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【完結】パーティに捨てられた泣き虫魔法使いは、ダンジョンの階層主に溺愛される  作者: 水都ミナト@11/14『解体嬢』コミックス1巻発売
第一部 ダンジョンの階層主は、パーティに捨てられた泣き虫魔法使いに翻弄される
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44. 廃屋街の戦い

「くっ…」


 月明かりがだけが足元を照らす中、エレインは闇夜の廃屋街を疾走していた。

 後ろからはアレクが何やら叫びながら追いかけて来ている。



 廃屋の中、アレクが木の棒を振り上げ、エレインに殴りかかろうとした時ーーー


『《火球(ファイアボール)》!』

『なにっ!?ぐあっ!熱い!』


 エレインは指先に火球を作り出し、手足を縛っていた縄を焼き切った。

 そして、燃えカスとなった縄をアレクの顔目がけて投げつけ、蝶番が外れた扉を押し破って外へと転がり出た。


 火の粉を浴びたアレクは叫びながら顔や服を払うと、机に置かれていた長剣を掴み取り、怒りの形相でエレインを追った。



 そして今、エレインは必死で手足を動かしてアレクから逃げていた。


(どこか、見通しのいい広いところは…)


 廃屋街はウィルダリアの西の外れに位置している。エレインは初めて訪れる場所であるが、持ち主がおらず手入れされていない家屋が建ち並び、かなり入り組んだ構造をしていた。人の気配もない。


 ダンジョンの走り込みで鍛えたエレインは、長剣を掲げるアレクとの距離を保ちつつ、廃屋街を走り抜けていた。


(修行しててよかった〜〜〜!!)


 まさかこんな形で日々の走り込みの成果が得られるとは。だが、昼から水分を補給していないエレインの喉は張り付き、身体から滲み出る汗で服も張り付いて気持ちが悪い。


 すると、路地裏を抜けた先が急に開けた。

 どうやらかつての大通りらしい。道幅は広く、戦うにはちょうど良さそうだった。


 エレインはそこで立ち止まると、振り返ってアレクを迎えた。


「ぜぇ…はぁ…ふん、やっと、観念したか…」


 アレクは肩で息をしながら、エレインと対峙するように立ち止まった。


「ええ、観念するわ」


 エレインの言葉に、呼吸を整えていたアレクはニヤリと笑った。


「そうか、それじゃあ大人しく…」

「このまま逃げるのは難しそうだから、観念してギルドの規定を破ることにするよ」

「…は?」


 エレインは両手を突き出し、輪を作るように指で形取った。輪の中にアレクを入れて狙いを定める。


「《火球(ファイアボール)》!!」

「な…うわぁぁぁ!」


 エレインが撃ち出した火球は、勢いよくアレク目掛けて飛んでいった。アレクは叫びながらも咄嗟に長剣で火球を防いだ。薙ぎ払われた火球が廃屋に激突し、大きな音を立てて弾けた。


「ば、馬鹿な…エレインの魔法がこんな高火力なわけ…」


 アレクはエレインの火球の威力に驚きを隠せないようだ。呆然とするアレクに対し、エレインは真っ直ぐに視線を向ける。


「どうしたの?アレク、アナタが散々馬鹿にして来た初級魔法だよ」

「なっ…」


 アレクが息を呑む気配がした。エレインは静かに言葉を続ける。


「私は今、アナタよりレベルも高いし、強い」

「…は?役立たずのグズが何を言っている」

「都合の悪いことには耳を傾けない。アナタの悪い癖だね、アレク」


 エレインはそう言うと、再び呪文を叫び、無数の火球をアレク目がけて撃ち込んだ。

 アレクは必死の形相でそれらを躱すが、火球が擦り、肘の辺りが焼け焦げた。


「ちくしょう…ちくしょう!エレインのくせに…っ!」


 アレクは血が滲むほど強く歯を食いしばってエレインを睨みつけている。その目は血走っていた。


「アレク、正気を取り戻して!アナタ、どうかしてる」

「くはは!何を言っている、俺はいつでも正気さ!」


 狂ったように高笑いをするアレクは、エレインには異常な姿に見えた。


「…話し合っても無駄みたいね。ちょっと痛いと思うけど、我慢してよね」

「は?何を…な、なんだそれは…」


 エレインは集中するため、深く息を吐いた。

 補助魔法で脚力を強化し、魔力を練り上げて手のひらに集める。そして、自分を包み込むほど大きな火球を作り出した。

 エレインは、何度も補助魔法で身体を支える特訓をしてきた。その成果を実戦で活かす時が来たのだ。


「《火球(ファイアボール)》!!!!」

「くっ……そぉぉぉ!!!」


 アレクに迫る巨大な火球。

 アレクの視界は炎で埋め尽くされていく。


「俺は、俺はこんなところでやられる男じゃない!!」


 その時、アレクは懐から鏡のようなものを取り出した。そして、身体の前にその鏡を突き出し、鏡が火球に触れた瞬間ーーー


「なっ!!?」


 火球が反転してエレインに襲い掛かってきた。


 アレクが身体の前に突き出したものは、闇魔法使いから譲り受けた魔道具であった。それは、魔法をそっくりそのまま反射させる魔法が込められた手鏡だった。

 エレインが渾身の力で放った火球は、手鏡に反射して、180度向きを変えてエレインに向かって来たのだ。


 目の前に迫る業火の塊。

 火球を避ける修行はホムラと何度も行ってきた。なのに何故か地面に足が吸い付いたように動かない。


 エレインは両腕で庇うように顔を覆った。


(ヤバい…!ホムラさん……っ!)


 窮地に陥ったエレインの頭に浮かんだのは、不敵に笑う、とある鬼神の姿であった。

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