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【完結】パーティに捨てられた泣き虫魔法使いは、ダンジョンの階層主に溺愛される  作者: 水都ミナト@『解体嬢』『推し活幼女』6/10発売
第一部 ダンジョンの階層主は、パーティに捨てられた泣き虫魔法使いに翻弄される
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29. 解散

「う…もう朝か」


 アレクは一人、宿の自室で目を覚ました。顔を片手で覆い、ゆっくりと上体を起こす。


 昨日はこれまでの冒険者人生で、最悪の一日だった。


 これまで負け知らずだったのに、70階層の階層主であるホムラに本気を出させることすら叶わず、果てには認め難い事実を突きつけられた。


 これまで自分の力だと思い込んでいたものは、エレインが魔法で強化したものだと言う。

 実際にエレインが補助魔法とやらを行使する前と後では、身体の動きが段違いであった。エレインがいなくなった今、アレク達のパーティがこれまで通りの力を発揮することは叶わない。そもそもダンジョンの攻略を進めるためには、昨日惨敗したホムラを倒さなければならない。


 エレインを捨てたのは間違いだったのかーーー


 一瞬そのような世迷言が頭を過ったが、アレクは首を振ってその考えを打ち払う。

 例えエレインの補助魔法が優れているとしても、事あるごとにべそをかかれてはアレクの堪忍袋が持たない。エレインを排除した判断は、間違っていない。いるはずがない。


 それにしても、ホムラがアレク達を生かして地上に帰したのは、不幸中の幸いであった。体制を整えて、再挑戦をすれば、次こそは打倒できるかもしれない。


 アレクは身支度を整えると、そのような気楽な考えを抱きながら、他の3人と昨日の反省会をするために、いつもの定食屋へと向かったのだった。




◇◇◇


「……は?お前今、なんて言った?」


 全員が揃い、朝食がてら昨日のボス戦の振り返りを始めた途端、ロイドに言われた言葉にアレクの思考は停止した。


「だから、俺は自分の弱さを痛感したからパーティを抜けてソロで鍛え直す、って言ったんだ」


 ロイドの目や声音から、その意思が固いことが窺われる。


「そんなの…パーティに残ったままでも、できるじゃねえか」


 何とか絞り出した言葉だったが、ロイドは緩やかに首を振る。


「パーティだと、自分のペースで修行ができないだろう?それに、自分の意思に反したことでも、リーダーに言われたら、従わなければならない。そうだろ?」

「そ、それはリーダー命令は絶対だからな…」

「俺は、誰かの手足となって使われるのは嫌なんだ、ってようやく気づいたんだ。もし次にパーティを組むならば、パーティ全員が等しく信頼し合える…そんなパーティに入るよ」


 アレクは、ロイドの物言いに僅かな苛立ちを感じながらも、どうにかロイドを引き止めようと思考を巡らせた。だが、うまく言葉が出てこない。


 黙り込んでいると、今度はルナが顔の横で手を挙げた。


「ルナも、パーティを抜けて鍛え直すことにした」

「…は?何言ってんだよ…エレインの補助魔法とやらが使える魔法だからって、変な対抗意識燃やしてんのか?」


 アレクの言葉に、ルナはあからさまな不快感を顔に出した。


「ルナは強い。だが、もっとこの力を使いこなす必要性を感じた。エレインに負けたとは一切思っていないし、実際に負けてもいない。更なる高みへ到達するには、このパーティで馴れ合っている訳にはいかない。一人で厳しい修行に出るしかない」

「馴れ合い、だと…?」


 ルナの主張にもどこか棘を感じる。アレクが怒りで肩を震わせていると、追い打ちをかけるようにリリスが口を開いた。


「ごめんなさい。実は私も…冒険者を辞めて、神殿に勤めようと思っているの」

「リリスまで何を言ってるんだ…?しかも冒険者を辞めるだって?」

「…ええ。私は一度、犯してはならない罪に手を染めました。仲間を危険なダンジョンに置き去りにするなんて、本来人道に反すること…これからは穢れてしまった心を、神に仕えることで清め、自らの罪を償っていくことにします」

「ぐっ…」


 アレクは爪が食い込むほど、拳を握り締めた。

 どいつもこいつも、自分達のパーティを卑下することばかり言ってくる。まるで、アレクを責めるように。


「……はん、わかったぞ。昨日戦った『破壊魔神』と火竜にビビってんだろ?もう戦いたくないから逃げるんだ。エレインのことだって、お前達も散々馬鹿にして来たじゃねぇか。それを今更になって色々好き勝手言いやがって…なるほど、俺の仲間達はとんだビビリばっかりだったってことか」


 アレクが表情を歪めて苦し紛れに発した言葉が、決定的となってしまった。

 3人共、絶句し、その表情は不快感を露わにしている。


「…無理だ。もうこのパーティではやっていけん。じゃあな、俺はもう行く。一応、今まで世話になったことは感謝しているよ」


 真っ先に席を立ったのはロイドだった。テーブルに食事代を置くと、ガタンと立ち上がって店を出て行ってしまった。


「ルナも、こんなところで時間を無駄にはできない。世話になった」


 ロイドに続き、ルナも立ち上がると食事代を置いて店を後にした。アレクは縋るようにリリスを見た。が、バチッと交わった視線は、すぐにリリスによって逸された。


「アレク…自分の力を慢心しすぎてはいけないわ。きちんと我が身を振り返るのよ…それが出来なきゃ何も変わらないし、こうして人が離れて行ってしまいます。それじゃあ、今までありがとう。私は神殿にいるから、何か困ったことがあったら話を聞くぐらいならできるから…さようなら」

「っ、リリス…!」


 リリスも席を立ち、食事代を置いて店を出て行ってしまった。引き止めようと差し出した手は、空を掴むばかりで、仲間達の背中はやがて見えなくなってしまった。


「くそっ、くそっ!何なんだ…!」


 アレクがテーブルに拳を叩きつけると、ガチャンと皿がぶつかる音が虚しく響いた。


 朝の定食屋はそれなりに繁盛しており、周りのテーブルにはチラチラとこちらを見る人が何人かいた。


「喧嘩か?」

「おいあれ、アレクじゃないか?」

「まさか…パーティが解散したのか?俺応援してたんだがなぁ」


「…チッ、どいつもこいつも好き勝手言いやがって」


(70階層まで登って来れたのは誰のおかげだと思っているんだ。エレインの魔法が何だ、俺がここまで指揮してパーティを導いて来たんだぞ!?)


 アレクがきつく握り締めていた拳から、じわりと血が滲んでいる。ブツブツ虚に呟くアレクの様子を、店員が訝しんでいる。


(ちくしょう、それもこれも、全部…アイツのせいだ。エレイン…俺の人生をめちゃくちゃにしやがって!絶対に、絶対に許さない…!)


 アレクの目には憎しみの色が滲んでいた。


 この日を契機に、アレク達が70階層で敗北を期したこと、そしてパーティが散り散りになったことは瞬く間にウィルダリアに広がって行ったのだった。

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