラインナップ、車内では高い方から売り切れる傾向があるらしい。明星食品さんも走るショールームとの触れ込みで力を入れておる。新商品を先にここで展開したりもしておるとのこと」
「なるほど、これなら車内だけの収益で一喜一憂しなくてもいいわね」
「ましてご飯が農政の失敗で価格不安定な現在、こういう麺主体のスタイルはじつにニーズに合う」
「そうですね!」
「では、いただきます、なのである」
3人はそれぞれにカップ麺を前に礼をして食べ始める。
「美味しい! 予想外に! カップ麺だから仕方ないなと思ってたのに」
「これも流れる車窓を見ながらの食堂車の効用であるのだ」
「温かいスープが胃を温めてくれる。すごく落ち着くわ」
頭取もそういう。
「食事っていいものね」
「しみじみワタクシもそう思うのだ」
「食べ終わったら、すこし今回のTOBの話しましょう」
「えっ、こんなところで? セキュリティは大丈夫なんですか」
御波が驚く。
「そこは大丈夫。本当の核心はまた別に話すわ」




