14. レベリング
「…お前本当に、よくここまで生きて来られたな…逆の意味で感心するわ」
「それ、絶対褒めてないですよね!?」
レベリングしていない様子のエレインに、ホムラは溜息が止まらない。
「はぁー…レベリングしてないとか、無いわァ」
「ぐっ…だ、だって…毎日必死過ぎて……つい、うっかり?その…忘れてました」
ははは、と力無く笑って頭をかくエレインに、ホムラは何度目か分からない溜息をついた。
ーーーレベリングとは、ダンジョンで得た経験値を振り分ける行為を指す。
冒険者はダンジョンでの探索や戦闘を通じて、レベリングに必要な経験値を得る。得た経験値は、振り分けをしないと蓄積されていく仕組みになっている。
振り分け先の能力は次の通りだ。
・体力…いわゆるHP。体力が増強される。
・攻撃力…物理攻撃に関わる数値。高ければその分物理攻撃の威力が上がる。
・魔力…いわゆるMP。魔力値が低いと高位の魔法が使えない。
・耐久力…物理・魔法攻撃耐性。防御力。
・知力…文字通り。咄嗟の機転や判断力に関わる。
・精神力…精神力が低いと、精神攻撃に弱くなる。一定値鍛えておく必要がある。
各ステータスの上限値は1000であるが、各自の生まれ持った素養により、基礎ステータスが違うため、全てを上限まで極められるとは限らない。
冒険者は、《ウィンドウ》と呼ばれる自分にしか見えないステータスの画面がある。そこで自らのステータスや保有している経験値を確認し、さらにレベリングでその経験値を振り分けることができる。
そして、一定数経験値を振るとレベルが上がる仕様になっている。
「おら、《ウィンドウ》開いてみろよ」
「は、はい…」
ホムラに促され、エレインは手を宙に翳し、上から下に手首を動かした。
すると、ブゥンとエレインにしか聞こえない音がし、眼前に青い半透明の画面が現れた。
この画面を開くのはいつぶりだろう…エレインは記憶を辿るが、思い出せない。パーティに参加したのが20階層到達時。40階層あたりまではしっかりとレベリングをしていた気がするが…50階層に到達する頃には、毎日パーティに縋り付くのに必死過ぎて、家に帰っても泥のように眠って、また翌朝ダンジョンに潜る繰り返しで、ステータスの確認を疎かにしてしまっていた。
久々に見るステータスは中々に頼りないものだった。
【エレイン/魔法使い】Lv.38
・体力…360/1000
・攻撃力…120/1000
・魔力…420/1000
・耐久力…330/1000
・知力…200/1000
・精神力…230/1000
「ええっと…経験値、経験値……ってめちゃめちゃ経験値貯まってる…!?」
ステータス画面の下部に記されている獲得経験値を確認するも、今まで見たことのない桁数に、エレインは思わず三度見してしまう。その様子を呆れた様子でホムラが見ている。
「お前ほんとよく冒険者を名乗れたよな。レベリングは基本中の基本だろうが」
「ぐぅ…返す言葉もありません…」
「ほら、経験値振り分けしてみろ。とりあえず魔力に多めに振りつつ、あとは均等に数値を上げておけ」
「はっ、はひ!」
ホムラに促され、エレインは《ウィンドウ》で経験値を振り分けて行く。
そうこうしている間に、アグニがほかほかの料理を手に戻ってきた。
「ん?何してるんですか?」
「実はな…」
ホムラから事の次第を聞いたアグニは、ホムラ以上に呆れた顔をしてエレインを見た。当の本人は、膨大な経験値のレベリングに悪戦苦闘していてアグニの視線には気づいていない。
「はぁ…ほんと呆れ過ぎて何と言っていいのか…とりあえず暖かいうちに食べましょう」
「おう、そうだな。今日も美味そうだ」
「ふっふー。ヒートスタンプのステーキに、48階層で採取したポフェの実と肉を絡めた甘辛炒め、それとデザートにもポフェの実です」
エレインを置いてさっさと料理の皿に手を伸ばすホムラ。エレインが経験値を振り終わる頃には、自分の料理を平らげてしまっていた。
「あー!?自分だけ先に食べてズルいですよ!?そのヒートスタンプを倒したのは誰だと思ってるんですかぁぁ!?」
一息ついてテーブルを見たエレインが絶叫する。ホムラは満足気に細長く切り出した木の枝で、歯間に挟まった肉の筋を取っている。
「それで、レベリングは終わったのか?」
「そ、それが……」
チラチラと《ウィンドウ》を確認しつつ言い淀むエレイン。現実を受け止めるのに苦戦しているようだ。
「もったいぶるなよ、結構レベル上がったんだろ?」
ホムラは、エレインは60レベル後半には達していると概算していた。
「えっと…な、78レベル……です」
「はぁ!?78ィィ!?」
「ひいっ!」
想定以上の数字に思わず絶叫してしまった。どんだけパーティに犠牲にされてきたんだか…
「…とりあえず飯食ったら詳しい数値を聞かせろ。そのあと模擬戦だ」
「は、はい…あ!美味しそうぅぅ…アグニちゃん料理上手ですね!いただきます!」
「その呼び方やめませんか?」
すっかり冷めてしまっていたが、エレインの呼び方に眉根を顰めるアグニをよそに、エレインは料理を満足そうに口に運んでいた。




