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【完結】パーティに捨てられた泣き虫魔法使いは、ダンジョンの階層主に溺愛される  作者: 水都ミナト@11/14『解体嬢』コミックス1巻発売
第一部 ダンジョンの階層主は、パーティに捨てられた泣き虫魔法使いに翻弄される
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13. 経験値

「よぉ、ご苦労だったな」

「ほ、ホムラさぁぁん…グスッ、酷いですよ…」

「まあ結果よければ全てよし!だ」


 エレインがヒートスタンプ達を倒したことを確認したホムラとアグニは、へたり込むエレインの元へやって来た。エレインの顔は相変わらず涙でぐしょぐしょだ。


「さぁて、大量だな。ここで捌いて持って帰るか」

「ですね〜とりあえず川に運んで血抜きしましょう」


 ホムラとアグニは慣れた手つきでひょいひょいとヒートスタンプを2匹ずつ担いで森に向かって行く。ホムラはまだ分かるが、見た目が子供のアグニが軽々と身体の何倍もの大きさがあるヒートスタンプを担いでいるのに、エレインはあんぐりと口を開けている。


(普段は小さくて可愛いから、つい忘れちゃうけど…アグニちゃんって火竜だった…)


「おい、行くぞ。立てるか?」


 ぼーっとしていたらホムラに発破をかけられた。慌ててグッと足に力を込めて立ち上がり、ふらつく身体を杖で支えつつもホムラ達の後を追った。




◇◇◇


 ホムラとアグニが流れるようにヒートスタンプの血抜きから部位の切り分けまでを難なくこなし、その間にエレインは森の中で目ぼしい果実やついでに薬草なんかを採取した。


 そして満足げなホムラに続いて、アグニが用意した魔法陣で70階層へと戻ってきた。


「じゃあ、僕は調理して来ますので、少し待っていてください」


 アグニはそう言うと、調理場へと消えていった。普段から料理はアグニが担当しているらしい。ダンジョンで生まれた魔物やモンスターは、基本的にはダンジョン内にいれば身体が魔素を吸収して生命力を維持できるらしい。そのため、食事をしなくても生きてはいけるようだ。

 だが、ホムラとアグニに関してはそれだとつまらないので、積極的に狩りに出ては作った料理に舌鼓を打っているらしい。ダンジョン内には娯楽と呼べるものも無いので、数少ない楽しみなのだとか。


「さて、と。おチビ、お前に聞きたいことがあるんだが」

「はっ、はひっ!…なんでしょうか?」


 ホムラと対面するようにソファに座っていたエレインは、びくりと背筋を正す。ホムラはソファで胡座をかきながらジッとエレインを見ていた。


「お前、レベルは幾つだ?」

「れ、レベル…?えっと、確か38…ぐらいだったかと」

「ハァァ!?!?38レベルで70階層まで生き延びたってのか!?お前マジか」

「ひぃぃっ…なんかすみませんん」


 エレインの解答にホムラは思わず叫んでしまった。


 冒険者には知られていないが、ダンジョンを順当に攻略していけば、到達階層に匹敵するレベルに達することができるのだ。つまり、70階層まで登りつめたのなら、70レベルに近い実力を保持しているはずである。

 ところがエレインは38レベルだと言う。


「………お前、さっき一人でヒートスタンプ4匹倒したよな」

「は、はい…一人で戦えって誰かさんが言うから…」

「あ?」

「ひっ、何にも言ってません!!」


 エレインがポロッと漏らした不満に、ホムラが鋭い目を細めた。が、気を取り直したように話を続ける。


「いや、お前のレベルだと倒すにはかなり厳しいんだよな」

「あ…確かに倒し方を知らなければ、死んでいたのは私だったと思います…」


 エレインはヒートスタンプの攻撃を受けて吹き飛ばされる自分を想像し、身震いをした。


「その…アレク達のパーティに居た時にヒートスタンプの群れに遭遇したことがあって…その時も私を囮にしてみんなが逃げて行って、補助魔法で武器を強化したり脚力を強化して何とか生き延びたんです。倒した時にはもうみんなダンジョンの外まで逃げてましたけど…はは…」

「……マジで不憫だな」

「そ、そんな憐れむような目で見ないでくださいいい」


 なるほど、やはり今までの不遇な経験がエレインの中で積み重なって、戦闘経験だけは多いようだ。ホムラは納得したように頷く。

 だが、そうなるとーーー


「それで、お前のパーティメンバーのレベルはどんなもんなんだ?」

「えっと…今どうか分からないですけど、みんな50は超えていると思います…いつも一人レベルの低い私を馬鹿にして来ましたから…ははは…」

「50、ね」


 ホムラの推測は恐らく的中しているだろう。本人達がどう思っているのかは知らないが、エレインのパーティメンバーのレベルも低すぎる(・・・・)

 レベルが足りない部分は、エレインの補助魔法で底上げしてこれまで何とかなっていたのだろう。


 ホムラが知るところではないが、基本的にレベルというのは自らの実力を示すものであるのだが、開けっ広げに吹聴するものでもない。そのため、他のパーティや冒険者とレベルの話をしないというのが暗黙のルールになっていたりする。だからこそ、自分達のレベルが到達階層に応じているのかの判断ができないのだが。


 エレインの元仲間達は、エレインに窮地を任せすぎて、本来得るはずの経験値を得ずにここまで来たのだろう。

 だとすれば、彼らが得るはず(・・・・)だった(・・・)経験値は(・・・・)どこに行ったのか(・・・・・・・・)


 当然、彼らの分まで奮闘し、戦ってきたエレインが獲得しているはずだった。


 だが、当の本人のレベルは非常に低い。

 その上、先ほど倒したヒートスタンプから得られた経験値を振り分ける素振りもない。


 ホムラは、冒険者であるならあり得ないことだが、もしやと思いエレインに問うた。


「…お前、レベリングはちゃんとしてんのか?」

「れ、レベリング……?あっ!?!?」


 キョトンと目を瞬かせるエレインは、しばらく思考を巡らせてから目を見開いた。


 その様子から、しばらくレベリングしていなかったことは明白でーーー


「お前マジかよ……」


 ホムラは、(こうべ)を垂れながら深く深く息を吐いたのだった。

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