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【完結】パーティに捨てられた泣き虫魔法使いは、ダンジョンの階層主に溺愛される  作者: 水都ミナト@11/14『解体嬢』コミックス1巻発売
第一部 ダンジョンの階層主は、パーティに捨てられた泣き虫魔法使いに翻弄される
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02. 捨てられた少女

「おぉん…?」


 堰を切ったように泣き続ける少女を前に、ホムラは戸惑いを隠せなかった。


 ボスの間の扉を潜る者は皆、階層主であるホムラを打倒するために闘志を燃やし、果敢に挑んで来る。だが、攻略対象であるホムラを見た途端に命乞いをし、泣きじゃくる冒険者は初めてだった。


「ヒック、ぐすん…うっうっ、酷い…何で…今まであんなに頑張って来たのに…置いて行くなんて…うっ、うっ、えぇぇぇぇぇん!!!」


 落ち着いたかと思ったら、また癇癪を起こしたかのように泣き喚く少女。

 ホムラはあまりの五月蠅さに、顔を顰めながら小指を耳の穴に突っ込んだ。


「ホムラ様?如何なさいましたか?」


 何か様子がおかしいと悟ったのだろう。普段はホムラの戦いの邪魔にならないように、奥に控えているアグニが様子を見に来た。

 ズゥンズゥン…と巨体を揺らして歩み寄る火竜の姿に、みるみるうちに少女の顔が青くなっていく。


「ん?挑戦者は一人だけですか?珍しいですね。それで、もう勝負はついたので?」


 アグニは品定めするように少女に顔を寄せ、大きな鼻で匂いを嗅いだ。


「ひっ…ドラ、ゴン……きゅぅぅ」


 鼻がつくほどの距離でアグニに見据えられ、生ぬるい鼻息を浴びた少女は目を回して気絶してしまった。


「あっ!?どうしましょうホムラ様!?」

「どうもこうもねぇよ。ったく何だったんだァ?」


 ホムラはため息を吐くと、灼刀を鞘に納めた。そして、ひょいと少女を肩に抱えるといつものように魔法陣へと向かおうとし、ふと歩みを止めた。


『うっうっ、酷い…何で…今まであんなに頑張って来たのに…置いて行くなんて…』


 どうも少女の言っていたことが気に掛かる。


「アグニ、そろそろ日が暮れるよな?もう今日は挑戦者は来ねぇよな」

「え?ああ、そうですね。地上はそろそろ日が落ちる頃かと」


 ダンジョンの魔物や魔獣は、夜になると活発になり、その凶暴性を増す。

 そのため、冒険者ギルドは夜間のダンジョン攻略を推奨しておらず、身の危険を呈して挑戦しに来る冒険者もほとんどいない。実際に夜間帯にホムラに挑みに来た挑戦者はこれまで一人も居なかった。


「だよな。じゃ、こいつ連れて()に戻るか」

「えっ!?()に冒険者を連れて行くんですか?…大丈夫ですかね?」

「あー?問題ねぇだろ。ほら、行くぞ」


 少女を肩に担いだまま、ホムラは後ろ手を振りながらボスの間の玉座へ向かう。アグニも慌ててホムラの後を追う。


 ホムラが玉座の後ろの壁に手をかざす。壁が一瞬青白い光を放ったかと思うと、長方形の形の空間が現れた。そして、ホムラはスタスタとその中へと歩みを進めて行った。


 ーーーこうしてホムラの気まぐれにより、少女は地上へ帰る機会を逃してしまったのだった。


◇◇◇


「う…んぅ」

「あっ!ホムラ様っ!目を覚ましたようです!」


 淡い水色の髪の少女が目を覚ますと、見知らぬ天井が目に入った。

 ぼんやりする頭でここがどこか考える。何故だか頭が酷く痛み、鉛のように重い。

 視界の端で、パタタタっと小さな子供が駆けて行く。誰かを呼びに行ったようだ。


 右手で頭を押さえながらゆっくりと身体を起こす。どうやらベッドに横になっていたらしい。


 少女はそのままベッドに座り、頭を押さえたまま記憶を呼び起こす。

 そうだ、いよいよ70階層のボスの間に挑もうという時に、所属していたパーティのリーダーに肩を押されて…それで階層主らしき男が現れて…巨大な真っ赤な火竜が目の前に…


「はっ!ドドドドドラゴンはっ!?」


 意識が途切れる直前、眼前に迫った恐ろしい火竜。鎧のような鱗に紅く鋭い眼球。思い出しただけで身の毛がよだち、涙が溢れ出す。

 布団で自身の前に何とも頼りのない壁を作り、キョロキョロと辺りを見回す。どうやらここには火竜は居ないようだ。


「ドラゴンはいないのね。ほっ」

「この人一体何言ってるんです?馬鹿なんですか?目の前にいるじゃないですか」

「いやお前、今の姿だと仕方ねぇだろが」

「ああ、そうでした」


 安堵の息を吐いた少女を、いつの間にかベッド脇まで戻って来ていた赤髪の小さな子供が、憐れむような瞳で見上げている。その背後には、着物を着流した朱色の髪の男が気怠げに立っていた。片肌を脱いだその姿には、妙な色気が漂っていたが、その頭に生える二本の灼角がその男が何者かを物語っていた。


「ひ…は、破壊魔神……ん?ドラゴンが目の前にいるってどういう…え?」

「あらら、だいぶ混乱しているようですよ」

「そりゃそうだろ。アグニ、お前が説明してやれ」

「え〜〜〜〜〜ホムラ様はいつもそうやって面倒ごとをボクに押し付けるんだから」

「ははっ、悪りぃって」


 血の気が引きすぎて顔が真っ白になっている少女を置いて、ホムラと呼ばれた男とアグニと呼ばれた子供がやんやと言い合いをしている。

 少女は訳が分からずに目が回りそうだ。実際に目を回して倒れたばかりなのだが。


「えーっと、あなたはここ70階層のボスの間にやって来たんですけど…ボクの顔を見て気絶してしまったみたいで…とりあえずこの居住の間まで運んで来たんですよ」

「で、今はこんな(なり)をしてるが、こいつがお前がぶっ倒れた原因の火竜な。あのデケェ図体で生活されたら邪魔で仕方がねぇんで、普段は子供の姿に擬態してるってわけだ」

「は、はぁ…え?」


 ホムラとアグニの顔を交互に見つめる少女は、何が何だかという様子だ。改めてよく見ると、アグニの背中には小さな紅蓮の翼が生えていた。


「そのまま地上に帰しても良かったんだが、何か事情がありそうで気になってな。興味本位で連れて帰って来た。暇だったし。面白そうだし」

「ホムラ様本音がダダ漏れです」


 ホムラの説明にアグニが呆れたように溜息を吐く。そして少女に向き合って言った。


「今更ですが、ボクの名前はアグニ。火竜です。そしてこちらが70階層の階層主である炎の鬼神・ホムラ様です。それで、あなたのお名前は?」

「え、と………エレイン、です。冒険者で…職業は魔法使い(ウィザード)をしてます…」


 びくつきながらも自己紹介をする魔法使いの少女・エレイン。


「エレインね。それで、何でお前は一人で挑みに来たんだ?置いて行かれただとか言っていたが、大扉の前まではパーティを組んで来てたんじゃねぇのか?」


 ホムラの言葉に、その時のことを思い出したのか、エレインはハッと表情を強張らせた。そして見る見るうちに瞳いっぱいに涙を溜めて、今にも泣き出しそうになりながらも、声を震わせながらこう言った。


「わ、わだし…すっ、捨てられたみたいですぅぅぅ」

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