小田原駅
北急線からJR線に乗り換えるコンコースは無人かと思ったら、大荷物の旅行客が何人もいる。しかも半数以上が外国人である。
「なるほど、関東観光の〆を小田原にして、関西への夜の移動を兼ねて寝台快速の夜を楽しむつもりなのか。なんと密度の高い楽しみ方」
「インバウンド、まだ旺盛な需要があるのね。これ思わぬ実乗調査になっちゃうわ」
「これで追っ手を気にせずいられたら最高の旅なのでありますが」
「そうよね」
そんなことを話しながら東海道線ホームに降りる。ホームの目の前を長い編成のコンテナ貨物列車が走り去る。その機関車のモーター音に続きコンテナ車の特徴的なジョイント音が長く鳴り響く。
「夜の東海道は貨物の大動脈でありますのう」
「その合間に夜行列車を走らせるのはなかなか大変ね」
ホームに案内放送がかかった。
「寝台快速「明星」大阪行きが到着します。この列車は全席指定です。指定券をお持ちの他の方はご乗車になれません。この列車、本日は全席満席です。当駅からの指定券の販売は終了しております。お見送りの方は車内には入らず、ホームからのお見送りをお願いします」
東京方から3+1の配置のヘッドランプが近づいてくる。それは白い車体にぶどう色と青のブロックスタイル配色の列車だった。
ぶどう色と青色はかつての客車列車に使われた色である。それに鮮やかに白文字の号車番号と簡易寝台や個室、座席のマークが浮かんでいる。
車両として255系をベースにしたが、形式はH255系7000番台を名乗る。先頭車は座席車で天窓が開いている。続いて簡易寝台車、個室車、座席車、ラウンジ車、簡易食堂車、簡易寝台車、簡易寝台車、座席車と連なる堂々の9両編成である。
ドアが開くと、個室車に3人は乗った。この寝台快速、通路からの個室のドアが楕円窓だったりと意匠が凝っている。
「熱海、沼津、静岡、そこから岐阜、米原、大津、京都、新大阪、大阪と止まるのね」
「往年の寝台急行「銀河」そっくりです」
「もともとこの列車、計画名がEGX、イースト・銀河・Xという計画であったという」
「まるでJR西日本のWEST銀河への対抗策みたい」
「その要素はある。極秘裏にJR東日本が計画したもののあれやこれやで頓挫しているところを北急電鉄周遊列車事業部が引き継いでJR貨物やJR東海・西日本と話をつけて225系を改造して運行を開始したという経緯らしい。これまで東海道を跋扈する格安高速バスキラーとして期待の列車であった」
「北急さん、そういうのがやたら多いですね」
「そういうポジションなのだ。それは我が乙女のたしなみ「テツ道」とも合致する」
「いまいちよくわかんない」
「ぐぬう」
総裁はやり込められている。
「でも高速バスは私みたいな歳だとつらいから、こういう列車はありがたいわ。本当に横になって移動できるし、気分転換に車内を歩ける」
頭取はそう言いながら個室のカーテンを閉めた。僅かな荷物ではあったが部屋にセットして一晩の城とする。
「「水曜どうでしょう」で言う「ここをキャンプ地とする!」みたい」
「うむ。たしかにその趣であるのう」
「あ、そうだ、夕餉!」
「では食堂車へまいろう。あったかい明星チャルメラが待っておるぞ」
「えっ、だから明星なの?」
頭取は驚く。
「そういうことらしい」




