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【完結】パーティに捨てられた泣き虫魔法使いは、ダンジョンの階層主に溺愛される  作者: 水都ミナト@11/14『解体嬢』コミックス1巻発売
第二部 パーティに捨てられた泣き虫魔法使いは、ダンジョンの階層主に溺愛される
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56. 防御魔法

「…というわけだ、思い出したか?」

「ああああ思い出しました…誠に申し訳ございませんでした…」


 ホムラにことの次第を説明されたエレインは、ベッドの上に両手をつき、頭を擦り付けるようにして頭を下げた。多大なる迷惑をかけてしまったことを知り、エレインは頭を上げることができない。


「ま、よく眠れたみたいだし、お咎めなしにしてやるよ」


 お怒りの言葉があるかと身構えていたが、ホムラは、「まったく、人の気も知らずに…」と首を鳴らしながらベッドから降りた。


「?ありがとう、ございます?」


 エレインはよく分からずに首を傾げるも、とりあえずホムラが怒っていないようなのでホッと胸を撫で下ろした。


「ご飯ですよー…って何でエレインがホムラ様のベッドにいるんです?」

「あ、アグニちゃん、おはよー」


 ちょうどその時、朝食を完成させたアグニが呼びに来てくれたので、エレインは顔を洗うべく洗面台に向かった。


「ふぁ…」

「おや、ホムラ様寝不足ですか?」


 アグニと共に食卓へ向かうホムラが大きな欠伸をすると、アグニが物珍しそうにホムラを見上げた。ホムラもアグニも基本的に睡眠は深い方なのだ。


「ん、ああ、ちょっとな…ふぁぁ」

「こないだリリスにもらったコーヒーでも淹れましょうか。美味しい淹れ方を教わったのですよ」

「お、いいね。頼むわ」


 ホムラは柔らかな笑みを浮かべると、アグニの頭にポンと手を置いた。アグニは誇らしげに胸を張りながら、張り切ってコーヒーの準備をしたのだった。



◇◇◇


「さて、と。何はともあれ、無事に光魔法を使えたわけだ。次はいつでも使えるように特訓だな」

「はいっ!」


 その日の夕暮れ時。間もなく日が落ちるということで、少し早いがエレインとホムラはボスの間での特訓を開始した。


「と言っても…何か浄化の対象があれば練習相手になるんだがな…アンデッドでも捕まえて連れてくるか?」

「ひぃぃ!それだけはやめてくださいい!」

「くくっ、冗談だよ。俺も今日は安眠したいしな」


 ホムラにそう言われたエレインは、不貞腐れつつも頬を染めた。添い寝のことはしばらくからかわれそうである。


「ま、とにかく実践あるのみだな。使ってみな」

「は、はい!」


 腕組みをして構えるホムラに促され、エレインは目を閉じて意識を集中し、昨日掴んだ感覚を呼び起こす。

 大切なもの、大切な人を思い描き、気持ちを高めていく。頭の中で祖母やアグニ、ドリューンがエレインに微笑みかける。

 そして、ホムラを思い浮かべた時ーーー


「〜〜っ!?」


 ドキンと心臓が跳ねて集中力を乱してしまった。と同時に、杖の先から弾けるように白い光が小さく花開いて散った。


「なんだァ?ちゃんと集中したか?途中まではいい感じに魔力が高まってたじゃねぇか」

「ち、ちょっと…今日はダメかもしれません…」


 エレインは気まずそうに杖を抱いて視線を逸らす。添い寝とはいえ、同じ布団で一夜を共にしたのだ、どうしても今日はホムラのことを意識してしまう。

 そっと自分の身体を抱きしめると、今朝のホムラの温もりがまだ、生々しく身体を包み込んでいるように錯覚する。


(ひぃぃっ!何考えてるの私…!)


 ハッと我に返ったエレインがブンブンと首を振って邪念を祓う様子を、ホムラは呆れた顔で眺めていた。


「それじゃあ、防御魔法でも試してみるか?」

「あ!いいですね!やってみたいです!」


 ホムラの提案にエレインは目を輝かせた。先日手記で呪文やコツは読み込んでいた。あとは実戦で使ってみたいと思っていたのだ。


「じゃあまずは何でもいいから壁張ってみろ」

「はいっ!よし…《水の壁(ウォーターウォール)》!」


 エレインは深く息を吸うと、自身の前方を半円で覆うように水の壁を生成した。ゴポゴポと気泡を発しながら水面が波打つ。綺麗な円を維持しようと力むが、力を込めるほどに水の壁は不恰好に姿を歪める。


