2.神様がいました
この人、本当に大丈夫なのかとクロエは思った。なんでも話を聞けばレベル1の冒険者。身なりも汚い。赤髪ロングというのもこれまた地雷臭がする。ただ、このクエスト自力で攻略するのは少し骨が折れる。できれば安全を考慮して二人以上と思ったが、どうしたものか。周りを見渡すとほかにこの話を受けそうな人はいない。仕方がない。この怪しげな女性と行こう。クロエは結論に達した。
ギルドには様々なクエストがある。例えば、ダンジョン攻略のような本格的なものから、お使いクエストと呼ばれる住民からの雑務等を請け負うパターンもある。その中でも今回、クロエが受注したクエストは討伐クエストであり、その名のとおり特定のモンスターを討伐することや生息地域から追い払うことでクリアとなり、一定の報酬がもらえる。その難易度はモンスターの強さによって天と地ほどの差があり、スライム討伐のような比較的安全なクエストからドラゴン討伐のような高難易度のものまである。
「ゴブリン5体を討伐して帰ってくるだけのクエストね」
ティナはクエストの指示書を眺めた。わりと難易度高いクエストじゃない、ただ、ゴブリンってなんか苦手だから、どうせならドラゴンとかがよかったなと思う。
「5体ということはリーダー個体がいると思います。その場合は、レベル3のクエストの中では最難関クラスですね」
「うーん、ところでクロエの職業は?」
いきなり呼び捨てである。
「戦士です。少しは魔法も使いますけど」
「魔法戦士ってやつね。じゃあ、私は後衛やるから前衛は任せたわ」
「それは良いんですけど後衛ってことは、ティナさんは魔法使いとかですか?」
「あ、ティナでいいわよ」
「じゃあ、ティナって呼ぶわ」
「ありがとう。一応、このクエストが終わるまでは仲間だからね」
「それでティナの職業はなんなの?」
「うーん、特にないわ。なんでもできるし」
クロエはこいつ大丈夫なのかという目でティナを見るが、ティナは自信満々であった。一抹どころでない不安を抱えてクロエはクエストの準備にとりかかった。
買い物をしているクロエを尻目にティナは暇そうだった。お金がないからクエストを受けるのに、なぜそのクエスト攻略のためにお金を使わないといけないのか。そんなことを思うも、ただお金がないだけである。本来なら、敵がわかっているのだからクロエのように万全の備えをするのが当たり前だ。最悪、死ぬ可能性もあるのが討伐クエストなのだ。
「ティナは買わないの?」
「うーん、パス」
「別にいいけど大丈夫なの?」
「まあゴブリンだし大丈夫でしょ!」
この人はなんでレベル1なのにこんなに自信満々なのだろうかとクロエは思う。ただ、もういまさら、どうにもならない。恨むならあの時、選んだ自分を恨もうと決意を新たにした。
準備が整ったクロエとそうでないティナはクエストに出発した。場所は草原。クエストの内容は最近、往来で通行人を襲うゴブリンのグループの討伐。期限は日没までだ。ただ、草原と言っても広い。すぐ見つかるかと思ったが一時間歩くもゴブリンに遭遇しない。
「全然、出てこないじゃない!」
毒づくティナ。
「私の索敵スキルでもヒットしないからこの辺りにはいないと思うわ」
「あら?そんな便利なスキル持ってたの?」
「それほどレベルが高くないから広範囲とはまではいかないけどね」
「じゃあ結局、歩いて探さないといけないのね」
すごく嫌がるティナ。できれば歩きたくない。もっとサクっと出てきてサクっと倒せるものだと思っていたのにとんだ失態。もし、このまま、今日一日かけて見つからなかったら今日、泊まるところがない。できればもうテントは嫌。あと水浴びもしたくない、冷たいから、などと考えているが全く出会える気配はない。
「そろそろお昼にしましょうか」
クロエの提案でお昼にすることになった。二人は大きな木の下に腰掛けた。
「ほんと、大きな木ね」
ティナは木を見上げる。木の頂点が見えない。いったい何メートルあるのか。幹もものすごく太い。なんて木何だろうと思うがわかりそうもなかった。木の影の涼しく、いい感じに風がなびいていた。あぁいい気分だわなどと自分を誤魔化すティナ。
「ティナは食べないの?」
隣で美味しそうにパンを食べるクロエ。
「持ってきてないからね」
嘘をつきました。本当はお金がなくて昼ご飯が買えなかったんです。と心の中で懺悔した。朝から何も食べていないので、今すぎになんでもいいから食べたい。
クロエは、もぞもぞとカバンの中から一切れのパンを取り出す。
「食べる?」
「あなたが神か!」
渡されたパンを大事に食べた。五臓六腑に染みわたる。昨日の夜以来の食事。これもすべてあのぼったくり宿屋が悪いがそんな悪魔のような宿屋とは違いクロエはクエストも連れて行ってくれるし、おまけにパンまでくれる。まさに神!このクエストだけは、本気を出そう。
「食べ終わったらゴブリン討伐するわよ!」
「え、急にどうしたの?手がかりでもあるの?」
「本気出すわ。即見つけて、即狩る」
その目は狩人の眼であった。急にやる気をだしたティナに困惑するクロエ。そして思う、そもそも、初めから本気を出せと。