表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】パーティに捨てられた泣き虫魔法使いは、ダンジョンの階層主に溺愛される  作者: 水都ミナト@『解体嬢』『推し活幼女』6/10発売
第一部 ダンジョンの階層主は、パーティに捨てられた泣き虫魔法使いに翻弄される
37/108

36. 100人の挑戦者

「う〜〜〜ん…気になる…」

「眉間に皺寄せてどうかしたんですか?」


 エレインが手記を持ち帰ってから、早くも10日が過ぎようとしていた。その間、エレインはドリューンと共に手記の解読に励んでいたのだが、増幅魔法以外に目立った収穫は無かった。


 そしてその増幅魔法の特訓を継続しているエレインであるが、中々上手く進んでいなかった。

 今日もアグニに付き合ってもらい、朝から魔力を練り上げる修行をしていたが、とあることに意識が削がれて集中出来ずにいた。


「うん…地上から戻ってもう10日になるじゃない?いつアレクが100人の冒険者を率いてやって来るのか…気になって気になって…」

「あぁ!?まだんなこと気にしてんのかよ」

「ひょっ!?」


 挑戦者が来ずに暇そうにしているホムラがいつの間にか背後に立っていた。


「いつもいつも!驚かさないでくださいィィ!」

「へいへい」


 エレインが抗議するも、手をひらひら振って躱されてしまう。ぶすっと頬を膨らませるエレインだが、躊躇いがちに口を開いた。


「あの…私、地上に降りてアレクの動向を調べてきます」

「あ?んなことしなくてもそのうち来るだろ」

「気になるんですぅー!」


 ホムラはいつもと変わらず余裕綽々だが、エレインはホムラを打倒するために結集される100人の冒険者に、多少なりとも恐怖していた。


「ちょっとギルドの掲示板を見たら戻りますから!アグニちゃんは今回はお留守番しててね。いつアレク達が攻めてくるか分からないし」

「…分かりました」


 いそいそと外套を持ち出して着いてくる気満々な様子のアグニを制止すると、アグニはつまらなさそうに唇を尖らせた。


「では!ササッと行って来ます!」

「戻りの魔石は持ったか?」

「持ちましたー!行ってきます〜!」


 パサリとフードを被り、大きく手を振りながらエレインは地上行きの魔法陣に飛び乗った。


「ったく。アイツが居ない間に100人の冒険者が来たりしてな」

「あはは、そんなタイミングよく来ますかね?」


 エレインが地上に転移した後、残されたホムラとアグニが冗談混じりで会話をしていたが、時同じくして、ボスの間の前には着々と冒険者たちが転移して来ていることには、まだ気付いていなかった。




◇◇◇


「よっ、とと…無事着いた」


 エレインは地上に転移すると、ダンジョンの塔を仰ぎ見た。昔はこの塔が得体も知らない化け物に見えて、足を踏み入れるだけですくみ上がっていたのだが、今では何処か安心感を抱く。


「さて、ギルドに向か…」

「え……アナタもしかして、エレイン、なの?」


 エレインがダンジョンを背にして歩き出そうとしたその時。聞き慣れた声に呼び止められてしまい、思わず身体が縮み上がった。


 慌ててフードを押さえながら、隙間から確認すると、そこに立っていたのはーーー


「り、リリス…?」


 籠いっぱいに花を抱えたリリスであった。

 目を見開き、口元に手を当てながら、お化けでも見るかのように顔を青くしている。


(ど、どうしよう…逃げる?)


 かつての仲間を前に逃走を考えるエレイン。

 エレインが狼狽えている間に、リリスは籠を落としてエレインに駆け寄って来た。ふわりと花が飛び散り、辺りに柔らかな香りを漂わせる。


 身構えて目を咄嗟に瞑ったエレインの手を、リリスはぎゅっと握り締めていた。


「エレイン…ああ、エレイン…」

「り、リリス?」


 ぽろぽろ涙を流すリリスに戸惑いながらも、エレインはそっとリリスにハンカチを差し出した。ハンカチは、泣き虫のエレインにとって必需品である。


 リリスはおずおずとハンカチを受け取り、目元を押さえた。


 ダンジョン前は人目につくので、エレインはリリスを連れて近くの茶屋に移動した。


「ぐすっ、ごめんなさい、最近涙腺が弱くって」

「えっと、いや、大丈夫、だよ?」


 すんすんと鼻を啜るリリスを前に、エレインは戸惑いを隠せなかった。


(んんん?何でリリスと茶屋に入ることになってるの…?何しに地上に降りてきたんだっけ…?)


