【短編】小さな男の子のねがい
仕事が休みの日だというのに、美沙はワンルームの家でボーッとテレビを眺めていた。
「あっ」
時計を見るやいなや慌ててラジオの周波数を合わせる。
『っはっはっは カナコちゃん、面白い質問ありがとうございました〜ばいば〜い』
(ちょっと遅れたかぁ…)
ラジオからは優しそうな男性の声が聞こえる。
『この番組は子供たちが日頃感じている疑問や悩みをパーソナリティのおじちゃんに電話を繋げて聞いてみようという番組となっております。さて、続いての方、お名前を教えてください』
『しもたに ゆうたです。 はっさいです。』
『ゆうたくんこんにちは。おじちゃんに何を聞きたいのかな?』
『……』
『もしもーし?ゆうたくん?緊張してるのかな?』
『あの……しつもんかえてもいいですか』
『えっと、、お星様の質問はやめるのかな?』
『うん』
一瞬の間があったが、すぐにパーソナリティのおじちゃんが口を開いた。
『いいよ。おじちゃん、答えられないかもしれないけど、それでもいいかな?』
『いいよ』
『ありがとうー。それじゃあ、ゆうたくん、質問はなんですか?』
『どうして、パパと、ママは、ゆうたをおいて、おそらにあそびにいっちゃったんですか』
『……っ』
おじちゃんが言葉に詰まってるのが電波を通じて伝わってきた。
『……ゆうたくん。今、8才だったよね?そっかそっか……』
おじちゃんの声が少し震えてるのがわかる。
『ゆうたくん、パパとママに会いたいよね』
『うん。』
『ギューってしてもらいたいよね』
『…うん』
『おばあちゃんはね、ゆうたがおじいちゃんになったらまたあえるよっていうの。でも、おじいちゃんになるまでまてないの。パパとママにあいたい。』
『…そうだよねぇ……まだ8才だもんねぇ…グスッ』
おじちゃんは優しい声でゆうたくんの話を聞いていた。
『……ねぇ、ゆうたくん。
おじちゃんが昔飼ってたワンちゃんもお空に遊びに行っちゃったんだ。悲しくて、悲しくて、お母さんに聞いたの。そしたら、
ポチは少し先にお空に行って、おじちゃんを喜ばす準備をしているのよ。お気に入りの木の枝を集めて、さんぽコースにマーキングして、音のなるおもちゃを一生懸命集めてるの。お空の上でポチに会ったら目一杯遊べるように、沢山食べて体力をつけなさい。って』
『だからね、ゆうたくん。ゆうたくんのパパとママは今、ゆうたくんに会う準備をしているんだと思うよ。ゆうたくんに似合いそうな洋服を選んで、ふかふかのベッドを準備して、ゆうたくんの大好物を作って。その時、ゆうたくんはお話の種を持ってた方がいい。』
『たね?』
『そう。パパとママに会った時に、ゆうたくんがこれまで見たもの、聞いたもの、感じたものをたっくさんお話してあげるの。そしたらパパとママ、すっごい喜ぶと思うよ』
『ほんとに?』
『ほんとほんと。絶対喜ぶよ!だけど、その為には好き嫌いしないでご飯を食べて、いっぱい遊んで、いっぱいお勉強しないといけない。ゆうたくん頑張れるかな?』
『んー、、勉強はちょっといや、、』
『はっはっはっ 勉強いやかぁー笑 ちょっとずつでも頑張れないかな?』
『んー…お星さまならわかるよ』
『お星様!いいじゃない!元々の質問もお星様だったもんね?』
『パパとママにお星さまのなまえおしえてあげるの』
『そうだね、お空にいるからきっと沢山のお星様が見えるよ。そのお勉強は出来そうかな?』
『うん』
『じゃあまずはお空のお勉強を頑張ってみようか』
『うん!』
『それじゃあ、ゆうたくん、遊びも、お勉強も頑張ってください。今日はお電話ありがとうございました』
『ありがとうございましたぁ!』
『いやぁ、最後しんみりな感じになってしまいましたけど、、、ゆうたくんには是非頑張ってもらいたいですね。
っと、お時間になりましたので、今日はここまでですね、質問してくれた子供たち、ありがとうございました。それじゃあ、またね〜』
番組は終わり、軽快なCMが流れた。
(……たまには実家に帰ろうかな)
そう思う美沙だった。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
この作品が1作目となりました。
次回も読んでくれると有難いです。