「うぐぐ…」

「大丈夫かァ?そんな不安定な防壁で俺の攻撃が防げるのかよ」


 ホムラが野次を飛ばすが、力を込めれば込めるほど水が波打ち飛沫しぶきを飛ばす。


 この魔法の完成形は360度守備する水の防壁であるが、綺麗に整形できなければ頭から水を被ってしまうのは必至である。まずは前面を守る半円の水壁を綺麗に維持することが求められる。


「ったく、変に力が入り過ぎてんだよ」


 やれやれと息を吐きつつ、ホムラがエレインの背後に回り込んだ。そして両肩を持ち、グイッと親指を押し込んでエレインの背を逸らせた。


「あいたたっ!?」

「背中丸まりすぎだ」


 ボキッと骨が鳴る音がした気がするが、聞かなかったことにしよう。エレインはホムラに姿勢を正され、背筋をピンと伸ばした。何だか体内を循環する魔力がスムーズに流れる感覚を覚える。


「水魔法は門外漢だが、属性魔法を使う時のコツぐらいなら教えてやる」

「な、なんですか?」


 ホムラはエレインの耳元に囁きかけるように言葉を続ける。


(ひぇー!さっきから近過ぎない…!?)


 エレインの動揺が魔力を揺らし、激しく水の壁が脈打った。


「おら、イメージだ。火なら燃える闘志、滾る想い。水なら…そうだな、静かに波紋の広がる水面、ピンと張り詰める強い意志。むやみやたらと力を込めればいいってもんじゃねぇ。これは防御魔法だろ?自分や誰か他の奴を守るために使うもんだ」

「あ…」


 ホムラの言葉にエレインは目を見開いた。

 ホムラの言う通り、ただ魔力を注ぎ込めばいいというものではない。確か手記にも、『どんな窮地であれ、気持ちを落ち着かせて冷静に対処すべし』と記載されていた。


 防御魔法とは、誰かを傷つけるのではなく、自分や、大切な誰かを守るための魔法。


「…ようやく理解したようだな」


 エレインの雰囲気が変わったことを察知したホムラが、笑みを漏らす。


 と、ちょうどその時、玉座の裏からひょっこりアグニが顔を出した。


「どうですかー?順調ですかー?」

「お、アグニ。いいところに来たな」

「?」


 ホムラはちょいちょいとアグニを手招きし、アグニは首を傾げながらもホムラに駆け寄った。


「ちょっとエレインを攻撃してみてくれ」

「え?いいんですか?」

「えっ!?」


 ホムラの提案に、アグニは楽しそうに翼をぴくつかせ、エレインはギョッと目を見開いた。

 アグニはてててと走って距離を取ると、いつでも大丈夫だと言うように手を振った。


「ちょ、ちょっとホムラさん!?」

「よし、しっかり守ってくれよ」


 今、ホムラはエレインの背後にいる。エレインがうまくアグニの攻撃を防げなければ2人揃って丸焦げだ。

 エレインはどうにか動揺する気持ちを落ち着けて、アグニに集中する。未だ水の防壁は不安定に所々細波を立てている。


「いきますよー」


 アグニがすぅぅと深く息を吸い、勢いよく炎のブレスを吐き出した。


(うぅ…私が、ホムラさんを、守る…!)


 ごぽっと水壁の水量が増し、水が外界を遮断するように渦巻きながらエレインとホムラを包み込む。魔力が蜘蛛の巣のように巡り、水のドームを形作る。水面が安定したと同時に、アグニの吐き出したブレスが直撃した。


(ひぃぃ…!アグニちゃんちょっとは手加減してよね…!)


 エレインは予想以上の火力に腰が引けるが、グッと後ろからホムラが支えてくれる。肩越しに少しホムラを見やると、それに気づいたホムラと視線が絡む。ニッと笑みを浮かべられ、エレインの身体は僅かに熱を帯びた。慌てて視線を戻して魔法に集中する。


「けほっ、こんなもんですかね」


 ようやくアグニのブレスが収まったようだ。エレインはどうにか初めての防御魔法を成功させたらしい。


「やっぱお前は身体で覚えるタイプだな。実戦形式が一番合ってるわ」

「…えへへ」


 ホムラが、よくやったとエレインの頭を撫でてくれ、エレインはつい、気が緩んで魔力を解除してしまった。


 ザバンッ!


 エレインとホムラを包むように張られていた水の壁は、形状を保つのに必要な魔力の供給を突然絶たれ、一気に溢れ出した。


「て、テメェ…」

「ご、ごごご、ごめんなさっ…きゃぁぁぁ!!」


 その結果、エレインとホムラは頭から水を被ることとなり、怒り狂ったホムラにエレインが追いかけ回されることになってしまったのだった。


「早く湯浴みをしないと風邪引きますよ〜」


 ボスの間には、ホムラの怒号とエレインの悲鳴、そして呑気なアグニの声が響いた。

 

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