 恐る恐るリリスを見やると、ようやく落ち着いたようで、赤くなった鼻を押さえていた。


「あの、私…今、冒険者を辞めて中央神殿に身を寄せているんです」

「あ…そう、なんだ」


 ポツリポツリと、リリスが自身の近況を語り始めた。


「あの日、『破壊魔神』との戦いで、自らの過ちにようやく気付きました。少しでも償いたくて、神殿で毎日祈りを捧げています」


 気まずそうに瞳を揺らしながら、リリスが言う。エレインが要領を得ずに首を傾げていると、ガバッとリリスが頭を下げたではないか。


「あの…謝って許されることではありませんが…今まで、本当にごめんなさい…!どうしてもアナタに謝りたかったの」

「え、えぇっ!?」


 いつもアレクの側で、ニコニコ笑顔でエレインにキツイ言葉を浴びせて来たリリス。アレク程ではないが、エレインにとってはいい思い出の少ない人物である。

 だが、今目の前で、テーブルに擦り付けそうな勢いで頭を下げているリリスには、そんな面影は何処にもなかった。


 エレインは、テーブルの下で強く拳を握って、躊躇いながらも口を開いた。


「…あの頃は、本当に毎日辛かった…自分の弱さにもうんざりしてた…でも、あの日までパーティに置いてくれたことには、感謝してるの。ウィルダリアには他に居場所はなかったから。捨てられた時は絶望したけど…今はそれなりに毎日楽しく過ごしてるよ」


 へらりと笑うエレインを見て、リリスは再び唇を震わせている。涙を溢すまいと下唇を噛み締め、俯いている。


「…アナタは、変わりましたね。以前はいつもビクビクしていて、見ているこちらが苛立ってしまう程でしたもの。何だか付き物が落ちたみたいにスッキリした顔をしています」

「え、そ、そうかな…?」


 言われたエレインは照れ臭そうに頭を掻いている。


(ダンジョンでの生活で、多少は心身共に強くなったのかな…えへへ、そうだったらいいな)


 エレインが頬を緩ませていると、タイミングを見計らってウエイターが紅茶を運んでくれた。カップを同時に傾けて喉を潤しながら、2人はほっと息をついた。


「それで、なぜ地上に?」


 一息ついて落ち着きを取り戻したリリスが、エレインに尋ねた。


「あっ、そうだった!ギルドに行きたかったんだよね。その…アレクが冒険者を募って70階層にまた挑戦しようとしてるって知って…」


 当初の目的を思い出したエレインが、そう言うと、リリスの目が静かに見開かれた。


「…なんてことでしょう。つい先ほど、100人の冒険者達がダンジョン前で決起集会をして…次々とダンジョンの中へ転移していったところです。そう…70階層の踏破が目的だったのですね…」

「えっ…」


 リリスの言葉に、今度はエレインが目を見開く。ガタンっと音を鳴らして椅子から立ち上がると、エレインは銀貨を数枚机に置いて店から飛び出した。


「え、ちょっ…待って…!」


 慌てて会計を済ませたリリスが後を追ってくる。だが、エレインは振り返ることなくダンジョンへと向かう。


(あ、魔石で転移したらいいのか…!)


 肩で息をしながらダンジョンの前まで辿り着いてから、ようやくエレインはそのことに気づき、ポケットから魔石を取り出した。魔石を使おうとした時、つんっと外套を引かれる感覚がした。


「エレイン…!アナタ、まさか…」


 ゼェゼェと息を切らしながらエレインに追いついたリリスが、縋るようにエレインの外套を掴んでいた。

 70階層は今、激しい戦闘の最中に違いない。100人の冒険者が一斉にホムラの首を狙っているのだ。リリスはそんな渦中にエレインが戻ることを心配してくれているのだろう。


「…うん、行く。どんなに危険だろうと、私はホムラさんやアグニちゃんを見捨てられない」


 真っ直ぐにリリスの目を見つめ、そう言ったエレインの瞳には強い意志の光が灯っていた。


(ああ、本当に…アナタはもう昔の泣き虫エレインじゃないんですね…)


 リリスは諦めたように外套から手を離すと、両手を組んで小さく祈りを捧げた。


(どうか、どうか無事でありますように…)


 エレインは祈るリリスを和やかな目で見つめながら、魔石を強く握りしめた。


「…転移!70階層」


 そしてエレインの姿は光の粒子となり、地上から消えて居なくなった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] パーティーの中で唯一リリスだけは過ちを受け止め、罪滅ぼししてるのを知ったとき、エレインは少しだけ救われたのだろうか。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